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普段は素通りする食堂を、廊下にも聞こえる声で5、6人の令嬢VS10人ほどの子息で言い争っている。
何を言い争っているのか好奇心を擽られる。
いや、野次馬根性か。
なになに・・・
どうも彼らは1人の令嬢を庇っているようだ。
フムフム・・・
小さくて見えなかったけれど確かにチラチラと男子生徒の集団の隙間から女子生徒の制服が見えるわね。
なるほど、なるほど・・・
異性とは適切な距離をとりなさい!婚約者のいる人に必要以上に近づくな!って当たり前のことを言っているようね。
確かにアレはないわ~・・・
あれ、女から見ればわざとらしいのよね。
あの中の男子生徒の袖をちょこんと摘んで震えてか弱そうに見えるけれど・・・あれ、演技だわ。
私の位置や近くで座っている令嬢達には見えている。
俯いている彼女の口が笑っているのがね!
「ああ、彼女が例の噂の娘ね。・・・庇護欲を唆るのですって!か弱くて守ってあげたくなるって1年の男子生徒の間では人気があるそうよ。わたくしに言わせれば強かで性悪な悪女ですわ。あの演技に騙される男性が居るなんて・・・今後あの子息たちのお家とはお付き合いを考えなければなりませんわね」
そうだよね。
確かに小さくてか弱そうに見える。
でもそんな令嬢は周りに沢山いる。
彼女だけがそう見えるのは演技しているからなんだけどな~
彼女を囲っている男子生徒には分からないんだろうな。
あれだけの子息に守ってもらえるなんて彼女は相当魅力的なんだろうけれど、あれじゃあ女には嫌われるわ。
「さあ、リナ様達を待たせたら申し訳ないわ。わたくし達も行きましょう」
エル姉様が私の手を握って引いてくれた。
あ!待って!
彼女がキョロキョロして誰かを探しているみたい。
!!!
あの子だ!あの子が転生者だ!
目が合った瞬間、キッと睨まれた。
いや、睨まれたと言うより増悪を向けられた。
何で?私まだ何もしてないよ?
私はあの目を知っている。
フィオナが体験した死が突然フラッシュバックする。
フィオナの死の瞬間が私の実体験として襲いかかってくる。
頭のどこかでコレはフィオナの体験だと理解しているのに、あの子が恐ろしい。
あの子は同じ人間とは思えないほどの悪だ。
震えが止まらない。
「はっ、はっ、はっ、はっ、・・・」
く、苦しい・・・呼吸が上手くできない。
助けて!誰か助けて!
フィオナの心が壊れた瞬間まで・・・見せないで!
なぜ?
なぜあの子はお父様やお母様まで殺したの?
やめて!・・・エル姉様!アル兄様!
・・・ああ、フィオナは自分を庇って殺されたエル姉様とアル兄様を見てしまったのね。
元々疲弊していた精神が、これが原因でとうとう耐えられなくなった・・・それで心が壊れてしまったのね。
そのあと男たちに穢された時にはもう何も感じられなかったことだけが・・・救いだったのかも・・・
「フィオナ!」
「フィオナ嬢!」
覚えているのはエル姉様の焦る声と、知らない誰かの声。
そして硬くて温かい何かに包まれた気がした・・・
そこで私の意識はブラックアウトした・・・
「妹をここまで運んで下さりありがとうございました。このお礼はフォーライト家から後日させて頂きますわ。貴方は食事をしに行って下さいませ」
「お礼はいいです。・・・彼女は大丈夫でしょうか?」
「わたくしが着いていますもの大丈夫ですわ。これ以上はお気になさらず」
「分かりました・・・ではお大事に」
まだ何かを言いたげに去って行った彼はフィオナの婚約者になるはずだったレオニール・サウス公爵子息。
ずっとフィオナから目を離さず心配そうに見つめていたわね。
彼がフィオナを支えてくれたお陰で怪我はないけれど・・・
「大丈夫よ。大丈夫。フィオナはわたくし達が必ず守ってあげますからね」
わたくしとアルと同じ銀色の髪を撫でながら過去を思い出す。
わたくしが物心ついた時からフィオナは泣くことも、笑うこともしなかった。
でもね、眠っている時は違ったのよ。
お昼寝しているフィオナは本物のお人形のように美しくて可愛いかったわ。
眠っているフィオナの小さな右手はわたくしが、左手はアルが握るとニコリと笑顔を見せてくれていましたのよ。
それが可愛くて可愛くて、毎日お昼寝中のフィオナに会いに行っていたわ。
例えフィオナに感情がなくても、大切で可愛い妹に違いはなかったのよ。
そんなフィオナが初めて感情を現したのがレオニールとの婚約を結ぼうとした時。
イヤだと、婚約はしたくないと初めて自分の意見を言いましたわね。
それだけで涙が出そうなほど嬉しかったわ。
涙脆いお母様は泣いてしましたし、『魔王』と呼ばれるお父様も涙を浮かべていらしたわ。
部屋から退室する時には手を差し伸べたわたくしとアルを見てクスっと笑顔を見せてくれたわね。
それが嬉しくて、本当に嬉しくてわたくしもアルも涙が溢れてしまったわ。
それから、フィオナが信じられない話しを語ってくれた。
それはとても辛い話しだった。
転生者に殺されては何度も人生を繰り返していると・・・
きっと繰り返しが終わらないのは、神様がその先の未来をフィオナに生きて欲しいからだとわたくしは思うの。
だからもう二度と死なせたりしないわ。
フィオナは幸せにならないといけないのよ。
「あの娘が転生者なのね?」
フィオナ・・・怖かったわね。
貴女の震えが繋いだ手からわたくしにも伝ってきたわ。
フィオナのあの震え方は尋常ではなかった。
わたくし達のフィオナがあんな娘に、繰り返し何度も殺されたなんて・・・
何時殺されるのか怯えて警戒する日々は怖かったでしょう?
誰にも相談せずに1人で頑張って抗っていたのでしょう?
頑張ったわね・・・。
フィオナが覚醒した日。
全ては話さなかった、いえ、話せなかったのでしょう?
家族にも言えない、心が壊れるほど耐えられない何かがあったのでしょう?
わたくしはフィオナをずっと見ていたから分かるのよ。
問い詰めてもきっと貴女は話してくれないわね。
でも忘れないでフィオナ。
もう貴女は1人で頑張らなくていいの。
わたくし達家族が必ず守るから・・・。
転生者が誰だか分かってしまえば、打つ手はいくらでもあるのよ。
「だから今はゆっくり休みなさい。起きたらまた笑顔を見せてね」
何を言い争っているのか好奇心を擽られる。
いや、野次馬根性か。
なになに・・・
どうも彼らは1人の令嬢を庇っているようだ。
フムフム・・・
小さくて見えなかったけれど確かにチラチラと男子生徒の集団の隙間から女子生徒の制服が見えるわね。
なるほど、なるほど・・・
異性とは適切な距離をとりなさい!婚約者のいる人に必要以上に近づくな!って当たり前のことを言っているようね。
確かにアレはないわ~・・・
あれ、女から見ればわざとらしいのよね。
あの中の男子生徒の袖をちょこんと摘んで震えてか弱そうに見えるけれど・・・あれ、演技だわ。
私の位置や近くで座っている令嬢達には見えている。
俯いている彼女の口が笑っているのがね!
「ああ、彼女が例の噂の娘ね。・・・庇護欲を唆るのですって!か弱くて守ってあげたくなるって1年の男子生徒の間では人気があるそうよ。わたくしに言わせれば強かで性悪な悪女ですわ。あの演技に騙される男性が居るなんて・・・今後あの子息たちのお家とはお付き合いを考えなければなりませんわね」
そうだよね。
確かに小さくてか弱そうに見える。
でもそんな令嬢は周りに沢山いる。
彼女だけがそう見えるのは演技しているからなんだけどな~
彼女を囲っている男子生徒には分からないんだろうな。
あれだけの子息に守ってもらえるなんて彼女は相当魅力的なんだろうけれど、あれじゃあ女には嫌われるわ。
「さあ、リナ様達を待たせたら申し訳ないわ。わたくし達も行きましょう」
エル姉様が私の手を握って引いてくれた。
あ!待って!
彼女がキョロキョロして誰かを探しているみたい。
!!!
あの子だ!あの子が転生者だ!
目が合った瞬間、キッと睨まれた。
いや、睨まれたと言うより増悪を向けられた。
何で?私まだ何もしてないよ?
