42 / 122
ウインティア王国編
42
しおりを挟む
~ゾルティー殿下視点~
兄上がアトラニア王国から帰ってきてから、国王である父上から兄上が学園を卒業後、立太子する事が晩餐の席で伝えられた。
真摯に受け止めた兄上は、夏季休暇中も以前よりも増えた執務に真剣に取り組んでいた。
まだ兄上には側近候補がいない。
それでも1人でも完璧な執務を熟す兄上に、臣下たちからの評判もいい。
第一王子派、第二王子派等という派閥も今はない。
私を傀儡にしようと調子のいい事を言って近づいてきた者たちは、影を使ってその者達の陰謀を暴き、国政には口出し出来ない場所に追いやった。
もう彼らが日の目を見ることは二度とないだろう。
彼らは兄上を亡き者にしようと企てていたんだからね。
ウインティア王国は一夫一婦制で、王族でも側妃も妾もいない。
これから次期王妃の地位を狙った令嬢や、その親たちが婚約者のいない兄上争奪戦を始めることは目に見えている。
僕たちが幼い頃からお茶会を開いて、彼ら彼女らを見極めていた事は知っているはずだ。
王家から打診がなければそういうことだ。
それでも自分に自信のある令嬢や、野心ある親たちが自分の娘を使って兄上に近づこうとするだろう。
今の兄上にどんな手を使うのかお手並み拝見といこうか。
兄上が休暇明けから学園に通う。
ヒロインのこれからの行動も楽しみだ。
~ガルザーク視点~
毎日お茶会で会った、気高く清廉なウォルシュ嬢のことを思い出していると、自分が穢れた存在に思えてきた。
『マイ』を抱いていた頃の俺は知性のない獣と変わりなかったと今になって思う。
ウォルシュ嬢に会えないからといって『マイ』を使って欲求不満を解消する気にもならなくなった俺は、ウォルシュ侯爵家に通いながら穢れた身体の汚れを洗い落とすかのように、ひたすら鍛錬に打ち込んだ。
そんな俺を見て両親、特に父が喜んでいるようだった。
それまでの俺は次期当主だと胡座をかいて、鍛錬以外本気を出すことはなかった。
勉学だって嫌いではない。
常に上位にはいる。
それで満足していた俺は軽はずみな行動が多かった。
きっと『マイ』との関係も知っていたのだろう。
あれだけ派手に男遊びをしているんだ『マイ』のことは社交界でも噂になっているはずだ。
そんな女と関係を持つ俺のことも・・・
何も言わないが、親に恥をかかせていたことだろう。
そんな俺を見放さなかった両親には感謝している。
心を入れ替えて、次にウォルシュ嬢に会った時には恥ずかしくない自分になっていたい。
日々鍛錬に打ち込んでいる間に夏季休暇も終わった。
明日から学園も始まる。
ウォルシュ嬢に会いたい。
会いたいが探すことはやめよう。
今の俺では恥ずかしくて堂々と会える自信がない。
少し前までの俺は一体何様のつもりだったのだろうか。
漸く目が覚めた気がする。
もう自分を甘やかすのはやめよう。
『マイ』との関係も終わりだ。
学園に到着すると今まで見ることがなかった王家の馬車が止まっていた。
降りてきたのは第一王子であるルフラン殿下だった。
留学しているとは聞いていたが帰ってきたのか。
他の生徒たちも歩くのをやめてルフラン殿下に一礼をするが近づける者はいない。
ルフラン殿下は誰もが認める端正な美貌の持ち主だ。
本来なら令嬢たちが我先にと取り囲んでいるだろう。
それが出来ないのは、殿下の鋭く鋭利な目が彼女たちを拒絶していることが分かるからだ。
静まり返ったその場をバタバタと令嬢らしくない足音が聞こえたと思ったら『マイ』がルフラン殿下に向かって走っていた。
『マイ』の考えていることは想像がつく。
見目の良い殿下に目を付けたのだ。
どうせ今まで使ってきた手を使うのだろう?ワザとぶつかったり、目の前で転んだりして気を引こうとするんだよな。
そんな手に引っ掛かるような人ではないことは、ルフラン殿下の目を見た令嬢も令息も分かっている。
分かってないのは『マイ』だけだ。
そう思っていた時だ、ルフラン殿下が『マイ』に視線を向けた。
なんだ?あの目は・・・憎しみが込められている・の・・か?
ルフラン殿下の目は殺意まで感じさせて『マイ』を見ていた。
常識外れの『マイ』ですら目が合うとそのまま素通りした。
正面からあんな目で見られたんだ、今まで使ってきた手が通用しないとバカな『マイ』ですら分かったのだろう。
殿下が留学する前のお茶会でも会ったが、その時も無表情だとは思っていたが、今のルフラン殿下はそれに鋭さが増している。
この半年近くで何があったのだろうか?
もっと幼い頃の殿下は令嬢たちに囲まれても、王族らしく笑顔を崩さなかった記憶があるが・・・
いや一度だけ完璧だったルフラン殿下が令嬢に怒鳴ったことがあったな。
怒鳴られた令嬢は王宮への出入り禁止を言い渡されていたが、どこの令嬢だったのだろうか?幼いながらも綺麗な顔立ちの令嬢だったような気がする。
殿下に出入り禁止を言いわたされた令嬢が見事なカーテシーで礼をしたあと去って行く後ろ姿が、なぜだかお茶会の日のウォルシュ嬢の後ろ姿と重なった。
あの頃の俺も令嬢たちにチヤホヤされて浮かれていたな・・・
既にその頃から俺はバカだったんだな。
それからもお茶会は開かれたが、年々ルフラン殿下の表情から笑顔が消えていった気がする。
そして今、ルフラン殿下は無表情な顔はそのままだが目に鋭さを増して皆の前に姿を現した。
兄上がアトラニア王国から帰ってきてから、国王である父上から兄上が学園を卒業後、立太子する事が晩餐の席で伝えられた。
真摯に受け止めた兄上は、夏季休暇中も以前よりも増えた執務に真剣に取り組んでいた。
まだ兄上には側近候補がいない。
それでも1人でも完璧な執務を熟す兄上に、臣下たちからの評判もいい。
第一王子派、第二王子派等という派閥も今はない。
私を傀儡にしようと調子のいい事を言って近づいてきた者たちは、影を使ってその者達の陰謀を暴き、国政には口出し出来ない場所に追いやった。
もう彼らが日の目を見ることは二度とないだろう。
彼らは兄上を亡き者にしようと企てていたんだからね。
ウインティア王国は一夫一婦制で、王族でも側妃も妾もいない。
これから次期王妃の地位を狙った令嬢や、その親たちが婚約者のいない兄上争奪戦を始めることは目に見えている。
僕たちが幼い頃からお茶会を開いて、彼ら彼女らを見極めていた事は知っているはずだ。
王家から打診がなければそういうことだ。
それでも自分に自信のある令嬢や、野心ある親たちが自分の娘を使って兄上に近づこうとするだろう。
今の兄上にどんな手を使うのかお手並み拝見といこうか。
兄上が休暇明けから学園に通う。
ヒロインのこれからの行動も楽しみだ。
~ガルザーク視点~
毎日お茶会で会った、気高く清廉なウォルシュ嬢のことを思い出していると、自分が穢れた存在に思えてきた。
『マイ』を抱いていた頃の俺は知性のない獣と変わりなかったと今になって思う。
ウォルシュ嬢に会えないからといって『マイ』を使って欲求不満を解消する気にもならなくなった俺は、ウォルシュ侯爵家に通いながら穢れた身体の汚れを洗い落とすかのように、ひたすら鍛錬に打ち込んだ。
そんな俺を見て両親、特に父が喜んでいるようだった。
それまでの俺は次期当主だと胡座をかいて、鍛錬以外本気を出すことはなかった。
勉学だって嫌いではない。
常に上位にはいる。
それで満足していた俺は軽はずみな行動が多かった。
きっと『マイ』との関係も知っていたのだろう。
あれだけ派手に男遊びをしているんだ『マイ』のことは社交界でも噂になっているはずだ。
そんな女と関係を持つ俺のことも・・・
何も言わないが、親に恥をかかせていたことだろう。
そんな俺を見放さなかった両親には感謝している。
心を入れ替えて、次にウォルシュ嬢に会った時には恥ずかしくない自分になっていたい。
日々鍛錬に打ち込んでいる間に夏季休暇も終わった。
明日から学園も始まる。
ウォルシュ嬢に会いたい。
会いたいが探すことはやめよう。
今の俺では恥ずかしくて堂々と会える自信がない。
少し前までの俺は一体何様のつもりだったのだろうか。
漸く目が覚めた気がする。
もう自分を甘やかすのはやめよう。
『マイ』との関係も終わりだ。
学園に到着すると今まで見ることがなかった王家の馬車が止まっていた。
降りてきたのは第一王子であるルフラン殿下だった。
留学しているとは聞いていたが帰ってきたのか。
他の生徒たちも歩くのをやめてルフラン殿下に一礼をするが近づける者はいない。
ルフラン殿下は誰もが認める端正な美貌の持ち主だ。
本来なら令嬢たちが我先にと取り囲んでいるだろう。
