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カルセイニア王国編

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「⋯⋯ねえウィル」

「うん、すごく目立っているね」

「私たち何かおかしいの?」

「珍しいだけじゃない?気にしなくていいよ」

そうなのかな?
まあこの学院の制服を着ていない時点で目立つのは仕方がないけれど、ウィルの機嫌が悪そう。
周りを威嚇するかのように目つきが鋭くなっている。
随分前に身長を抜かされから成長期と言うのもあるだろうけれどウィルはどんどん背が伸びた。
ずっと鍛錬をしているわりにお祖父様や伯父様のような筋肉モリモリではなく、引き締まった身体付きだ。
それにお兄様と似ているとは言え、まだ幼さの残る顔は姉の私から見ても成長が楽しみな美形だ。
そんなウィルと一緒にいるから目立つのだと思う。

私はいつも通り淑女の仮面を貼り付けている。
最初が肝心だものね。
すれ違う生徒たちに軽く微笑んでいたらウィルに手を引っ張られた。

「それはもういいから学院長室に急ごう」

微笑むのもダメみたい。
校舎の入口にあった見取り図を思い浮かべながら学院長室に向かう。
⋯⋯おかしい。頭に地図は入っているのに進む先々で方向修正させられる。
認めたくはないけれど私って方向音痴だったりするの?
この学院は敷地も広いし私1人だと迷子になっていたかもしれない。


実際、迷子扱いされたこともあるし⋯⋯






前もってコチラの要望も伝えていたからスムーズに試験を終えることができた。
あとは結果待ちになる。

試験を挟んでの昼食時は試験を行った隣の部屋を使わせてもらって人の目もなかったのに、帰りの馬車までが遠く感じるくらい朝よりも視線が痛い。

「こんなに視線を向けられるのは編入生が珍しいからだけだよね?」

「ふん!暇なヤツらばかりなんだろ」

普段は穏やかな話し口調のウィルなのに、行きと同じくらい機嫌が悪いみたいだから話を変えよう。

「で、ウィルの出来はどうだったの?ちなみに私は自信あるわよ」

「⋯⋯僕は少し怪しい⋯⋯かな?」

ウィルは以前通っていた学園でも首席を取ることはなかったけれど上位にはいた。
何だかんだ言って大丈夫だと信じている。

私は運動はからっきしだけど、成績だけはトップ3から落ちたことはなかった。
今回も手応えがあった。

「明日は街に行って甘いものでも食べましょうか?」

「いいねぇ⋯⋯でも姉上は絶対に僕から離れたらダメだよ?」

⋯⋯⋯⋯。

お兄様の休暇中に街には2度連れて行ってもらった。
そして、2度迷子に⋯⋯いいえアレはハグれたのよ。

レフタルド王国では王都の街に家族で出掛けたことなどなかったからついはしゃぎ過ぎちゃったのよね。

その日は街に馴染めるように町娘風に装ってもらった。
お兄様もウィルもラフな格好をしていたけれど、どうしても目立ってしまうお兄様の後ろには、引き寄せられるかのように女性たちがフラフラとついてきていた。
そのお兄様は慣れているのかまったく気にした様子はなかったけれど、女性たちの視線は私にも向けられていて⋯⋯はっきり言って怖かった。
だってあれは好意的とは言えないものだったから。

まあフラフラしていたのは私も同じだけれど⋯⋯私の場合は好奇心で惹かれた方向に吸い寄せられてしまっただけよ。

それにたとえお兄様やウィルとはぐれても護衛の人たちが見守ってくれていると思い込んで、あっちにフラフラ、こっちにフラフラしてしまった私の行動も軽率だったとは思う。
だから気付いた時には傍にお兄様もウィルもいなかった。
慌てて周りを見渡しても知り合いなんて1人もいるはずもなく完全に迷子⋯⋯いえ、はぐれてしまったの。

(どうしよう⋯⋯こんな時は動かない方がいいのよね?)

不安で動けなくなった私に突然「真っ直ぐ行った先にお前の兄弟がいるぞ」と、背中を押してくれた人がいた。
振り向くとフードを目深に被って口元しか見えない背の高い男性が、まるで早く行けと言わんばかりに手でシッシッとされた。これが1度目にはぐれた時。
実際真っ直ぐ進むと護衛たちに指示を出しているお兄様と、顔色の悪いウィルがいた。

学習能力がないのか2度目も気が付けば1人になっていた。

「また迷子になったのか?」

聞き覚えのある声に、え?と思った時にはまた背中を押された。

「このまま真っ直ぐに行け。もう1人にはなるなよ」と言った男性は前回と同じようにフードを被っていて口元しか見えなかった。

2度とも突然声をかけられたけれど、嫌悪感や疑う気持ちにはならなかったのは何故だろう?





もしまたあの人に会えたらお礼を言わないと⋯⋯
でもフードを深くかぶったていたから顔が見えなかったのよね。
たとえ会えても分からないかな?

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