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レフタルド王国編
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~オリビア・テルー男爵令嬢視点~
目を覚ましたらお母さんとお父さんが心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
どうもドアのノブに額をぶつけて気を失ったそうだ。
大きなたんこぶは出来ていたけれど、傷がないことにひと安心。
あと一年であたしもラシード様の通う学園に入学する。
もう楽しみしかない。
早く実物のラシード様に会いたいな。
あたしがテルー男爵家に引き取られて、やっと一年が経とうとしていた。長かった。
その間に変わったことと言えば、両親のことを貴族の令嬢らしく"お父様""お母様"と呼ぶようになったことと、家庭教師を付けてもらってマナーと少しの教養を教えてもらったこと。
勉強は文字の読み書きや簡単な計算は、元々お母様に教えられていたので学園入学レベルまではすぐに追いついた。
いよいよラシード様に会える!
待ちに待った入学式。
期待を胸に学園の門を潜った。
ラシード様との出会いは、これまた乙女ゲームでよくある入学式会場を目指して歩いているうちにヒロインが迷ってしまったところに声をかけられ、連れて行ってもらうのよね。
いや~自分でもそんなベタなことが有り得る?なんて思っていたけれど、本当に迷ってしまって困ってしまった。
ここで本当にラシード様に会えなかったらどうしようって不安になっていたら、後ろから声をかけられた。
振り向くと⋯⋯青い髪に金色の瞳のラシード様が目の前にいてあたしを見下ろしていた。
携帯の画面越しに見ていた時と比べ物にならない!
前世からあわせてもこんなカッコイイ人知らない。
スラリと背も高くて、髪だってつやつやサラサラで、金色の瞳が知性や性格の穏やかさを表しているし、鼻筋も通っていて高い、何より存在感が凄い⋯⋯
あ、あたしこんな人に愛されるんだ~
将来はあんなことやこんなこともするんだよね。
何か照れくさいけれど嬉しいな~。
この日は会話らしい会話もなく普通に入学式会場に案内された。
でも、やっぱり攻略対象者たちとヒロイン。
何処ででも出会ってしまうんだよね。
偶然ぶつかってしまったり、困っていたりすると登場するの。
確かに攻略対象者。皆んなカッコイイし可愛かったりするけれど、あたしはラシード様一択!余所見なんてしないの。
そのラシード様とは入学して一ヶ月もしないうちに彼の隣で恋人のような関係になっていた。
まあ、ラシード様から手を繋いできたり肩を抱かれたりはされないけれど⋯⋯
出会ったばかりだし意外と彼は照れ屋さんみたい。
で、悪役令嬢のベルティアーナなんだけど初めて彼女を見た時はマジで驚いた。
もう天使か妖精かと錯覚してしまいそうなほどの可愛らしさに高貴な美しさを併せ持っていたんだもの。全然悪役令嬢には見えなかった。
でも、あたしは騙されないわよ。
見た目で判断したらあたしが痛い目を見ることになるんだから!
気を抜いたらダメよって自分に言い聞かせた。
入学して三ヶ月以上経つのに⋯⋯何もしてこない。
『無闇矢鱈と男性に触れてはいけませんよ』
『せっかく貴族の常識やマナーを学べる恵まれた環境に入学されたのですから身につけるよう努力されてはいかがですか?』
注意はされたけれど嫌味っぽくなかったし、怒ってもいなさそうだった。
それどころかベルティアーナはラシード様に一切関心がなさそうな気がするんだよね。
ダメだめ!ベルティアーナは悪役令嬢だもの、あの微笑みの仮面の下できっと何か企んでいるのよ。
だってゲームと同じでベルティアーナはいつも一人だし友達も居なさそう。たまに誰かと居ると思ったらベルティアーナと同じ髪色と瞳の色の弟のウィルダーだもの。
本当に何もしてこない⋯⋯
ちょっと!このままだとラシード様が卒業しちゃうじゃない!
⋯⋯誰にも虐めもされなければ無視もされない。至って平穏な毎日。
どんな乙女ゲームでも悪役令嬢がヒロインに何もしなくても、モブたちが嫌がらせをして、その罪を悪役令嬢に擦り付けたりするものでしょう?
脇役のモブたちぐらい意地悪してきなさいよ!
ベルティアーナの評判を落とさなければ、いつかラシード様が彼女に惹かれてしまうかもしれない。
ベルティアーナをお飾りの王太子妃にして、あたしがラシード様に愛される設定なのに⋯⋯
だからベルティアーナに意地悪されているってラシード様に泣きついたの。
あたしがラシード様に話した虐めや嫌がらせは、ゲームではヒロインであるオリビアは本当にされていたことだからバレないと思った。
でも以前食堂でラシード様に『顔を見たくもない』と言われたベルティアーナが学園を辞めていたなんて知らなかった。
しかも、もうこの国にも居ないなんて⋯⋯そんなこと知らない。
それに⋯⋯ベルティアーナがラシード様の婚約者ではなかったなんて設定と違う。
ベルティアーナがこの国に居ないのに、毎日ラシード様に彼女に虐められていると訴えていたなんて⋯⋯あたしの嘘は簡単にバレた。
どうしよう、これからどうすればいいの?
