上 下
26 / 30
カルセイニア王国編

26

しおりを挟む
気持ち悪い表現があります。
苦手な方は読み飛ばしてください。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



~アイザック王太子視点~


その日も王太子教育の授業が終わり、剣術の稽古までの時間を庭園を散歩していた時だった。
ヴォルフの授業も終わりお茶をしていると知らせてくれたヴォルフの侍女に、そこまで案内してもらうことにした。



お茶をするヴォルフを見つけ手を振るが、いつもなら私と会うと嬉しそうな顔で駆け寄ってくるヴォルフの目が恐怖に見開いていた。
その視線は私のすぐ横に向けられ、ヴォルフの悲鳴と同時に私は温かいものに包まれていた。

『う、動かないで⋯く、下さ⋯い』

ドサッと護衛の1人が倒れるのが見えた。その手には剣が握られていた。
私を狙ったのか?私の護衛騎士が?

『アイザック様ご無事ですか!』

『私は大丈夫だ。それより』

『バクラ先生!バクラ先生!』

言い切る前にヴォルフが泣きなが呼ぶのは⋯⋯
私を抱きしめているのはヴォルフの家庭教師か?

『しっかりして下さい!バクラ先生!』

『わ、分かり⋯ましたか?う、裏切りも、あるの⋯ですよ』

『バクラ先生~』

『つ、強く⋯⋯賢くなって⋯くださ⋯い。だ、誰にも⋯⋯り、利用され⋯ないでくだ⋯さいね』





私を狙った護衛は宰相の補佐だった男に恋人を人質に取られ脅されていたそうだ。


素直なヴォルフの前で私を殺し、心に傷を負ったヴォルフをさらに追い詰め、壊していくつもりだったらしい。
自分で判断できないように、補佐の男に依存するように、そして影から王となったヴォルフを操るつもりだった。と⋯⋯その為に今までヴォルフを可愛がっている振りをしていた。と拷問の末自白した。
確かに補佐の男にヴォルフは懐いていた。

こんな子供ヴォルフを?
まだ6歳だぞ?

この日から素直だったヴォルフは眉間に皺を寄せて扱いにくい子供を演じ、人を近づけなくなった。
常に人を警戒し観察するようになったんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

そして、女嫌いになった原因だが、それは何年もヴォルフの世話をしていた侍女だった。


それから7年後、ヴォルフが13歳の時だ。

13歳といえど、綺麗な顔をしているヴォルフは令嬢や、我が子を王子妃にと望む者から狙われていた。
それでもあの事件から人一倍警戒心の強いヴォルフが見た目や、甘い言葉に騙されることは無かった。


だが侍女は違った。

それまで献身的に仕える侍女にヴォルフは警戒を解いていた。
ただそれは侍女はヴォルフの精通が始まるまでのことだった。

どうやって忍び込んだのか10歳以上年下の子供相手に、痺れ薬を使ってまで夜這いをかけたのだ。
それは王家の血を引く子が欲しかった訳でもなく、ヴォルフを愛していた訳でもなく、ただ単に初めてを奪いたかったと告白した。
だがそれはヴォルフだから初めてを奪いたかったのではなく、初めてなら相手は誰でもよかったと⋯⋯それまでにも何人もの少年の初めてをいただいてきたと告白した。



結局、身体中触られたそうだが、運よくおぞましい行為に及ぶ前に、たまたま母上がヴォルフの寝顔を見に行き、その現場を目撃し現行犯で取り押さえヴォルフ自身は守られたが、その時の侍女の手が、目が、言葉がヴォルフを女嫌いにしたのだ。





そんなヴォルフが恋をした。
レフタルド王国の王太子であるラシード殿下の元婚約者候補、ベルティアーナ・侯爵令嬢に⋯⋯
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

この声は届かない

豆狸
恋愛
虐げられていた侯爵令嬢は、婚約者である王太子のことが感知できなくなってしまった。 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。

豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」 「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」 「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...