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兄上の立太子の義まであと3日まできた。

王城内では皆が忙しく動き回っている。

そんな時、アトラス帝国代表で来られた第二皇子が挨拶の為、国王と謁見をする事になった。

初めて会うアトラス帝国のアルベルト皇子はティアと同じ色を纏っていた。
銀色の髪に、紫の瞳。
誰もが見惚れる芸術品のような美貌。
堂々とした佇まい、圧倒される存在感、何もかもが完璧だった。

一瞬目が合った気がした。


挨拶が終わったあとは来賓用の部屋へ案内されるため謁見の間を後にした。

凄く緊張した。こんなのは、はじめてだった。
あれが帝国の皇子。

あの方がレオンとティアの従兄なのか・・・

ティアは帝国の王族の血を引いているんだ。
知っていた。
分かっていたことなのに皇子を見るまで頭から抜けていた。


呆然として暫く動けなかった。



一息つくため私室に戻ろうと長い廊下を歩いていた時、視界に銀色が入ってきた。

何となく見るとティアだった。

余所見もせず、真っ直ぐ走っていた。
ティアの目線の先にはアルベルト皇子が手を広げて待っていた。
お互いが抱きしめ合うと、ティアの額にアルベルト皇子がキスを送った。
しばらく見つめ合ったあと、アルベルト皇子が跪いた。
もう何が起こってるのか声が聞こえなくてもわかった。
ティアの綺麗な瞳から涙がポロポロ溢れている。
何度も頷くティアを抱きしめるアルベルト皇子。
2人が並んだ姿は大袈裟でもなく絵画のようだった。


俺が失恋した瞬間だった。


呆然としていた俺に「2人はずっと何年も思い合っていたんだ」と声を掛けてきたのはレオンだった。

「長い間、アルベルト皇子はティアを本当に大切にしていたんだ。
ティアが1歳の頃からだ。
帝国で傷つき過ぎて顔から表情が消えたアルベルト皇子は療養のため、我が邸で預かっている時期があったんだ。」

「そんな彼を1歳のティアが癒していったんだ。2人はずっとお互いの側にいた。7年間帝国に帰るまでずっとだ。」

「帰る時に必ず迎えに来ると両親に約束したんだ」

「それからは1年に1ヶ月だけ領地で会っていたんだ。まだ子供のティアを大人になるまで大事に大事に見守っていたんだ」

「噂があっただろ?公爵家の令嬢は病弱で、我儘、傲慢あれは父上がアルベルト皇子のために流した噂だ。余計な虫が付かないようにな」

「1度だけティアが王城に来たことがあるんだ。その時に【ワガママで傲慢な女なんかたとえ婚約者になったとしても大事にすることもないし、いつか婚約破棄してやるよ!】って聞いてしまったティアは物凄く傷ついたんだ。だってそうだろ?会ったこともないのに悪意を向けられたんだ。その時もアルベルト皇子が側にいて癒したんだ。」

「思い出したか?」

目の前が真っ暗になった。
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