8 / 16
冬の温もり
しおりを挟む冬の始まりを告げる冷たい風が公園を包み込んでいた。
木々の葉はすっかり落ち、地面に敷き詰められた枯れ葉が、歩くたびにカサカサと音を立てる。
空気は澄んでいて、息が白く立ち上る。
美咲と加奈は、手を繋いで公園を散歩していた。
冬の寒さが二人の頬を赤らめ、幸せそうな表情を浮かべている。
「寒いですね」
と美咲が微笑みながら言うと、加奈は頷いた。
「そうですね。でも、一緒にいると温かいです」
「それは良かったです」
と美咲が照れくさそうに言う。
公園の一角に、古びた自販機がポツンと設置されているのが見えた。
「こんなに寒い日には、コンポタの気分ですね」と加奈が言い、
美咲と一緒に自販機の前に立った。加奈はボタンを押して温かいコンポタを取り出し、美咲に手渡す。
「どうぞ、温かいですよ」
美咲はカップを受け取り、一口飲む。口の中に広がるクリーミーな味わいが、体をじんわりと温めた。
「美味しいです。ありがとうございます、加奈さん」
と美咲は笑顔でお礼を言う。
加奈はふと美咲の手が寒そうにかじかんでいるのに気づき、自分のマフラーを外して差し出した。
「これ、使ってください。風邪を引かないように」
美咲は驚きながらも、優しくマフラーを受け取った。
「でも、加奈さんは?」
「大丈夫です。あなたに暖かくなってほしいから」
加奈が自分のマフラーを美咲に巻きつけると、美咲の頬が少し赤くなり、心からの感謝を込めて微笑んだ。
「これで心も体も温かいです。ありがとう、加奈さん」
二人はコンポタを手に持ちながら、公園のベンチに腰掛けた。冬の空気が冷たい中、二人の間に流れる温かな時間が、静かに広がっていった。
美咲は、加奈と過ごすこの穏やかな時間がとても心地よく、冬の冷たさにも関わらず、心の中は温かく満たされていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる