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ウインティア王国編
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~レックス視点~
結局夏季休暇の間でウォルシュ嬢に会うことは叶わなかった。
もう彼女はアトラニア王国の留学先に帰ってしまったのだろう。
次に会えるのはいつになるのだろうか?
少し調べると、ウォルシュ侯爵家のアラン殿もウォルシュ嬢も他家のお茶会などには参加したことがなかったようだ。
王宮でのお茶会以外では我が家のお茶会が初めての参加だったようだ。
あの時ガルザークさえ邪魔に入らなければ、もう少し彼女と話すことが出来たし、私のことを知ってもらえたかも知れないのにチャンスを逃してしまった。
夏季休暇も終わり学園に登校して教室に入った瞬間、違和感があった。
いつもならざわついている教室が静まり返っている。
クラスメイトの視線の先にはルフラン殿下がいた。
留学先から帰ってきたのか。
殿下からは誰もが話かけられるような雰囲気ではなく、全てを拒絶したような威圧感があった。
ルフラン殿下もアトラニア王国の学院に留学していると聞いていたが、もしかしたらそこでウォルシュ嬢と会ったことがあるかもしれない。
彼女のことなら何でも知りたかった私は殿下に声をかけてみた。
「ルフラン殿下お久しぶりです。アトラニア王国の学院はいかがでしたか?」
チラリと私に目を向けると「ああ生涯忘れることのない思い出ができた」
そう言って目を閉じてしまった。
これ以上は話しかけるなって事だと理解したが、どうしてもウォルシュ嬢のことが知りたかった私は話を続けた。
「アトラニア王国の学院にはウォルシュ嬢も留学していると聞きました。お会いしたことはございっ・・」
閉じていた目を開けた殿下の鋭利な目に鳥肌が立った。
言葉に詰まった私にガルザークが声をかけてくれた。
助かった・・・なんて目をしているんだ。
ガルザークが殿下に挨拶をしたあと、私を廊下まで連れて出すと朝の出来事を教えてくれた。
『マイ』の浅はかな行動を聞き頭が痛くなった。
ルフラン殿下のあの目もそれで機嫌が悪かったのかと思いたいが、そうではないことは分かっている。
私がウォルシュ嬢と名を出した瞬間にルフラン殿下の眉間に皺が寄ったからだ。
留学した先でウォルシュ嬢と何かあったことは間違いないだろう。
もともと幼い頃とはいえ、ルフラン殿下はウォルシュ嬢に王宮への出入り禁止を言い渡したのだ、もしかしたら彼女のことが気に入らないのかもしれない。
だからあんな目で私を睨んだのではないだろうか。
ルフラン殿下の前ではウォルシュ嬢の名を出すことで彼の逆鱗に触れるのなら、彼女を王家に取られることはないということだ。
これでウォルシュ嬢を手に入れられる可能性が高くなった。
我が家は公爵家だ。
王家の次に地位が高い。
私から婚約を申し込めば普通の令嬢なら喜んで頷くだろう。
だが彼女がそんな簡単な令嬢でないことは分かっている。
母に聞いたところウォルシュ侯爵家は代々恋愛結婚だそうだ。
それならば私にもチャンスはある。
こんなに私が一人の女性に恋い焦がれることになるなんて・・・彼女の微笑みが忘れられない。
~ゾルティー殿下視点~
影からの報告を受けてから笑いが止まらなかった。
想像通りの行動をあの兄上相手に取るなんてね。
本当にバカな子だよ。
兄上はゲームの内容を知っているんだ。
アランはエリザベート嬢の断罪までしか兄上に話していないと言っていた。
だが、その断罪を自分がしたことだと知った兄上が、ヒロインに特別な感情を向ける訳がない。
兄上にしてみればヒロインさえ現れなければ、エリザベート嬢との未来を夢見るどころか、現実になっていたかもしれないんだ。
兄上に恨まれることはあっても、ヒロイン相手に恋することなど有り得ないんだよ。
夏季休暇中は教会に閉じ込められて、簡単な文字の読み書きは学んだようだけれど、相当溜まっていたようだ。
学園が始まるなり兄上に挑んで惨敗すると、そのすぐ後には最初に声をかけてきた子息と空き教室で励んでいたそうだ。
午前で学園が終わると今度はお気に入りのガルザークを探していたそうだが見つけらなくて、朝とは違う子息と安宿に入って行ったそうだ。
過去の文献には異世界からの転移者から、調味料や料理の知識だったり、耐久性のある建物の構造や、病を防ぐ為の衛生管理など、様々な知識をこの世界に広めて貢献してくれたと残されていた。
だが『マイ』は何か特別なことが出来るわけでもなく、異世界の知識でこの国の役に立つわけでもない彼女の価値なんて無いに等しい。
敢えて言えば無料で男の欲求不満を解消する都合のいい性処理係と言ったところか。
それなのに、自分中心にこの世界があると勘違いしている『マイ』は元の世界でも、知性の足りない部類の人間だったのだろう。
さて、そんな知性の足りない頭で今度はどんな手を使ってくるかな?
兄上に睨まれた『マイ』はかなり怯えていたと報告があったが、兄上を諦めてガルザークに決めるのか、一度は関係を結んだレックスにするのか、それとも来年入学する攻略対象者の私を狙ってくるのか楽しみだ。
アランが学園に通っていなくて本当によかったよ。
あのヒロインなら確実に見目の良いアランに目を付けていただろうからね。
それにエリザベート嬢がいたらゲームの展開通りヒロインは彼女を嵌めていただろう。
アランが大切にしていて、兄上が恋い焦がれるエリザベート嬢はきっと素敵な令嬢なんだろうね。
私には幼い頃のエリザベート嬢の記憶しかないが、成長した彼女には私もいつか会ってみたいね。
結局夏季休暇の間でウォルシュ嬢に会うことは叶わなかった。
もう彼女はアトラニア王国の留学先に帰ってしまったのだろう。
次に会えるのはいつになるのだろうか?
