婚約破棄された商人の娘は、10億の慰謝料をいただくことにした

倉桐ぱきぽ

文字の大きさ
上 下
10 / 10
●後日談

3グレースとマーキス③

しおりを挟む
 *Sideグレース*

 グレースは、ちらりと左側を見た。
 侯爵邸を出てから、マーキスはずっと黙り込んでいる。今も、何やら深刻そうな顔をしていた。商談中に問題が発生し、破談寸前まで行ってしまったかのような。
 そんな彼を見て、グレースは顔を引き締める。
 ちょっとでも油断すれば、にやけてしまいそうだった。

 年上の彼は、いつも落ち着いていて、的確なアドバイスをくれる。とても頼りになる存在。
 それが……。
 先ほどの彼の様子を思い出し、思わず、グレースの頬はゆるんでいた。

 わたしと伯爵の縁談だと思って?
 あんなに慌てて?

『お嬢様の結婚相手には、ふさわしくありません!』

 こんなふうに言ってくれたのは……。
 少しくらい、期待してもいいのだろうか。
 
「あの、お嬢様。先ほどは、すみませんでした。とんだ勘違いを」
「気にしてないわ」

 グレースは答えてから、クスリと笑う。

「実をいえば、私も勘違いしてしまったの」
「え?」
「夫人から紹介したい人がいるって言われて、それで、つい」

 あたふたと『縁談なら間に合っています!』なんて言ってしまい、夫人に大笑いされたのだった。
 グレースとマーキス、二人揃って同じ勘違いをしていたわけだ。

「ねぇ、マーキス」

 グレースは、くるり、彼へと振り向き、足を止めた。

「あなたは、わたしにふさわしい結婚相手って、どんな人だと思うの?」

 いたずら心に聞いてみた。

「それは……」

 そこまで言ったっきり、マーキスは黙り込んだ。今の質問は、さすがに、意地が悪かっただろうか。グレースは思い直して、今度は自分から口を開いた。

「わたしは、いつでも側にいてくれる人がいい。頼りがいがあって、間違いは指摘してくれて、ダメな時は叱ってくれる。それで、意外とケンカっ早くて、たまにとんだ勘違いをする人が好き」

 グレースは、マーキスを見つめ、微笑んだ。
 
「でもね、いくら私を守るためでも、怪我はしてほしくない」
「お嬢様が、怪我をするよりましです」
「ダメ。今度、ガラの悪い連中に囲まれた時は、全力で逃げる。いい?」
「よくありません」
「どうして!?」

 口を尖らさせたグレースだったが。

「お嬢様よりも、俺の方がお嬢様を大切に思っているからです」

 マーキスの言葉に、目をぱちくりとさせる。

「先ほどの質問の答ですが、俺よりもお嬢様を大切にする方でなければ、お嬢様の結婚相手としては認められません」

 マーキスがグレースに微笑んだ。
 真正面からの言葉に、グレースの胸がドキンとはねた。勝手に顔は熱くなり、心臓がスピードを上げる。
 半年前のあの日と同じ。
 でも、あの時とは、まったく違う。
 この人が好き。誰よりも。
 
「今日の昼食は『チョットイーカフェ』で、よかったですか?」

 そこは、二人ともに、お気に入りの店だった。

「もちろん」

 どぎまぎしながら、うなずいたグレースの手を、マーキスが掴む。

「ほら、走りますよ。お嬢様が大好きな肉詰めキャベツは、すぐになくなってしまいますから」

 グレースは、走り出したマーキスの手をぎゅっと握りしめた。 


            ─ 完 ─


            
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

王太子に婚約破棄言い渡された公爵令嬢は、その場で処刑されそうです。

克全
恋愛
8話1万0357文字で完結済みです。 「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に投稿しています。 コーンウォリス公爵家に令嬢ルイ―ザは、王国の実権を握ろうとするロビンソン辺境伯家当主フランシスに操られる、王太子ルークのよって絶体絶命の危機に陥っていました。宰相を務める父上はもちろん、有能で忠誠心の豊かな有力貴族達が全員紛争国との調停に送られていました。万座の席で露骨な言い掛かりで付けられ、婚約を破棄されたばかりか人質にまでされそうになったルイ―ザ嬢は、命懸けで名誉を守る決意をしたのです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~

和泉鷹央
恋愛
 忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。  彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。  本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。    この頃からだ。  姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。  あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。  それまではとても物わかりのよい子だったのに。  半年後――。  オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。  サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。  オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……  最後はハッピーエンドです。  別の投稿サイトでも掲載しています。

幼馴染に裏切られた私は辺境伯に愛された

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアイシャは、同じく伯爵令息であり幼馴染のグランと婚約した。 しかし、彼はもう一人の幼馴染であるローザが本当に好きだとして婚約破棄をしてしまう。 傷物令嬢となってしまい、パーティなどでも煙たがられる存在になってしまったアイシャ。 しかし、そこに手を差し伸べたのは、辺境伯のチェスター・ドリスだった……。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

処理中です...