でもラシード様なら許してくれるよね?
だってあたしを愛してるものね?
結局ラシード様はあたしに何も言わなかった。
王族についた嘘も罪に問われなかった。
でも、ラシード様の隣には置いてくれなくなった。
ううん、あたしが話しかけても返事もしてくれない。見向きもしてくれない。あたしが存在していることさえも見えていないかもしれない⋯⋯
落ち込んでいるあたしに親切な先輩が教えてくれた。
あたしが入学する前もラシード様は次々にいろんな女の人を傍に置いていたらしい。
だからあたしがラシード様の隣にいても、いつもの気まぐれだと誰もが思っていたらしい。
あたし愛されヒロインなのに⋯⋯特別ではなかったとでも言うの?
確かに『好き』だとか『愛している』なんて甘い言葉を一度も言われたことがない⋯⋯もしかしたら名前も呼ばれたことがなかったかもしれない。
そんな人と結ばれて乙女ゲームのヒロインは本当に幸せだったのだろうか?
いま、あたしはひとりぼっちだ。
誰も何も言わない。何もされない。空気のような存在。
話しかければ応えてはくれる。
でもそれだけ。
ずっとコレが続くんだ⋯⋯卒業まで長いな。
あたしが嘘をついてベルティアーナ公爵令嬢を陥れようとした事を全生徒が知っている。
きっと社交の場にもそれは広がっている。
そんなあたしが貴族と結婚するのはもう無理だろう。
乙女ゲームと現実は違うと身をもって知った。
『⋯⋯ごめんなさい』
『いいんだよ。人生は長い。反省して誠実に生きていれば、いつか認めてくれる人もきっと現れるよ』
『これから信用を取り戻せるように一緒に頑張りましょう?私たちはどんなオリビアでも愛しているわ』
今回のことで迷惑をかけた両親は、こんなあたしを見捨てるでもなく応援してくれると言ってくれた。
今あたしが出来ることは、この学園で勉強も常識もマナーも学べるだけ学んで身につけること。
いつかそれが武器になり役に立つと思うから。
今のあたしにラシード様への恋心はもう無い。
卒業するラシード様の背中を見つめて『夢をありがとう』と『さよなら』を⋯⋯
今更だけど気になったことが一つ。
もしかしてベルティアーナもあたしと同じ転生者だったとか?
だとしたら、孤独な未来を回避できたのだから『幸せになって』と⋯⋯心から祈っているわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも読んでいただき有難うございます。
次話からベルティアーナ視点になります。
目を覚ましたらお母さんとお父さんが心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
どうもドアのノブに額をぶつけて気を失ったそうだ。
大きなたんこぶは出来ていたけれど、傷がないことにひと安心。
あと一年であたしもラシード様の通う学園に入学する。
もう楽しみしかない。
早く実物のラシード様に会いたいな。
あたしがテルー男爵家に引き取られて、やっと一年が経とうとしていた。長かった。
その間に変わったことと言えば、両親のことを貴族の令嬢らしく"お父様""お母様"と呼ぶようになったことと、家庭教師を付けてもらってマナーと少しの教養を教えてもらったこと。
勉強は文字の読み書きや簡単な計算は、元々お母様に教えられていたので学園入学レベルまではすぐに追いついた。
いよいよラシード様に会える!
待ちに待った入学式。
期待を胸に学園の門を潜った。
ラシード様との出会いは、これまた乙女ゲームでよくある入学式会場を目指して歩いているうちにヒロインが迷ってしまったところに声をかけられ、連れて行ってもらうのよね。
いや~自分でもそんなベタなことが有り得る?なんて思っていたけれど、本当に迷ってしまって困ってしまった。
ここで本当にラシード様に会えなかったらどうしようって不安になっていたら、後ろから声をかけられた。
振り向くと⋯⋯青い髪に金色の瞳のラシード様が目の前にいてあたしを見下ろしていた。
携帯の画面越しに見ていた時と比べ物にならない!
前世からあわせてもこんなカッコイイ人知らない。
スラリと背も高くて、髪だってつやつやサラサラで、金色の瞳が知性や性格の穏やかさを表しているし、鼻筋も通っていて高い、何より存在感が凄い⋯⋯
あ、あたしこんな人に愛されるんだ~
将来はあんなことやこんなこともするんだよね。
何か照れくさいけれど嬉しいな~。
この日は会話らしい会話もなく普通に入学式会場に案内された。
でも、やっぱり攻略対象者たちとヒロイン。
何処ででも出会ってしまうんだよね。
偶然ぶつかってしまったり、困っていたりすると登場するの。
確かに攻略対象者。皆んなカッコイイし可愛かったりするけれど、あたしはラシード様一択!余所見なんてしないの。
そのラシード様とは入学して一ヶ月もしないうちに彼の隣で恋人のような関係になっていた。
まあ、ラシード様から手を繋いできたり肩を抱かれたりはされないけれど⋯⋯
出会ったばかりだし意外と彼は照れ屋さんみたい。
で、悪役令嬢のベルティアーナなんだけど初めて彼女を見た時はマジで驚いた。
もう天使か妖精かと錯覚してしまいそうなほどの可愛らしさに高貴な美しさを併せ持っていたんだもの。全然悪役令嬢には見えなかった。
でも、あたしは騙されないわよ。
見た目で判断したらあたしが痛い目を見ることになるんだから!
気を抜いたらダメよって自分に言い聞かせた。
入学して三ヶ月以上経つのに⋯⋯何もしてこない。
『無闇矢鱈と男性に触れてはいけませんよ』
『せっかく貴族の常識やマナーを学べる恵まれた環境に入学されたのですから身につけるよう努力されてはいかがですか?』
注意はされたけれど嫌味っぽくなかったし、怒ってもいなさそうだった。
それどころかベルティアーナはラシード様に一切関心がなさそうな気がするんだよね。
ダメだめ!ベルティアーナは悪役令嬢だもの、あの微笑みの仮面の下できっと何か企んでいるのよ。
だってゲームと同じでベルティアーナはいつも一人だし友達も居なさそう。たまに誰かと居ると思ったらベルティアーナと同じ髪色と瞳の色の弟のウィルダーだもの。
本当に何もしてこない⋯⋯
ちょっと!このままだとラシード様が卒業しちゃうじゃない!
⋯⋯誰にも虐めもされなければ無視もされない。至って平穏な毎日。
どんな乙女ゲームでも悪役令嬢がヒロインに何もしなくても、モブたちが嫌がらせをして、その罪を悪役令嬢に擦り付けたりするものでしょう?
脇役のモブたちぐらい意地悪してきなさいよ!
ベルティアーナの評判を落とさなければ、いつかラシード様が彼女に惹かれてしまうかもしれない。
ベルティアーナをお飾りの王太子妃にして、あたしがラシード様に愛される設定なのに⋯⋯
だからベルティアーナに意地悪されているってラシード様に泣きついたの。
あたしがラシード様に話した虐めや嫌がらせは、ゲームではヒロインであるオリビアは本当にされていたことだからバレないと思った。
でも以前食堂でラシード様に『顔を見たくもない』と言われたベルティアーナが学園を辞めていたなんて知らなかった。
しかも、もうこの国にも居ないなんて⋯⋯そんなこと知らない。
それに⋯⋯ベルティアーナがラシード様の婚約者ではなかったなんて設定と違う。
ベルティアーナがこの国に居ないのに、毎日ラシード様に彼女に虐められていると訴えていたなんて⋯⋯あたしの嘘は簡単にバレた。
どうしよう、これからどうすればいいの?
でもラシード様なら許してくれるよね?
だってあたしを愛してるものね?
結局ラシード様はあたしに何も言わなかった。
王族についた嘘も罪に問われなかった。
でも、ラシード様の隣には置いてくれなくなった。
ううん、あたしが話しかけても返事もしてくれない。見向きもしてくれない。あたしが存在していることさえも見えていないかもしれない⋯⋯
落ち込んでいるあたしに親切な先輩が教えてくれた。
あたしが入学する前もラシード様は次々にいろんな女の人を傍に置いていたらしい。
だからあたしがラシード様の隣にいても、いつもの気まぐれだと誰もが思っていたらしい。
あたし愛されヒロインなのに⋯⋯特別ではなかったとでも言うの?
確かに『好き』だとか『愛している』なんて甘い言葉を一度も言われたことがない⋯⋯もしかしたら名前も呼ばれたことがなかったかもしれない。
そんな人と結ばれて乙女ゲームのヒロインは本当に幸せだったのだろうか?
いま、あたしはひとりぼっちだ。
誰も何も言わない。何もされない。空気のような存在。
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あたしが嘘をついてベルティアーナ公爵令嬢を陥れようとした事を全生徒が知っている。
きっと社交の場にもそれは広がっている。
そんなあたしが貴族と結婚するのはもう無理だろう。
乙女ゲームと現実は違うと身をもって知った。
『⋯⋯ごめんなさい』
『いいんだよ。人生は長い。反省して誠実に生きていれば、いつか認めてくれる人もきっと現れるよ』
『これから信用を取り戻せるように一緒に頑張りましょう?私たちはどんなオリビアでも愛しているわ』
今回のことで迷惑をかけた両親は、こんなあたしを見捨てるでもなく応援してくれると言ってくれた。
今あたしが出来ることは、この学園で勉強も常識もマナーも学べるだけ学んで身につけること。
いつかそれが武器になり役に立つと思うから。
今のあたしにラシード様への恋心はもう無い。
卒業するラシード様の背中を見つめて『夢をありがとう』と『さよなら』を⋯⋯
今更だけど気になったことが一つ。
もしかしてベルティアーナもあたしと同じ転生者だったとか?
だとしたら、孤独な未来を回避できたのだから『幸せになって』と⋯⋯心から祈っているわ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも読んでいただき有難うございます。
次話からベルティアーナ視点になります。
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