【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana

文字の大きさ
上 下
43 / 122
ウインティア王国編

43

しおりを挟む
~レックス視点~


結局夏季休暇の間でウォルシュ嬢に会うことは叶わなかった。

もう彼女はアトラニア王国の留学先に帰ってしまったのだろう。
次に会えるのはいつになるのだろうか?


少し調べると、ウォルシュ侯爵家のアラン殿もウォルシュ嬢も他家のお茶会などには参加したことがなかったようだ。

王宮でのお茶会以外では我が家のお茶会が初めての参加だったようだ。

あの時ガルザークさえ邪魔に入らなければ、もう少し彼女と話すことが出来たし、私のことを知ってもらえたかも知れないのにチャンスを逃してしまった。



夏季休暇も終わり学園に登校して教室に入った瞬間、違和感があった。
いつもならざわついている教室が静まり返っている。
クラスメイトの視線の先にはルフラン殿下がいた。
留学先から帰ってきたのか。
殿下からは誰もが話かけられるような雰囲気ではなく、全てを拒絶したような威圧感があった。

ルフラン殿下もアトラニア王国の学院に留学していると聞いていたが、もしかしたらそこでウォルシュ嬢と会ったことがあるかもしれない。
彼女のことなら何でも知りたかった私は殿下に声をかけてみた。

「ルフラン殿下お久しぶりです。アトラニア王国の学院はいかがでしたか?」

チラリと私に目を向けると「ああ生涯忘れることのない思い出ができた」
そう言って目を閉じてしまった。

これ以上は話しかけるなって事だと理解したが、どうしてもウォルシュ嬢のことが知りたかった私は話を続けた。

「アトラニア王国の学院にはウォルシュ嬢も留学していると聞きました。お会いしたことはございっ・・」

閉じていた目を開けた殿下の鋭利な目に鳥肌が立った。
言葉に詰まった私にガルザークが声をかけてくれた。
助かった・・・なんて目をしているんだ。
ガルザークが殿下に挨拶をしたあと、私を廊下まで連れて出すと朝の出来事を教えてくれた。

『マイ』の浅はかな行動を聞き頭が痛くなった。
ルフラン殿下のあの目もそれで機嫌が悪かったのかと思いたいが、そうではないことは分かっている。
私がウォルシュ嬢と名を出した瞬間にルフラン殿下の眉間に皺が寄ったからだ。

留学した先でウォルシュ嬢と何かあったことは間違いないだろう。

もともと幼い頃とはいえ、ルフラン殿下はウォルシュ嬢に王宮への出入り禁止を言い渡したのだ、もしかしたら彼女のことが気に入らないのかもしれない。

だからあんな目で私を睨んだのではないだろうか。

ルフラン殿下の前ではウォルシュ嬢の名を出すことで彼の逆鱗に触れるのなら、彼女を王家に取られることはないということだ。

これでウォルシュ嬢を手に入れられる可能性が高くなった。
我が家は公爵家だ。
王家の次に地位が高い。
私から婚約を申し込めば普通の令嬢なら喜んで頷くだろう。
だが彼女がそんな簡単な令嬢でないことは分かっている。

母に聞いたところウォルシュ侯爵家は代々恋愛結婚だそうだ。
それならば私にもチャンスはある。



こんなに私が一人の女性に恋い焦がれることになるなんて・・・彼女の微笑みが忘れられない。






~ゾルティー殿下視点~


影からの報告を受けてから笑いが止まらなかった。

想像通りの行動をあの兄上相手に取るなんてね。

本当にバカな子だよ。

兄上はゲームの内容を知っているんだ。

アランはエリザベート嬢の断罪までしか兄上に話していないと言っていた。

だが、その断罪を自分がしたことだと知った兄上が、ヒロインに特別な感情を向ける訳がない。

兄上にしてみればヒロインさえ現れなければ、エリザベート嬢との未来を夢見るどころか、現実になっていたかもしれないんだ。

兄上に恨まれることはあっても、ヒロイン相手に恋することなど有り得ないんだよ。

夏季休暇中は教会に閉じ込められて、簡単な文字の読み書きは学んだようだけれど、相当溜まっていたようだ。

学園が始まるなり兄上に挑んで惨敗すると、そのすぐ後には最初に声をかけてきた子息と空き教室で励んでいたそうだ。

午前で学園が終わると今度はお気に入りのガルザークを探していたそうだが見つけらなくて、朝とは違う子息と安宿に入って行ったそうだ。


過去の文献には異世界からの転移者から、調味料や料理の知識だったり、耐久性のある建物の構造や、病を防ぐ為の衛生管理など、様々な知識をこの世界に広めて貢献してくれたと残されていた。

だが『マイ』は何か特別なことが出来るわけでもなく、異世界の知識でこの国の役に立つわけでもない彼女の価値なんて無いに等しい。

敢えて言えば無料で男の欲求不満を解消する都合のいい性処理係と言ったところか。

それなのに、自分中心にこの世界があると勘違いしている『マイ』は元の世界でも、知性の足りない部類の人間だったのだろう。


さて、そんな知性の足りない頭で今度はどんな手を使ってくるかな?

兄上に睨まれた『マイ』はかなり怯えていたと報告があったが、兄上を諦めてガルザークに決めるのか、一度は関係を結んだレックスにするのか、それとも来年入学する攻略対象者の私を狙ってくるのか楽しみだ。

アランが学園に通っていなくて本当によかったよ。
あのヒロインなら確実に見目の良いアランに目を付けていただろうからね。

それにエリザベート嬢がいたらゲームの展開通りヒロインは彼女を嵌めていただろう。

アランが大切にしていて、兄上が恋い焦がれるエリザベート嬢はきっと素敵な令嬢なんだろうね。


私には幼い頃のエリザベート嬢の記憶しかないが、成長した彼女には私もいつか会ってみたいね。



しおりを挟む
感想 313

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな
恋愛
 サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。  好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。  それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆ ※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。 そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑) 本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。 「小説家になろう」でも公開しています。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...