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カルセイニア王国編
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~ヴォルフ殿下視点~
あの日『レックスの妹弟で前騎士団長殿の孫たちが今日港に到着するらしいぞ。視察がてら見に行ってみれば』と、朝食の席で軽く言ったのは兄である、この国の王太子アイザックだった。
前騎士団長で前バーネット公爵は俺の剣の師匠であり、厳しくも海のように心の広い信頼のおける臣下だ。
姉弟に興味はないが、師匠の孫ならとこっそりと見に行った。そこで俺は天使を見つけた。
女には触れることも触れさせることも、なんなら視界に入れるのも嫌いな俺がだ。
生まれて初めてだった。
満面の笑顔の彼女から視線が離せず、胸が痛いほどドキドキとうるさかった。
その日のうちに彼女のことを調べた。
レフタルド王国の第1王子の婚約者候補を辞退し、我が国に移住してきたこと。
レックスの妹でディスター侯爵令嬢であること。
俺より3歳年下の17歳であること。
そして、レックスが1週間の休暇を取っていることがわかった。
なら、まずは王都を案内するだろうと予測を立て街で待機した。
俺の読みは見事に当たった。
目を輝かせて興味のある方向にフラフラとするものだから迷子になっていた。
そんな彼女に何人もの男が狙っているのを睨みつけ阻止し、兄弟のいる方向を教えてやった。その時に自然と背中に触れていた。
それからもレックスの休みの間は毎日王都に視察のいう名の待ち伏せをした。
その後彼女に会えたのは一度だけだったが、俺の調べによると学院の編入試験を受けに行った帰りにも街に寄る情報が入りまた視察に出かけた。
またフラフラと屋台に吸い寄せられ弟に我儘を言っている彼女も可愛いかった。
ふらついた彼女を支えるのにまた自然と手を伸ばしていた。
毎回、俺は一言声をかけるだけで精一杯で去ってしまう。
兄上には『ヴォルフのしていることはストーカーだよ。バレたらベルティアーナ嬢に知られると嫌われるよ』と言われるも、彼女の出席するパーティーには必ず参加した。
彼女と話してみたい。
もっと彼女を見ていたい。
その願いが叶ったのは、随分時間が経ってからだった。
俺は一部の人間を除いては人を信じることができない。
過去に大好きだった家庭教師が身を呈して教えてくれた。
『人には裏があります。貴方様はそれを見極めなければならないお立場の方です。簡単に甘い言葉に騙されてはいけません』
まだ5歳だった俺には難しかったが6歳の時、目の前で襲われた兄上を庇って斬られた。
命が尽きそうだというのに、彼は最後の教えを俺に伝えて息を引き取った。
犯人は兄上の護衛騎士だったが黒幕は俺に優しくしてくれていた男だった。
兄上を亡き者にし、俺を傀儡にして権力を握ろうと企むような男に俺は懐いていたんだ⋯⋯
それ以来人間不信になった俺は、虚勢を張って常に不機嫌そうに振る舞うようになった。
その後、侍女に襲われそうになり女嫌いになった。
甥っ子のお披露目パーティーで、頭のおかしな女に絡まれている彼女の雰囲気が変わったのに気付き思わず走り出していた。咄嗟に彼女の口を塞いでしまった。手にかかる彼女の吐息にドキドキした。
頭のおかしな女は俺が話したくて来ただとか、俺の嫁になってやるだとか、俺が相手にしなければ今度はモルダーと結婚してやるから紹介しろだとか、馬鹿としか思えない言葉を発していた。
女を残し彼女はレイモンドに帰ろうと声を掛けたが⋯⋯そこでレイモンドがファインプレーをしてくれた。
俺に彼女を任せるとチャンスを与えてくれたんだ!