それが出来ないのは、殿下の鋭く鋭利な目が彼女たちを拒絶していることが分かるからだ。
静まり返ったその場をバタバタと令嬢らしくない足音が聞こえたと思ったら『マイ』がルフラン殿下に向かって走っていた。
『マイ』の考えていることは想像がつく。
見目の良い殿下に目を付けたのだ。
どうせ今まで使ってきた手を使うのだろう?ワザとぶつかったり、目の前で転んだりして気を引こうとするんだよな。
そんな手に引っ掛かるような人ではないことは、ルフラン殿下の目を見た令嬢も令息も分かっている。
分かってないのは『マイ』だけだ。
そう思っていた時だ、ルフラン殿下が『マイ』に視線を向けた。
なんだ?あの目は・・・憎しみが込められている・の・・か?
ルフラン殿下の目は殺意まで感じさせて『マイ』を見ていた。
常識外れの『マイ』ですら目が合うとそのまま素通りした。
正面からあんな目で見られたんだ、今まで使ってきた手が通用しないとバカな『マイ』ですら分かったのだろう。
殿下が留学する前のお茶会でも会ったが、その時も無表情だとは思っていたが、今のルフラン殿下はそれに鋭さが増している。
この半年近くで何があったのだろうか?
もっと幼い頃の殿下は令嬢たちに囲まれても、王族らしく笑顔を崩さなかった記憶があるが・・・
いや一度だけ完璧だったルフラン殿下が令嬢に怒鳴ったことがあったな。
怒鳴られた令嬢は王宮への出入り禁止を言い渡されていたが、どこの令嬢だったのだろうか?幼いながらも綺麗な顔立ちの令嬢だったような気がする。
殿下に出入り禁止を言いわたされた令嬢が見事なカーテシーで礼をしたあと去って行く後ろ姿が、なぜだかお茶会の日のウォルシュ嬢の後ろ姿と重なった。
あの頃の俺も令嬢たちにチヤホヤされて浮かれていたな・・・
既にその頃から俺はバカだったんだな。
それからもお茶会は開かれたが、年々ルフラン殿下の表情から笑顔が消えていった気がする。
そして今、ルフラン殿下は無表情な顔はそのままだが目に鋭さを増して皆の前に姿を現した。
198
お気に入りに追加
4,559
あなたにおすすめの小説
終わっていた恋、始まっていた愛
しゃーりん
恋愛
結婚を三か月後に控えた侯爵令嬢ソフィアナは、婚約者である第三王子ディオンに結婚できなくなったと告げられた。二つ離れた国の王女に結婚を申し込まれており、国交を考えると受けざるを得ないということだった。ディオンはソフィアナだけを愛すると言い、ソフィアナを抱いた後、国を去った。
やがて妊娠したソフィアナは体面を保つために父の秘書であるルキウスを形だけの夫として結婚した。
それから三年、ディオンが一時帰国すると聞き、ディオンがいなくても幸せに暮らしていることを裏切りではないかと感じたが思い違いをしていたというお話です。
悪役令嬢が死んだ後
ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。
被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢
男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。
公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。
殺害理由はなんなのか?
視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は?
*一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない
千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。
公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。
そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。
その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。
「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」
と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。
だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる