上 下
26 / 122

26

しおりを挟む
~ルフラン殿下視点~



あのワザと転んでアランの気を引こうとした女のおかげでエリーと手を繋いで歩くことができた。
エリーに拒絶されなかったことが嬉しかった。

見た目は綺麗すぎて冷たそうに見えるエリー。

女神の微笑みを浮かべた時のエリー。

本来の姿を俺に知って欲しいと見せてくれたエリー。

俺にとってはどのエリーも眩しく輝いて見える。

たった1日だ。
たった1日で何年も姿を見ることすら出来なかったエリーが友達だと言ってくれたんだ。

見た目も所作も完璧な令嬢だと思っていたエリーが、平民を装っている俺にも偏見なく友達だと、長い付き合いになると言ってくれた。

エリーを知れば知るほど惹かれていくのが分かる。

俺の見てきた人の迷惑も考えず、自己主張ばかりの令嬢たちとは全然違った。
あんなに気さくで話しやすい子だとは思ってもいなかった。これは嬉しい誤算だ。
エリーが優しい子だとは分かっていた。
自分もまだ幼いのに、アランの世話を一生懸命している姿を何度も見ていたからな。

俺が最初を間違えなかったらウインティア王国でも仲良く出来たのかもしれない。


応接室に入ってきたエリーの姿に見惚れた。

令嬢らしくないパンツスタイルは高めの身長で手足の長いエリーにはよく似合っていた。

真っ直ぐでサラサラの髪を高い位置で1つにまとめていたのもエリーの美しい顔を引き立てていた。

褒め言葉を言おうとしても、上手く纏まらず言葉を発せない俺の手をエリーが引いてくれた。
ゆっくりでいいから自分を理解してくれたら嬉しいと言うエリー。
俺はどんなエリーでもこの気持ちは変わらない。
それだけは自信がある。

小さな声だったが『ルフランと出会えてよかった』って言ってくれたんだ。
エリーの前で泣いてしまうかと思った。



俺の暴言は幼かったエリーを傷つけただろう。

俺がその王子だと知ったら拒絶されてしまうのだろうか?

もう笑顔も見せてはくれなくなるのだろうか?

会った時には素直に謝る練習までこっそりしていたのに、平民を装ってしまったことで謝れなくなってしまった。
本当に俺は情けないな。



怖いんだ。
エリーから嫌われ拒絶されることが怖くてたまらない。

騙していることが、謝れないことが苦しい。

ちゃんと謝るからもう少しだけ、もう少しだけ俺に友達として接してくれるエリーと一緒にいたいんだ。







入学してから1ヶ月、私たちは学院でも4人で行動することが増えた。
増えたというより、いつも4人で一緒にいる。

当然レイを1人にしない為でもあるが、思いの外ルフランが隣にいるのは心地がいい。


4人でいてもアランとレイは周りの視線を集めている。

見目麗しいアランを見つめる令嬢たちの視線は熱い。
レイだって負けてはいない。令息たちがチラチラと頬を染めて見ている。
そして令嬢たちからは嫉妬の視線を浴びている。

そんな2人の側には怖顔の私とあまり表情の分からないルフラン。
私たち2人のモブの存在のせいか声をかけてくる者はほとんどいない。


今は4人でランチをしに食堂に来たところだ。
入った瞬間に皆んなの視線がレイに向けられた。蔑んだ目と憐れみの目でレイを見ている。

その視線の意味なんてもう分かっている。
第三王子のラティオス殿下がミーシャ嬢と隣り合って座りイチャイチャしているからだ。

同じテーブルには財務大臣の息子セルディー・メキア侯爵令息。騎士団長の息子ガバネル・ドナガート伯爵令息がだらしない表情でミーシャ嬢を見ている。
周りの席も令息たちで埋まっている。

そこには乙女ゲームであるあるの光景があった。

1ヶ月でミーシャ嬢はこれだけの男たちを虜にしたのだ。

「日に日に増えているな」何がと聞かなくても分かる。
1人の令嬢に男たちが群がる光景は傍から見ると異常だ。

確かにミーシャ嬢は美少女だとは思う。
でもそれだけだ。
礼儀作法もマナーも貴族の令嬢とは思えないほど、何も出来ない。

レイと比べることすら烏滸がましい。

彼女のことを天真爛漫だとか、純真無垢だとかアホ頭(王子とその他の令息)たちは言っているが、ただの礼儀知らずの令嬢だとしか思えない。

顔以外のどこに魅力があるのか分からない。
あのタプタプした成長し過ぎた胸か?

こっそりと自分の胸に手をやった。
アラン!レイ!残念そうに私を見ないで!
ルフラン!慰めるように背中を撫でないで!
悲しくなるじゃない!

集団から離れた席で食事を始めた私たちは明日の休みに遠出をする予定だ。

「明日は私の手料理でお弁当を作るから楽しみにしていてね」

「え?エリーが・・て、手料理?」

ルフラン私の腕を疑っているの?
毒なんて入れないわよ。

「そう、ピクニックだから簡単な物ばかりになるけどね。」

「エリーの料理の腕はかなりのものよ」

「そうなんだよね。貴族の令嬢らしくないけどエリーの作る料理が美味しいのは認めるよ」

「エリーの手作りなんだ・・・楽しみにしているよ」

ルフランの口の端が上がっている。

明日は以前伯父様と伯母様と一緒に行った湖に行くのだ。




前世では仕事ばかりの両親だったからね、必然で小さい頃から1人でなんでも出来る子になったんだよね。

そう料理と掃除は出来たんだよ。

だけど裁縫だけはどんなに頑張っても上達してくれなかった。

それは転生しても同じだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...