さすがはレックスの部下だ。
頭の回転が早く俺の気持ちにも気付いていたようだ。
結果、俺はレイモンドに貰ったチャンスを無駄にしなかった。
あの日『レックスの妹弟で前騎士団長殿の孫たちが今日港に到着するらしいぞ。視察がてら見に行ってみれば』と、朝食の席で軽く言ったのは兄である、この国の王太子アイザックだった。
前騎士団長で前バーネット公爵は俺の剣の師匠であり、厳しくも海のように心の広い信頼のおける臣下だ。
姉弟に興味はないが、師匠の孫ならとこっそりと見に行った。そこで俺は天使を見つけた。
女には触れることも触れさせることも、なんなら視界に入れるのも嫌いな俺がだ。
生まれて初めてだった。
満面の笑顔の彼女から視線が離せず、胸が痛いほどドキドキとうるさかった。
その日のうちに彼女のことを調べた。
レフタルド王国の第1王子の婚約者候補を辞退し、我が国に移住してきたこと。
レックスの妹でディスター侯爵令嬢であること。
俺より3歳年下の17歳であること。
そして、レックスが1週間の休暇を取っていることがわかった。
なら、まずは王都を案内するだろうと予測を立て街で待機した。
俺の読みは見事に当たった。
目を輝かせて興味のある方向にフラフラとするものだから迷子になっていた。
そんな彼女に何人もの男が狙っているのを睨みつけ阻止し、兄弟のいる方向を教えてやった。その時に自然と背中に触れていた。
それからもレックスの休みの間は毎日王都に視察のいう名の待ち伏せをした。
その後彼女に会えたのは一度だけだったが、俺の調べによると学院の編入試験を受けに行った帰りにも街に寄る情報が入りまた視察に出かけた。
またフラフラと屋台に吸い寄せられ弟に我儘を言っている彼女も可愛いかった。
ふらついた彼女を支えるのにまた自然と手を伸ばしていた。
毎回、俺は一言声をかけるだけで精一杯で去ってしまう。
兄上には『ヴォルフのしていることはストーカーだよ。バレたらベルティアーナ嬢に知られると嫌われるよ』と言われるも、彼女の出席するパーティーには必ず参加した。
彼女と話してみたい。
もっと彼女を見ていたい。
その願いが叶ったのは、随分時間が経ってからだった。
俺は一部の人間を除いては人を信じることができない。
過去に大好きだった家庭教師が身を呈して教えてくれた。
『人には裏があります。貴方様はそれを見極めなければならないお立場の方です。簡単に甘い言葉に騙されてはいけません』
まだ5歳だった俺には難しかったが6歳の時、目の前で襲われた兄上を庇って斬られた。
命が尽きそうだというのに、彼は最後の教えを俺に伝えて息を引き取った。
犯人は兄上の護衛騎士だったが黒幕は俺に優しくしてくれていた男だった。
兄上を亡き者にし、俺を傀儡にして権力を握ろうと企むような男に俺は懐いていたんだ⋯⋯
それ以来人間不信になった俺は、虚勢を張って常に不機嫌そうに振る舞うようになった。
その後、侍女に襲われそうになり女嫌いになった。
甥っ子のお披露目パーティーで、頭のおかしな女に絡まれている彼女の雰囲気が変わったのに気付き思わず走り出していた。咄嗟に彼女の口を塞いでしまった。手にかかる彼女の吐息にドキドキした。
頭のおかしな女は俺が話したくて来ただとか、俺の嫁になってやるだとか、俺が相手にしなければ今度はモルダーと結婚してやるから紹介しろだとか、馬鹿としか思えない言葉を発していた。
女を残し彼女はレイモンドに帰ろうと声を掛けたが⋯⋯そこでレイモンドがファインプレーをしてくれた。
俺に彼女を任せるとチャンスを与えてくれたんだ!
さすがはレックスの部下だ。
頭の回転が早く俺の気持ちにも気付いていたようだ。
結果、俺はレイモンドに貰ったチャンスを無駄にしなかった。
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