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いや・・・もう遅いんだけどね。

この子達も貴族の子息子女なら、行動する前にもっと考えるべきだったのよ。
自分たちのこの行為は貴族社会では許されないってことを・・・まあ、自業自得と言うやつだ。


そんな事よりもだ!

マジ足首痛いし、マジ寒い・・・
早く終わらせて帰って熱っいお風呂!お風呂!お風呂!


「さて、先程から皆さまは勘違いしているようですが・・・はっきりと申し上げます!私とハイアー様は婚約しておりません!」

え?って顔をする者。
疑わしく見てくる者。
嘘をつくなと怒鳴る者。

「ただの顔見知り程度ですのよ?一体誰にそんなデマかせを吹き込まれたのですか?」

「ま、マーガレット王女が・・・」

「マーガレット王女本人からディハルト様にハイアー様を奪われたと・・・」

「恋人同士なのに公爵家の力で引き裂かれたと・・・お、仰って・・・」

マーガレット王女もバカなのかな?
上手く誘導したつもりかも知れないけど、簡単に嘘だとバレるよね?

「マーガレット王女の言葉を貴方たちが信じた結果、私は集団に囲まれ、暴力(突き飛ばし)まで振るわれましたのね?これがどういう結果になるかお分かり頂けますか?」

「ど、どうなるんだ?」

「私はディハルト公爵家の娘ですのよ?その私に暴力を振るったのです。それも訳の分からない言いがかりを付けて!証人もたくさん居ますわ」

顔色を悪くする何人かは気が付いたようね。

「お、俺たちの後ろにはトライガスの王女がついている!公爵家だろうが王家には敵わないはずだろ!」

バカがここにもいた。

「マーガレット王女は1年間の留学ですよ?その後は?あなた達が学院を卒業した後まで貴方たちを守ってくれるのかしら?」

「そんなもの学生の間の戯れで済む」

「あら?それで私が、いえ、我がディハルト公爵家がこんな仕打ちを水に流すとでもお思いですか?」

「・・・・・・」

「皆さん、帰ってからご両親に今日私に集団で何をしたかお話になってディハルト公爵家までお手紙をくださいな」

「・・・・・・」

「貴方たち、卒業どころか学院内で公爵令嬢に暴力を振るったのですから何かしら学院からもお咎めがありますわよ?」

想像したのでしょうね。
令嬢達なんて真っ青になって震えているけど!
でもね!本当に震えるほど寒いのは私だからね!

「う、うるさい!大体お前が王女の邪魔ばかりするから!」

木刀を持っていた男子生徒がそれを私に振り下ろそうとした・・・
ヤバい!頭だけは守らねば!当たりどころが悪ければ死ぬ!
うん、こんな場面でも冷静な私はやっぱり図太いわ!

目を瞑って腕で頭を守りながら痛みに備えていたけれど、ガツッと音がしても私は痛みを感じなかった。

恐る恐る目を開けてみれば広い背中が・・・

「ねえ?教えてくれるかな?なぜか弱い令嬢に手加減なしで木刀を降りおろせるのかな?」

「で、で、でで殿下・・・ち、ち、違っ」

「まあいいや、ヴィクトリア嬢が言ったように親に報告して返事をディハルト家に送るように。ああ、君たちの名前は既に控えているからね。返事をしない者はそれなりの処分があると思っていいよ。それと見物しているだけの君たち、このことは他言無用だ!わかったね?」

私を庇うように立っていたのはドルチアーノ殿下だった・・・。

ガツッて音がしたよ?
木刀がどこかに当たったんじゃないの?
足首の痛みも、寒さもどこかにぶっ飛んだ。

「だ、大丈夫ですか?ドルチアーノ殿下」

私の声に答えるように、振り向いた殿下の額からは血が流れていた・・・

困った顔で「来るのが遅くなってゴメンね。怪我はないかい?」って上着を脱いで私に掛けてくれた。

「わ、私のことよりも殿下、殿下の額から血が・・・」

慌ててハンカチを出したけれど、びちょびちょで使い物にならない。

「大丈夫だよ。僕は男だからね顔に多少傷があっても誰も気にしないよ」

なんでもない事のように笑顔を向けられても、はいそうですかって言えるわけないでしょう!

周りを見渡してもドルチアーノ殿下といつも一緒にいる子息達は、怯えて動くことも出来ない集団に何か話しかけている。聞き取りかな?
それに、ドルチアーノ殿下に傷を負わせたであろう子息は拘束され、血の気の引いた顔でブルブル震えて立つことも出来ないようだ。

「ここは彼らに任せて、ヴィクトリア嬢は医師に診てもらおうか」

え?

「左足を怪我しているよね?」

・・・なんで分かったの?
誰にも気づかれないように顔にも出さなかったのに・・・

「ここに来る時ヴィクトリア嬢の後ろ姿を見ながら走ってきたんだよ。いつもよりも右に重心がズレていたからね、左足を庇っているのが走りながらでも分かったよ」

だからゴメンねって言いながら私をお姫様抱っこした・・・

「で、殿下!歩けます!わ、私、自分で歩けます!降ろして下さい!」

「ダメだよ?もう少しだけ我慢してね」

「そんなっ!怪我をしている殿下にこれ以上負担をかけたくありません!」

「ん~ヴィクトリア嬢を抱き抱えても負担になんかならないよ。落としたら危ないから少しじっとしていてね」

でも、今も額からは血が流れているんだよ?

「このまま僕の馬車で王宮に向かうよ。この時間なら公爵もルイス殿もリアム殿もまだ王宮にいるし、王宮の医師にも診てもらえるからね」

もう頷く以外できなかった・・・



・・・・・・なぜ???

「ゴメンね。これ以上ヴィクトリア嬢を冷やさない為だから我慢してね」

馬車に乗り込み、積んでいた毛布で体を包んでくれたけれど、寒さで歯はガダガダするし震えも止まらない。
だからってドルチアーノ殿下の膝の上はないでしょう!
でも、寒すぎて言葉が上手く話せなくて断ることも出来なかった・・・
ドルチアーノ殿下はもう一度「ごめんね」と言って私を優しく包み込んだ。

彼のその腕の中は・・・意外と暖かかった・・・
まるで兄様たちみたい。


私たちの乗った馬車よりも、知らせの方が早く届いたようで馬車が到着するとお父様とルイス兄様が既に待っていた。

ドルチアーノ殿下に包まれている状態の私を見ても流石お父様とルイス兄様だ。
冷静に殿下の傷を見て、私よりも殿下を優先してくれた。当然か!

私を抱いたまま歩こうとするドルチアーノ殿下から「妹は私が引き受けますから殿下は先に怪我の治療を受けて下さい」と言って今度はルイス兄様にお姫様抱っこされた。

ルイス兄様の抱っこは安心したけれど、殿下と触れ合っていた場所が一気に冷えた気がした・・・。
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