私はあの目を知っている。
フィオナが体験した死が突然フラッシュバックする。
フィオナの死の瞬間が私の実体験として襲いかかってくる。
頭のどこかでコレはフィオナの体験だと理解しているのに、あの子が恐ろしい。
あの子は同じ人間とは思えないほどの悪だ。
震えが止まらない。
「はっ、はっ、はっ、はっ、・・・」
く、苦しい・・・呼吸が上手くできない。
助けて!誰か助けて!
フィオナの心が壊れた瞬間まで・・・見せないで!
なぜ?
なぜあの子はお父様やお母様まで殺したの?
やめて!・・・エル姉様!アル兄様!
・・・ああ、フィオナは自分を庇って殺されたエル姉様とアル兄様を見てしまったのね。
元々疲弊していた精神が、これが原因でとうとう耐えられなくなった・・・それで心が壊れてしまったのね。
そのあと男たちに穢された時にはもう何も感じられなかったことだけが・・・救いだったのかも・・・
「フィオナ!」
「フィオナ嬢!」
覚えているのはエル姉様の焦る声と、知らない誰かの声。
そして硬くて温かい何かに包まれた気がした・・・
そこで私の意識はブラックアウトした・・・
「妹をここまで運んで下さりありがとうございました。このお礼はフォーライト家から後日させて頂きますわ。貴方は食事をしに行って下さいませ」
「お礼はいいです。・・・彼女は大丈夫でしょうか?」
「わたくしが着いていますもの大丈夫ですわ。これ以上はお気になさらず」
「分かりました・・・ではお大事に」
まだ何かを言いたげに去って行った彼はフィオナの婚約者になるはずだったレオニール・サウス公爵子息。
ずっとフィオナから目を離さず心配そうに見つめていたわね。
彼がフィオナを支えてくれたお陰で怪我はないけれど・・・
「大丈夫よ。大丈夫。フィオナはわたくし達が必ず守ってあげますからね」
わたくしとアルと同じ銀色の髪を撫でながら過去を思い出す。
わたくしが物心ついた時からフィオナは泣くことも、笑うこともしなかった。
でもね、眠っている時は違ったのよ。
お昼寝しているフィオナは本物のお人形のように美しくて可愛いかったわ。
眠っているフィオナの小さな右手はわたくしが、左手はアルが握るとニコリと笑顔を見せてくれていましたのよ。
それが可愛くて可愛くて、毎日お昼寝中のフィオナに会いに行っていたわ。
例えフィオナに感情がなくても、大切で可愛い妹に違いはなかったのよ。
そんなフィオナが初めて感情を現したのがレオニールとの婚約を結ぼうとした時。
イヤだと、婚約はしたくないと初めて自分の意見を言いましたわね。
それだけで涙が出そうなほど嬉しかったわ。
涙脆いお母様は泣いてしましたし、『魔王』と呼ばれるお父様も涙を浮かべていらしたわ。
部屋から退室する時には手を差し伸べたわたくしとアルを見てクスっと笑顔を見せてくれたわね。
それが嬉しくて、本当に嬉しくてわたくしもアルも涙が溢れてしまったわ。
それから、フィオナが信じられない話しを語ってくれた。
それはとても辛い話しだった。
転生者に殺されては何度も人生を繰り返していると・・・
きっと繰り返しが終わらないのは、神様がその先の未来をフィオナに生きて欲しいからだとわたくしは思うの。
だからもう二度と死なせたりしないわ。
フィオナは幸せにならないといけないのよ。
「あの娘が転生者なのね?」
フィオナ・・・怖かったわね。
貴女の震えが繋いだ手からわたくしにも伝ってきたわ。
フィオナのあの震え方は尋常ではなかった。
わたくし達のフィオナがあんな娘に、繰り返し何度も殺されたなんて・・・
何時殺されるのか怯えて警戒する日々は怖かったでしょう?
誰にも相談せずに1人で頑張って抗っていたのでしょう?
頑張ったわね・・・。
フィオナが覚醒した日。
全ては話さなかった、いえ、話せなかったのでしょう?
家族にも言えない、心が壊れるほど耐えられない何かがあったのでしょう?
わたくしはフィオナをずっと見ていたから分かるのよ。
問い詰めてもきっと貴女は話してくれないわね。
でも忘れないでフィオナ。
もう貴女は1人で頑張らなくていいの。
わたくし達家族が必ず守るから・・・。
転生者が誰だか分かってしまえば、打つ手はいくらでもあるのよ。
「だから今はゆっくり休みなさい。起きたらまた笑顔を見せてね」
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