10 / 30
カルセイニア王国編
10
しおりを挟む
「姉上綺麗だよ」
「ありがとう。伯母様のお陰だわ」
「年々お母様に似てきたな。⋯⋯1人で行かせるのは心配だ」
「何が心配なの?モルダー兄様が一緒だから大丈夫よ」
そうなのだ。今日の私のエスコートは従兄のモルダー兄様がしてくれる事になったのだ。
王太子殿下の側近であるお兄様は、今日の夜会に参加はするけれど王太子殿下の傍を離れられないらしく、『ベルのエスコートが出来ないなら側近を辞める』とまで言って周りを困らせた。
ウィルはまだ参加できないし、お父様はこの国に来てから一切社交の場には出ていない。『隠居の身だから行けない』とか言い訳をしている。
確かに当主はお兄様で、他国から移住してきたお父様が表に出ることをよく思わない人もいるだろう。
そこで名乗り出てくれたのがモルダー兄様なのだ。
この国に到着してバーネット公爵家にご挨拶に行った時には王太子殿下の視察に同行していたため会えなかったモルダー兄様。
その視察から帰ってくるなり我が家に訪問してきた。
お祖父様と伯父様に似たクマのような人を想像していたが、身体付きは大きくて筋肉モリモリなのは一緒だけれど、聞いていた実年齢よりも若く見える童顔で、ご両親似ではなくお祖母様似だった。
ガッチリとした体に垂れ目の、凛々しいというよりかは可愛らしいワンコのような人。
会うなり『君たちがベルティアーナとウィルダーだね』と手を伸ばしてきた。お祖父様と伯父様で学習した私とウィルは思わず後退ってしまった。
結局、抱き上げられることも、高い高いをされることもなかったけれど、頭を撫で回され私のウェーブのかかった髪は絡まり、ウィルの髪は鳥の巣のようになった。
その後専属侍女のハンナがどれだけ苦労したことか⋯⋯
それ以来度々我が家を訪れるようになったモルダー兄様に、以前から教えを乞いたいと願っていたウィルはすごく懐いている。
「やあ!ベルティアーナ!いつにも増して可愛いじゃないか!」
「当然だよ!僕の姉上だからね!」
「⋯⋯モルダー、くれぐれもベルを頼んだよ」
「お任せ下さい。何人たりともベルティアーナには近付かせません」
「姉上は絶対にモルダー兄上から離れたらダメだよ」
「⋯⋯わかったから同じことを言わないでよ」
これはウィルだけでなくお兄様にもお父様にも何度も言われ続け信用のない自分に少し落ち込んだ。
「さあ着いたよ。ここからは気を引き締めるんだよ」
「はい。仮面を被るのには慣れているから大丈夫です」
モルダー兄様の手を借りて馬車から降りる。
そのままエスコートされて夜会会場となるホールに向かった。
初めて公の場。
入場する時に大きな声で名前を呼ばれる。
「バーネット公爵家モルダー様。ディスター侯爵家ベルティアーナ様ご入場」
淑女の仮面は貼り付け済み。
薄く微笑んで真っ直ぐ前だけを見つめる。
中には色とりどりのドレスを着た貴婦人や令嬢たち、正装を着こなす男性たちの姿。
その中でも白いドレスの令嬢たちが私と同じデビュタントだ。
男性の衣装についてはよく分からない。
この国に来て数ヶ月経つけれど、私の知り合いは身内だけの狭い範囲だけ。
学院にも通っていない私を知る人はいないに等しい。
ふんふん。なるほど。なるほど。
ヒソヒソと話している内容を耳が拾うと、どうもモルダー兄様はモテるみたい。隣にいる私が気に入らないらしい。
睨んでいる令嬢が何人もいる。
このパターンは1人になると陸なことがないのは経験ずみ。
まだ婚約者のいないモルダー兄様は公爵家嫡男、次期公爵夫人の地位を狙っている令嬢が多いのは想定済み。そんな争いに巻き込まれないために、王家への挨拶とダンスを踊り終われば帰る予定だった。
「女って怖いよね」
モルダー兄様にも令嬢方の会話が聞こえていたようだ。誰にも聞こえないように少し屈んで話しかけてきた。
「いつまでも婚約者も作らないモルダー兄様が悪いのでは?」
「それを言ったら俺と同じ歳のレックスも同じだろ?」
「レックス兄様にお付き合いしている令嬢はいませんの?」
「めちゃくちゃモテるけど聞いたことがないな。それどころか令嬢に対して愛想笑いもしないよ」
そんな他愛もない会話を2人でしていると、令嬢方の視線はどんどん鋭くなっていくのが分かる。
もう早く帰りたい。
「ありがとう。伯母様のお陰だわ」
「年々お母様に似てきたな。⋯⋯1人で行かせるのは心配だ」
「何が心配なの?モルダー兄様が一緒だから大丈夫よ」
そうなのだ。今日の私のエスコートは従兄のモルダー兄様がしてくれる事になったのだ。
王太子殿下の側近であるお兄様は、今日の夜会に参加はするけれど王太子殿下の傍を離れられないらしく、『ベルのエスコートが出来ないなら側近を辞める』とまで言って周りを困らせた。
ウィルはまだ参加できないし、お父様はこの国に来てから一切社交の場には出ていない。『隠居の身だから行けない』とか言い訳をしている。
確かに当主はお兄様で、他国から移住してきたお父様が表に出ることをよく思わない人もいるだろう。
そこで名乗り出てくれたのがモルダー兄様なのだ。
この国に到着してバーネット公爵家にご挨拶に行った時には王太子殿下の視察に同行していたため会えなかったモルダー兄様。
その視察から帰ってくるなり我が家に訪問してきた。
お祖父様と伯父様に似たクマのような人を想像していたが、身体付きは大きくて筋肉モリモリなのは一緒だけれど、聞いていた実年齢よりも若く見える童顔で、ご両親似ではなくお祖母様似だった。
ガッチリとした体に垂れ目の、凛々しいというよりかは可愛らしいワンコのような人。
会うなり『君たちがベルティアーナとウィルダーだね』と手を伸ばしてきた。お祖父様と伯父様で学習した私とウィルは思わず後退ってしまった。
結局、抱き上げられることも、高い高いをされることもなかったけれど、頭を撫で回され私のウェーブのかかった髪は絡まり、ウィルの髪は鳥の巣のようになった。
その後専属侍女のハンナがどれだけ苦労したことか⋯⋯
それ以来度々我が家を訪れるようになったモルダー兄様に、以前から教えを乞いたいと願っていたウィルはすごく懐いている。
「やあ!ベルティアーナ!いつにも増して可愛いじゃないか!」
「当然だよ!僕の姉上だからね!」
「⋯⋯モルダー、くれぐれもベルを頼んだよ」
「お任せ下さい。何人たりともベルティアーナには近付かせません」
「姉上は絶対にモルダー兄上から離れたらダメだよ」
「⋯⋯わかったから同じことを言わないでよ」
これはウィルだけでなくお兄様にもお父様にも何度も言われ続け信用のない自分に少し落ち込んだ。
「さあ着いたよ。ここからは気を引き締めるんだよ」
「はい。仮面を被るのには慣れているから大丈夫です」
モルダー兄様の手を借りて馬車から降りる。
そのままエスコートされて夜会会場となるホールに向かった。
初めて公の場。
入場する時に大きな声で名前を呼ばれる。
「バーネット公爵家モルダー様。ディスター侯爵家ベルティアーナ様ご入場」
淑女の仮面は貼り付け済み。
薄く微笑んで真っ直ぐ前だけを見つめる。
中には色とりどりのドレスを着た貴婦人や令嬢たち、正装を着こなす男性たちの姿。
その中でも白いドレスの令嬢たちが私と同じデビュタントだ。
男性の衣装についてはよく分からない。
この国に来て数ヶ月経つけれど、私の知り合いは身内だけの狭い範囲だけ。
学院にも通っていない私を知る人はいないに等しい。
ふんふん。なるほど。なるほど。
ヒソヒソと話している内容を耳が拾うと、どうもモルダー兄様はモテるみたい。隣にいる私が気に入らないらしい。
睨んでいる令嬢が何人もいる。
このパターンは1人になると陸なことがないのは経験ずみ。
まだ婚約者のいないモルダー兄様は公爵家嫡男、次期公爵夫人の地位を狙っている令嬢が多いのは想定済み。そんな争いに巻き込まれないために、王家への挨拶とダンスを踊り終われば帰る予定だった。
「女って怖いよね」
モルダー兄様にも令嬢方の会話が聞こえていたようだ。誰にも聞こえないように少し屈んで話しかけてきた。
「いつまでも婚約者も作らないモルダー兄様が悪いのでは?」
「それを言ったら俺と同じ歳のレックスも同じだろ?」
「レックス兄様にお付き合いしている令嬢はいませんの?」
「めちゃくちゃモテるけど聞いたことがないな。それどころか令嬢に対して愛想笑いもしないよ」
そんな他愛もない会話を2人でしていると、令嬢方の視線はどんどん鋭くなっていくのが分かる。
もう早く帰りたい。
2,349
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
素直になるのが遅すぎた
gacchi(がっち)
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。
聖女が落ちてきたので、私は王太子妃を辞退いたしますね?
gacchi(がっち)
恋愛
あと半年もすれば婚約者である王太子と結婚して王太子妃になる予定だった公爵令嬢のセレスティナ。王太子と中庭を散策中に空から聖女様が落ちてきた。この国では聖女が落ちてきた時に一番近くにいた王族が聖女の運命の相手となり、結婚して保護するという聖女規定があった。「聖女様を王太子妃の部屋に!」「セレスティナ様!本当によろしいのですか!」「ええ。聖女様が王太子妃になるのですもの」女官たちに同情されながらも毅然として聖女の世話をし始めるセレスティナ。……セレスティナは無事に逃げ切れるのだろうか?
四年くらい前に書いたものが出て来たので投稿してみます。軽い気持ちで読んでください。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。
gacchi(がっち)
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる