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泣いたことに気付かれないように、顔を洗って祖父母とアランとレイのいるサロンに向かう。

大丈夫。私は落ち着いているわ。
3ヶ月前のルフランに出会う前の私に戻れる。
そう自分に何度も言い聞かせながらサロンの扉をノックする。

私の顔を見て一瞬だけアランの眉が下がった。
さすが双子ね。
生まれた時からずっと一緒にいたもの、隠し事なんてすぐにバレるわよね。
何も聞かないでいてくれるアランには感謝だわ。


お祖母様に促されて隣に座ると、アランが話し出す。


「お爺様、お祖母様、僕がアトラニア王国で見つけた生涯幸せにすると誓ったレイチェル・ビジョップ侯爵令嬢です。」

アランってば、キリリっとしてカッコイイじゃない。

「アトラニア王国、ビジョップ侯爵家が嫡女レイチェルと申します。よろしくお願いいたします。」

そう言ってレイは見事なカーテシーで挨拶をする。

「あら?アランったらレイチェルちゃんを婚約者から奪ってきたのね」

さすがお祖母様ね。
レイの名前だけで他国の王族の婚約者だと分かるなんて凄いわ。

うふふ、とアランを冷やかす様に言うお祖母様にアトラニア王国の学院であったことを話すアラン。

私も横から2人の出会いを話し出すと、レイが真っ赤になって止めようとするが、アランがレイの手を握って真剣な顔で祖父母に伝える。

「僕は初めてレイに会った時から彼女に決めていました。僕のお嫁さんになるのは彼女だけです」

レイも覚悟を決めたのか、真っ直ぐに祖父母を見て礼をする。

「わたしがウォルシュ侯爵家に嫁ぐことを許して頂けますか」

お爺様もお祖母様も顔を見合せて笑いだす。

「代々ウォルシュ侯爵家は恋愛結婚だ。アランが誰を選ぼうが反対することはないよ。しかもアランが選んだのはレイチェル嬢だ。文句一つないよ。だから2人とも安心しなさい。」

「もう将来の相手を見つけられるほど大人になったのね。アラン、レイチェルちゃんを大切にするのよ」

そうなんだよね。
我が家は貴族では珍しい恋愛結婚だとお祖母様からお爺様とのトキメキの出会いを何度も幼い頃に聞かされたわね。
それに、アランの選んだレイは王子妃教育も終わらせている完璧令嬢だし、とってもいい子で可愛いもの。反対するところがないわ。

来週にはお父様とお母様が帰ってくるから、もっと賑やかになる。

うん。大丈夫だ。私は寂しくない。

侯爵家の使用人のみんなもアランの連れてきたレイを快く受け入れてくれた。

みんなからの祝福の言葉に照れながらも嬉しそうな2人の顔が見られて私も嬉しい。

夕食もアランとレイの婚約を祝って使用人も含めた賑やかな食事会となった。



夜、レイと念願の女子会をすることになった。

レイが何を話し、何を聞きたいのか想像はつく。
たとえ親友のレイに聞かれても私の思いは教えられない。
それが思い出になる頃には『私昔はルフランのことが好きだったのよ。』と話せるようになるだろう。
それまではせっかく心に蓋をしたんだ、開けるような事はしない。
ルフランのこれから歩む道と私の選んだ道は交わる事はないのだから・・・

だからその時まではそっとしておいてね。
でないと泣いちゃうよ。


結局レイは何も聞かないでいてくれた。
それでも私たちには前世の記憶がお互いにあるから、話は尽きなかった。

前世のレイは高校生の時にご両親を事故で亡くし、引き取ってくれる親戚もおらず保険金で大学に通いながら父親と同じ弁護士を目指して、日々勉強に明け暮れていたそうだ。
そして喪女だったと・・・

レイ、そこまで話さなくてもいいんだよ。

私も家族のことを話した。

私の前世の両親は仕事ばかりで幼い頃から参観日や運動会にも来てくれないような人達だった。
もちろん将来を決める大学受験の三者面談にさえ来なかった。
お金だけは不自由する事はなかったが、愛されていると実感した事は1度もなかった。

家に一歩入ると時計の秒針の音と、家電製品の音、私の動く音しかしない寂しい家だった。
(私が死んでも両親は悲しむことすらしなかったかもしれない)

乙女ゲームを始めたのも、最初は寂しさを紛らわせる為だった。

そんな環境で育った私が転生して、ウォルシュ家に生まれ両親にも祖父母にも使用人達までもが大切にしてくれて、気にかけてくれることが最初は夢を見ているのかと思った。
だって両親も祖父母も無条件で私に愛を与えてくれるのよ。

そしてアランの存在が私を姉にしてくれた。
泣いても笑っても可愛くて可愛くて仕方がなかった。
初めて守ってあげたいと思ったの。

「私は前世の世界よりも、今の方が幸せよ。」
とレイに笑顔で言えた。

そうよね。私はもう1人じゃない。

私を愛してくれる侯爵家の家族も使用人たちだっている。

公爵家の伯父様や伯母様だっている。

『私たちこの世界に転生してよかったね。』

私とレイの言葉がかぶる。
それが可笑しくてしばらく笑いが止まらなかった。


ありがとうレイ。

こんな日に1人にしないでいてくれて・・・

さすがアランが選んで、私の親友なだけあるわね。

その日私は余計なことは何も考えずに眠りにつくことが出来た。


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