上 下
27 / 67

27 ドルチアーノ殿下視点

しおりを挟む
~ドルチアーノ殿下視点~

ひと目だけ、ちょっとだけ顔を見ればすぐに去るつもりだったのに・・・

ディハルト嬢が僕を含め護衛の者まで滞在を勧めてくれた。
気を使わせて申し訳ないと思う気持ちよりも、僕に対する彼女の警戒心が少しだけとけたことが嬉しくてつい甘えてしまった。

もう彼女を我儘だとか、傲慢だとは欠片も思っていない。
すべて僕の思い込みだったと・・・もう手遅れだけど再度後悔した。

滞在初日の夕食では、僕の供の者にまで同じテーブルに付くことをされた。
固辞する護衛達に『みんなで食べた方が美味しいでしょう?それに、もうご用意致しましたわ』
困った顔でお願いしてくる彼女にまた甘えてしまった。

実際出された食事は、新鮮なのもあって美味しく、気さくな彼女の雰囲気が遠慮する共の者たちの緊張も解し会話も弾んだ。

次の日の市場では昼食は新鮮な魚介類が食べられる食堂に案内され、彼女のおススメが出てきた時は僕も護衛たちも驚かされた。
生の魚なんて初めてだったからだ。
『海鮮丼』というその料理は、彼女が考案したそうで食堂の名物料理になっているそうだ。

目の前で大きな口を開けてひと口食べる度に『お~いし~い』と蕩けるような顔を見て僕たちも恐る恐る食べてみた。
新鮮な魚があんなにも美味しいものだったなんて知らなかった。
海のある領地はディハルト領だけではなかったが、今までの領地で生魚を提供されたことなどなかった。
実際、昨日の夕食も魚料理はすべて火を通されたものだった。

それからは彼女に案内してもらった先々で、勧められる度に何でも食べてみた。
もちろん毒見後だけれど。
彼女はどこでもよく食べ、よく笑って、周りを和ませていた。
庶民に溶け込む彼女はどこに行っても歓迎されていた。

迷子を見つければ、率先して親を探そうと動き、肩車までしようとしたのには僕たちも驚かされた。
彼女よりも背の高い僕が肩車をすれば、迷子の子が羨ましかったのか『私も肩車して欲しい』と僕の護衛でも一番体格のいい騎士にお願いまでする彼女にもう何度目かも分からない驚きを与えらた。
もちろん丁寧にお断りした。(が正しいか)

彼女のお昼寝シートにも距離は離れているが一緒に転がって話したり、僕もつられて昼寝をする体験もできた。彼女は僕を男だと意識すらしていないようだ。

僕もいつの間にか『ヴィクトリア嬢』と呼ぶようになり、僕に慣れたのか気づけば口調も親しい友人と話すかのように砕けたものに変わっていった。

彼女と過ごす時間が楽しくてあっという間に時間が過ぎていた。
結局、2、3日滞在するつもりが1週間も甘えてしまった。

見送ってくれるヴィクトリア嬢と使用人に感謝を伝え帰路に着いた。
何度か視察の経験はあったが、こんなに楽しい視察は初めてだった。

『最後まで私達にも態度を変えない優くて、可愛らしいご令嬢でしたね』

ディハルト公爵家の使用人は護衛たちにも丁寧に接してくれた。
これは他の領地では珍しい事だったりする。

『次の視察もお供させていただきたいものですね』

彼らもしっかりとリフレッシュ出来たようで満足顔だ。

『そうだね。また来たいね』

次にヴィクトリア嬢に会えるのは学院が始まってからだ。
その時にも、友人のように接してくれたら嬉しいな。




王宮に戻ってからは各領地の報告書作りで僕の長期休暇は終わった。
それでも、今まで一番充実した思い出に残る休暇には違いない。


アレクシスはする事がないのか、相手をしてくれるマーガレット王女が居ないからか、騎士団の鍛錬に参加しては、リアム殿にボコボコにされていたと報告を受けた。

体格で言えば、兄のルイス殿の方が騎士に近い身体付きだが、才能に恵まれたのはリアム殿の方だった。
長身だが、細いとも言える体格で眉目秀麗な顔は訓練中ですら涼しい顔で相手を簡単に打ちのめしていく。

リアム殿は母方の実家、代々王宮騎士団を率いるバトロア侯爵家を継ぐに相応しく、幼い頃から天才だと一目置かれてきた。

そのリアム殿に相手をしてもらえたんだ、よかったじゃないか。
アレクシスも剣術の腕は確かだが、天才には敵わなかったようで、ボロボロにされたと聞いた。
それを聞いても悪いが"ざまぁみろ"としか思えなかった。





マーガレット王女はまだ戻って来ていないようだ。

もちろんマーガレット王女のことを心配している訳ではない。
帰ってきて王女がヴィクトリア嬢を傷つけないかが心配なんだ。
あの屈託のない笑顔が消えてしまわない事が僕の願いだ。
だからマーガレット王女。
ヴィクトリア嬢を巻き込んだりしないでね。

アレクシスは届きかけていた手を自ら失ったよ。

でも、君が失うものはアレクシスの比じゃないんだからね。
すべてを失う前によく考えて行動した方がいいよ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。

夜乃トバリ
恋愛
 シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。    優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。  今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。      ※他の作品と書き方が違います※  『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...