上 下
53 / 122
ウインティア王国編

53

しおりを挟む
あのセルティ嬢との一件以来、俺に近づく令嬢はいなくなった。

セルティ嬢はいまだに取り巻きを引き連れているが、あの場面を見ても離れていく取り巻きはいなかったようだ。
それだけの魅力がセルティ嬢にあるのか?

俺には彼女の思考が分からない。

視線は常に感じるがそれは今までも感じていたことだ。

だが、その中にセルティ嬢の視線は他の視線とは明らかに違う。

何を狙っているのか、何を企んでいるのか分からないが、まだ俺の婚約者の地位を狙っているのは間違いないようだな。

ゾルティーにほかの生徒たちの前で恥をかかされても関係ないんだな。
どんな心臓だよ。
ただ図太いのか、バカなのか、何をしでかすか分からない。


だから学園内でこそ気が抜けない。
こんな状況に息が詰まる。

まあ何をしようが俺がセルティ嬢を選ぶ事だけはないがな。



2年も終わる頃には、今まで大人しかった『マイ』が動き出した。
あのお茶会で『マイ』の本性を見たはずなのだが、騙されるバカな男たちがまだいたようだ。

男たちを侍らし、儚げな見た目を利用している。

アトラニア王国でも同じだったな。

あっちでもレイが悪役令嬢?にされる予定だったとアランが言っていたな。
それをバカな自称ヒロインがエリーに濡れ衣を着せようとして自滅したんだ。

バカな子息たちと王子を巻き込んでな。

結局、人を陥れようと企むような奴には天罰が下るってことだ。

さて、もうゲーム期間もあと一年だ。
あの女はどう動く?
そして、セルティ嬢は?







3年に上がって一週間。

奴らは同時に動き出した。
それも同じ手を使ってな。
ゾルティーの黒い笑顔が降臨だ。


セルティ嬢とマイが同時にイジメや嫌がらせにあっていると言い出した。

お前たち常に取り巻きを引き連れていて、なぜイジメや嫌がらせをされていると言えるんだ?

マイはともかく、セルティ嬢もバカだったのか?

食堂に続く通路はセルティ嬢の取り巻きと、マイの取り巻きで言い争いの騒ぎになっているとゾルティーが知らせに来た。

楽しそうだなゾルティー。

面倒だが、これ以上セルティ嬢の派閥を大きくする訳にはいかない。
終わりによう。

ゾルティーの側近候補の1人に教師を呼びに行かせ、騒ぎの元へゾルティーと向かう。



守るように子息たちがあの女を囲んでいるな。
あの女は目に涙を浮かべて怯えるようにセルティ嬢を見ている。

すごい演技力だな。
上手く本性を隠している。
野次馬の中にはあの演技に騙されている者もいそうだ。

セルティ嬢も取り巻き達に守られるているように見える。

嘘を信じる子息たちと、嘘を信じる令嬢たち・・・コイツら貴族の教育を受けていないのか?

確認もせずに信じきるなんて、騙されていたとしても言い訳は出来ないぞ。

よく見ると、次男や次女が多いな。
まだこれは救いだな。

「なんの騒ぎだ!原因は何だ!」

「ルフラン殿下、最近わたくしの私物が壊されたり、隠されたりするのです」

セルティ嬢が両手を胸の前で祈るように組み俺に涙目で訴えてくる。

「だからなんだ?」

「マイさんに違いありません」

決めつけた言い方をするんだな。

「何故言いきれる?見たのか?」

「私はそんなことしないわ。私がやった所を誰か見た人がいるの?」

当然頷く奴なんて居ない。

「それで?お前は?」

「私だってそうよ。この間なんかセルティさんに噴水に落とされたの」

公爵令嬢をさん付けね。
しかも指まで指している。
なんでバレる嘘をつくんだ?

「わたくしそんな事しておりませんわ」

「いい加減にしろ!お前たち2人とも常に取り巻きに囲まれていて、いつ一人の時間があるんだ」

騒いでいた2人の取り巻きも野次馬たちも、冷静になったのか『言われてみれば』『確かに』などと言っている。

あの女もセルティ嬢も顔に焦りが出でいる。
こんな公衆の面前で嘘をついて、人に有りもしない罪を被せようとしたんだ。

「でも、わたくし嘘など申しませんわ。わたくしをよく知るルフラン殿下なら分かっていただけますわよね」

まだ言うか。なにがよく知るだ。

「いや、セルティ嬢のことは他の令嬢と同じくらいしか知らないがな」

「そんなはずありませんわ。毎日一緒にいたではありませんか」

俺との関係をここで見せつける作戦か。
いつまで婚約者気取りなんだ?
以前ゾルティーに言われた事を忘れたのか?
そろそろとどめを刺すか。

「ねえ、セルティ嬢の言う毎日一緒にいたのって、兄上を待ち伏せして婚約者のフリをして、兄上の横を勝手に歩いていたことを言っているの?あの時も迷惑だと言ったよね」

ゾルティー皆の前でそれを言うのか。
お前本当に容赦しないな。

周りがザワザワし出すと、プライドを傷つけられたのか悔しいのか俯いてしまった。
もう終わりか?

「それでお前は誰を陥れようとしたのか分かっているのか?」

今度はマイに殺気を込めた目で睨むと震えだした。

「お前が転移者だとしても、2年もこの世界にいるんだ。何も知らなかったはもう通用しないぞ」

本当に学習しないバカだな。

嘘をついたことがバレた2人は何も言えないようだ。
2人を蔑み嘲笑う声が聞こえる。
女って怖いな。



この茶番を終わらせようと口を開けかけた時、懐かしい俺の好きな優しい香りがした。




「何を騒いでいるの?」
しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【本編完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです

八重
恋愛
社交界で『稀代の歌姫』の名で知られ、王太子の婚約者でもあったエリーヌ・ブランシェ。 皆の憧れの的だった彼女はある夜会の日、親友で同じ歌手だったロラに嫉妬され、彼女の陰謀で歌声を失った── ロラに婚約者も奪われ、歌声も失い、さらに冤罪をかけられて牢屋に入れられる。 そして王太子の命によりエリーヌは、『毒公爵』と悪名高いアンリ・エマニュエル公爵のもとへと嫁ぐことになる。 仕事を理由に初日の挨拶もすっぽかされるエリーヌ。 婚約者を失ったばかりだったため、そっと夫を支えていけばいい、愛されなくてもそれで構わない。 エリーヌはそう思っていたのに……。 翌日廊下で会った後にアンリの態度が急変!! 「この娘は誰だ?」 「アンリ様の奥様、エリーヌ様でございます」 「僕は、結婚したのか?」 側近の言葉も仕事に夢中で聞き流してしまっていたアンリは、自分が結婚したことに気づいていなかった。 自分にこんなにも魅力的で可愛い奥さんが出来たことを知り、アンリの溺愛と好き好き攻撃が止まらなくなり──?! ■恋愛に初々しい夫婦の溺愛甘々シンデレラストーリー。 親友に騙されて恋人を奪われたエリーヌが、政略結婚をきっかけにベタ甘に溺愛されて幸せになるお話。 ※他サイトでも投稿中で、『小説家になろう』先行公開です

処理中です...