少し調べると、ウォルシュ侯爵家のアラン殿もウォルシュ嬢も他家のお茶会などには参加したことがなかったようだ。
王宮でのお茶会以外では我が家のお茶会が初めての参加だったようだ。
あの時ガルザークさえ邪魔に入らなければ、もう少し彼女と話すことが出来たし、私のことを知ってもらえたかも知れないのにチャンスを逃してしまった。
夏季休暇も終わり学園に登校して教室に入った瞬間、違和感があった。
いつもならざわついている教室が静まり返っている。
クラスメイトの視線の先にはルフラン殿下がいた。
留学先から帰ってきたのか。
殿下からは誰もが話かけられるような雰囲気ではなく、全てを拒絶したような威圧感があった。
ルフラン殿下もアトラニア王国の学院に留学していると聞いていたが、もしかしたらそこでウォルシュ嬢と会ったことがあるかもしれない。
彼女のことなら何でも知りたかった私は殿下に声をかけてみた。
「ルフラン殿下お久しぶりです。アトラニア王国の学院はいかがでしたか?」
チラリと私に目を向けると「ああ生涯忘れることのない思い出ができた」
そう言って目を閉じてしまった。
これ以上は話しかけるなって事だと理解したが、どうしてもウォルシュ嬢のことが知りたかった私は話を続けた。
「アトラニア王国の学院にはウォルシュ嬢も留学していると聞きました。お会いしたことはございっ・・」
閉じていた目を開けた殿下の鋭利な目に鳥肌が立った。
言葉に詰まった私にガルザークが声をかけてくれた。
助かった・・・なんて目をしているんだ。
ガルザークが殿下に挨拶をしたあと、私を廊下まで連れて出すと朝の出来事を教えてくれた。
『マイ』の浅はかな行動を聞き頭が痛くなった。
ルフラン殿下のあの目もそれで機嫌が悪かったのかと思いたいが、そうではないことは分かっている。
私がウォルシュ嬢と名を出した瞬間にルフラン殿下の眉間に皺が寄ったからだ。
留学した先でウォルシュ嬢と何かあったことは間違いないだろう。
もともと幼い頃とはいえ、ルフラン殿下はウォルシュ嬢に王宮への出入り禁止を言い渡したのだ、もしかしたら彼女のことが気に入らないのかもしれない。
だからあんな目で私を睨んだのではないだろうか。
ルフラン殿下の前ではウォルシュ嬢の名を出すことで彼の逆鱗に触れるのなら、彼女を王家に取られることはないということだ。
これでウォルシュ嬢を手に入れられる可能性が高くなった。
我が家は公爵家だ。
王家の次に地位が高い。
私から婚約を申し込めば普通の令嬢なら喜んで頷くだろう。
だが彼女がそんな簡単な令嬢でないことは分かっている。
母に聞いたところウォルシュ侯爵家は代々恋愛結婚だそうだ。
それならば私にもチャンスはある。
こんなに私が一人の女性に恋い焦がれることになるなんて・・・彼女の微笑みが忘れられない。
~ゾルティー殿下視点~
影からの報告を受けてから笑いが止まらなかった。
想像通りの行動をあの兄上相手に取るなんてね。
本当にバカな子だよ。
兄上はゲームの内容を知っているんだ。
アランはエリザベート嬢の断罪までしか兄上に話していないと言っていた。
だが、その断罪を自分がしたことだと知った兄上が、ヒロインに特別な感情を向ける訳がない。
兄上にしてみればヒロインさえ現れなければ、エリザベート嬢との未来を夢見るどころか、現実になっていたかもしれないんだ。
兄上に恨まれることはあっても、ヒロイン相手に恋することなど有り得ないんだよ。
夏季休暇中は教会に閉じ込められて、簡単な文字の読み書きは学んだようだけれど、相当溜まっていたようだ。
学園が始まるなり兄上に挑んで惨敗すると、そのすぐ後には最初に声をかけてきた子息と空き教室で励んでいたそうだ。
午前で学園が終わると今度はお気に入りのガルザークを探していたそうだが見つけらなくて、朝とは違う子息と安宿に入って行ったそうだ。
過去の文献には異世界からの転移者から、調味料や料理の知識だったり、耐久性のある建物の構造や、病を防ぐ為の衛生管理など、様々な知識をこの世界に広めて貢献してくれたと残されていた。
だが『マイ』は何か特別なことが出来るわけでもなく、異世界の知識でこの国の役に立つわけでもない彼女の価値なんて無いに等しい。
敢えて言えば無料で男の欲求不満を解消する都合のいい性処理係と言ったところか。
それなのに、自分中心にこの世界があると勘違いしている『マイ』は元の世界でも、知性の足りない部類の人間だったのだろう。
さて、そんな知性の足りない頭で今度はどんな手を使ってくるかな?
兄上に睨まれた『マイ』はかなり怯えていたと報告があったが、兄上を諦めてガルザークに決めるのか、一度は関係を結んだレックスにするのか、それとも来年入学する攻略対象者の私を狙ってくるのか楽しみだ。
アランが学園に通っていなくて本当によかったよ。
あのヒロインなら確実に見目の良いアランに目を付けていただろうからね。
それにエリザベート嬢がいたらゲームの展開通りヒロインは彼女を嵌めていただろう。
アランが大切にしていて、兄上が恋い焦がれるエリザベート嬢はきっと素敵な令嬢なんだろうね。
私には幼い頃のエリザベート嬢の記憶しかないが、成長した彼女には私もいつか会ってみたいね。
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