6 / 9
ルート分岐当日
しおりを挟む
翌日から、私は逃げて逃げて、逃げまくった。
時間ギリギリに寮を出て、休み時間には教室から逃亡。放課後も、いち早く寮に帰った。とにかく、十日間、アリシアとレオンには、関わらないようにした。
そして、収穫祭当日。
私は、図書館に身を潜めていた。収穫祭のルート確定イベントが終わるまでは……。今日一日、何とか、やり過ごせば、どうにかなる。そう思っていた。
一番奥にあるテーブルで、本を読んでいると、ふっと影が落ちた。横からすっと伸びてきた手が、勝手に本を閉じる。
「何するの」
相手の顔を見上げれば、レオンだった。
「話がある」
しかめっ面で、それだけ言って、レオンは私の腕を引っ張った。ぐいぐい引っ張られて、小走りになる。問いかけも文句もすべて無視。中庭のフサアカシアの下に来たところで、やっと止まる。
「もう十日」
レオンは、ポツリと言って、こちらを見た。
「十日も、君に避けられている。その理由を聞かせて欲しい」
「……避けてなど、いません」
私の嘘に、レオンは、とびきり大きなため息をついた。
「入学式で初めて会った時、君は、俺の顔を見て、ひどく驚いたようだった」
そりゃあねと、心でうなずく。
見慣れないキャラが、そこにいたんだもの。あの頃はまだ、旧版の『マジなんだ』だと思っていたから。
モブにしてはイケメンだし。イケボだし。しかも、めちゃくちゃ好みだったので、ガン見してしまいました。
まぁ、レオンのおかげで、ここが『シン・マジ』の世界だと気づけたんだけど。
「異国人だから、珍しいのだろうと思ったが、そのあとも、君は俺を見ていた。そのせいで、俺は勘違いをしてしまった」
「勘違い?」
「そう、勘違いだ。しかし、最近になって、君は別の男を気にし始めた。ルークだ。イザベラ。君は、ルークのことが好きなのか?」
なぜ、ルークの話になるのか。不思議に思いながらも、私は首を振って否定する。
「ならば、なぜ、ルークを見ている?」
「それは、その……噂。そう、噂を聞いたのよ。ルークは危ないヤツだって。だから、気になって」
私は、何とかごまかした。レオンは「そうか」と、納得した様子。
それにホッとしていると、レオンの顔がゆるんで笑う。
「……それなら、よかった」
「よかった?」
「君が、他の男に目を向けているのは、我慢ならないからな」
「え?」
「イザベラ」
正面から、まっすぐに見つめられる。かぁっと、耳が熱くなった。一拍、遅れて、心臓がドキンと大きく胸を打ち始める。
ゲーム画面で見る、キャラの超どアップイラストとは、わけが違う。すぐそこにレオンの顔があって、何かのいい匂いがして、息づかいまで聞こえてくる。
「俺は、ただのクラスメイトでいるつもりなどない。どんなに親しかろうが、友人もごめんだ」
「え、」
「君の特別になりたい」
「ぅへ?」
何とも間抜けな声が出た。
ど、どういうこと?
これって、何かのイベントが起こりかけてない?
この状況は、何なの?
頭の中を『?』が埋め尽くしていく。
本来なら、このフサアカシアの下で、アリシアが意中の相手を収穫祭に誘うイベントが起こるはずで……。
事態が飲み込めないでいると、レオンが距離を詰めてきた。
「ちょっと、待って!」
「待たない」
「待って!」
私は右手を突き出したまま、よろよろと後ずさった。少し距離を取れたと思ったら、レオンにたった一歩で詰められる。
「イザベラ、」
自分の名前を呼ぶその声に、クラっとする。
そこで。
「ちょっと待ったー!」
大きな声が中庭に響いた。今さら、彼女の声を聞き間違えるはずがない。
時間ギリギリに寮を出て、休み時間には教室から逃亡。放課後も、いち早く寮に帰った。とにかく、十日間、アリシアとレオンには、関わらないようにした。
そして、収穫祭当日。
私は、図書館に身を潜めていた。収穫祭のルート確定イベントが終わるまでは……。今日一日、何とか、やり過ごせば、どうにかなる。そう思っていた。
一番奥にあるテーブルで、本を読んでいると、ふっと影が落ちた。横からすっと伸びてきた手が、勝手に本を閉じる。
「何するの」
相手の顔を見上げれば、レオンだった。
「話がある」
しかめっ面で、それだけ言って、レオンは私の腕を引っ張った。ぐいぐい引っ張られて、小走りになる。問いかけも文句もすべて無視。中庭のフサアカシアの下に来たところで、やっと止まる。
「もう十日」
レオンは、ポツリと言って、こちらを見た。
「十日も、君に避けられている。その理由を聞かせて欲しい」
「……避けてなど、いません」
私の嘘に、レオンは、とびきり大きなため息をついた。
「入学式で初めて会った時、君は、俺の顔を見て、ひどく驚いたようだった」
そりゃあねと、心でうなずく。
見慣れないキャラが、そこにいたんだもの。あの頃はまだ、旧版の『マジなんだ』だと思っていたから。
モブにしてはイケメンだし。イケボだし。しかも、めちゃくちゃ好みだったので、ガン見してしまいました。
まぁ、レオンのおかげで、ここが『シン・マジ』の世界だと気づけたんだけど。
「異国人だから、珍しいのだろうと思ったが、そのあとも、君は俺を見ていた。そのせいで、俺は勘違いをしてしまった」
「勘違い?」
「そう、勘違いだ。しかし、最近になって、君は別の男を気にし始めた。ルークだ。イザベラ。君は、ルークのことが好きなのか?」
なぜ、ルークの話になるのか。不思議に思いながらも、私は首を振って否定する。
「ならば、なぜ、ルークを見ている?」
「それは、その……噂。そう、噂を聞いたのよ。ルークは危ないヤツだって。だから、気になって」
私は、何とかごまかした。レオンは「そうか」と、納得した様子。
それにホッとしていると、レオンの顔がゆるんで笑う。
「……それなら、よかった」
「よかった?」
「君が、他の男に目を向けているのは、我慢ならないからな」
「え?」
「イザベラ」
正面から、まっすぐに見つめられる。かぁっと、耳が熱くなった。一拍、遅れて、心臓がドキンと大きく胸を打ち始める。
ゲーム画面で見る、キャラの超どアップイラストとは、わけが違う。すぐそこにレオンの顔があって、何かのいい匂いがして、息づかいまで聞こえてくる。
「俺は、ただのクラスメイトでいるつもりなどない。どんなに親しかろうが、友人もごめんだ」
「え、」
「君の特別になりたい」
「ぅへ?」
何とも間抜けな声が出た。
ど、どういうこと?
これって、何かのイベントが起こりかけてない?
この状況は、何なの?
頭の中を『?』が埋め尽くしていく。
本来なら、このフサアカシアの下で、アリシアが意中の相手を収穫祭に誘うイベントが起こるはずで……。
事態が飲み込めないでいると、レオンが距離を詰めてきた。
「ちょっと、待って!」
「待たない」
「待って!」
私は右手を突き出したまま、よろよろと後ずさった。少し距離を取れたと思ったら、レオンにたった一歩で詰められる。
「イザベラ、」
自分の名前を呼ぶその声に、クラっとする。
そこで。
「ちょっと待ったー!」
大きな声が中庭に響いた。今さら、彼女の声を聞き間違えるはずがない。
1
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。
悪役令嬢っぽい子に転生しました。潔く死のうとしたらなんかみんな優しくなりました。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したので自殺したら未遂になって、みんながごめんなさいしてきたお話。
ご都合主義のハッピーエンドのSS。
…ハッピーエンド???
小説家になろう様でも投稿しています。
救われてるのか地獄に突き進んでるのかわからない方向に行くので、読後感は保証できません。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる