7 / 10
●後日談
2アフォードとネトリーン
しおりを挟む
例の婚約破棄から、半年。
アフォードは、ネトリーンと結婚した。新居を建てる余裕はなかったので、オーバッカ家での同居である。
部屋をあらかた片づけ、アフォードは一息ついた。
あれから、色々とあった。
あの婚約破棄で、様々な噂や誹謗中傷が飛び交い、どこの家からも避けらるようになった。親しくしていた家のお茶会ですら、声がかからない。町を歩けば、こちらに気づいた顔見知りがひそひそと話をし、笑い声を上げる。足繁く通っていた店や、愛用のテーラーも反応は冷たかった。
その一番の原因は、『アフォードが、メチャエーヒト侯爵夫人を怒らせた』と言う噂だろう。
まさか、グレースの連れていた下男が、メチャエーヒト侯爵家の人間だったとは。
メチャエーヒト侯爵と言えば、政財界に多大なる影響力を持つ大物。その夫人であるベアトリスもまた、あちこち顔が広い。
一族からは『なんてことをしたのだ』と責められ、母方の親類からは絶縁された。母は心労で倒れ、父も一気に老け込んだ。
母の看病をしようにもあたふたとするばかり、父の仕事を手伝おうにも何がなんだが分からない。
自分は、何の役にも立たない。
アフォードは、自分の不甲斐なさをようやく自覚したのだった。
「やっと、片づいたわね」
ネトリーンが、部屋を見回す。
彼女のため、鏡台は新調したものの、あとの家具はあり合わせ。贅沢はできない。それでもいいと、彼女は言ってくれた。
あの婚約破棄により、彼女もまた、父から勘当を言い渡されていた。当初は、ふさぎ込んでいた彼女だったが、この頃になって、本来の明るさを取り戻しつつあった。
そこへ、使用人が荷物を持って来た。グレースから届いた結婚祝いだった。
「な、何よ。これ……」
箱を開けたネトリーンが、わなわなしながら言う。
「普通のフリアンじゃないか」
金塊を模した焼き菓子は、祝い事に贈られるポピュラーな品物だ。何もおかしなことなどない。
「知ってるわよ! そうじゃなくて、これって皮肉でしょ⁉ 金、払えって、イヤミじゃない! 何なのよ、こんな時まで!!」
ネトリーンがヒステリックに叫ぶのを聞き流しながら、アフォードは同封されていた手紙に目を通す。
そこには、グレースからのシンプルな祝辞と、そして。
「え!?」
アフォードは、目をぱちくりとさせ、もう一度、手紙を読み直す。
そこには、ツケの支払い残金を『0』にするという内容が書かれてあった。そして、二枚目にあったのは、ツケ払いの完済証明書。
あの婚約破棄から、祖父が残したツケを毎月、コツコツと支払ってきた。まだまだ、ほんの一部を支払っただけだったのだが。
何でも、オーバッカ家から返却されたゴッポの絵画が、それはもう高値で売れたらしい。
オーバッカ家のツケを埋め合わせても、あり余るほど儲けたから、気にしなくていいわよ。手紙の最後には、そんな一文もあった。
「……グレース」
二人の結婚を祝福してくれる人間など、いなかった。それが代償。あの日、自分たちはそれだけのことをやらかしたのだ。
グレースにも、ひどいことをしたというのに……。
感傷に浸っているアフォードの横で、ネトリーンはまだ文句を叫んでいた。
アフォードは、ネトリーンを一喝すると、机に向かった。
グレースに当てて手紙を書く。
いつか、もう少し時間が経ったら、彼女にちゃんと謝罪へ行こう。
アフォードは、そう、心に決めたのだった。
アフォードは、ネトリーンと結婚した。新居を建てる余裕はなかったので、オーバッカ家での同居である。
部屋をあらかた片づけ、アフォードは一息ついた。
あれから、色々とあった。
あの婚約破棄で、様々な噂や誹謗中傷が飛び交い、どこの家からも避けらるようになった。親しくしていた家のお茶会ですら、声がかからない。町を歩けば、こちらに気づいた顔見知りがひそひそと話をし、笑い声を上げる。足繁く通っていた店や、愛用のテーラーも反応は冷たかった。
その一番の原因は、『アフォードが、メチャエーヒト侯爵夫人を怒らせた』と言う噂だろう。
まさか、グレースの連れていた下男が、メチャエーヒト侯爵家の人間だったとは。
メチャエーヒト侯爵と言えば、政財界に多大なる影響力を持つ大物。その夫人であるベアトリスもまた、あちこち顔が広い。
一族からは『なんてことをしたのだ』と責められ、母方の親類からは絶縁された。母は心労で倒れ、父も一気に老け込んだ。
母の看病をしようにもあたふたとするばかり、父の仕事を手伝おうにも何がなんだが分からない。
自分は、何の役にも立たない。
アフォードは、自分の不甲斐なさをようやく自覚したのだった。
「やっと、片づいたわね」
ネトリーンが、部屋を見回す。
彼女のため、鏡台は新調したものの、あとの家具はあり合わせ。贅沢はできない。それでもいいと、彼女は言ってくれた。
あの婚約破棄により、彼女もまた、父から勘当を言い渡されていた。当初は、ふさぎ込んでいた彼女だったが、この頃になって、本来の明るさを取り戻しつつあった。
そこへ、使用人が荷物を持って来た。グレースから届いた結婚祝いだった。
「な、何よ。これ……」
箱を開けたネトリーンが、わなわなしながら言う。
「普通のフリアンじゃないか」
金塊を模した焼き菓子は、祝い事に贈られるポピュラーな品物だ。何もおかしなことなどない。
「知ってるわよ! そうじゃなくて、これって皮肉でしょ⁉ 金、払えって、イヤミじゃない! 何なのよ、こんな時まで!!」
ネトリーンがヒステリックに叫ぶのを聞き流しながら、アフォードは同封されていた手紙に目を通す。
そこには、グレースからのシンプルな祝辞と、そして。
「え!?」
アフォードは、目をぱちくりとさせ、もう一度、手紙を読み直す。
そこには、ツケの支払い残金を『0』にするという内容が書かれてあった。そして、二枚目にあったのは、ツケ払いの完済証明書。
あの婚約破棄から、祖父が残したツケを毎月、コツコツと支払ってきた。まだまだ、ほんの一部を支払っただけだったのだが。
何でも、オーバッカ家から返却されたゴッポの絵画が、それはもう高値で売れたらしい。
オーバッカ家のツケを埋め合わせても、あり余るほど儲けたから、気にしなくていいわよ。手紙の最後には、そんな一文もあった。
「……グレース」
二人の結婚を祝福してくれる人間など、いなかった。それが代償。あの日、自分たちはそれだけのことをやらかしたのだ。
グレースにも、ひどいことをしたというのに……。
感傷に浸っているアフォードの横で、ネトリーンはまだ文句を叫んでいた。
アフォードは、ネトリーンを一喝すると、机に向かった。
グレースに当てて手紙を書く。
いつか、もう少し時間が経ったら、彼女にちゃんと謝罪へ行こう。
アフォードは、そう、心に決めたのだった。
88
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染に裏切られた私は辺境伯に愛された
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアイシャは、同じく伯爵令息であり幼馴染のグランと婚約した。
しかし、彼はもう一人の幼馴染であるローザが本当に好きだとして婚約破棄をしてしまう。
傷物令嬢となってしまい、パーティなどでも煙たがられる存在になってしまったアイシャ。
しかし、そこに手を差し伸べたのは、辺境伯のチェスター・ドリスだった……。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります
禅
恋愛
妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。
せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。
普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……
唯一の味方は学友のシーナのみ。
アリーシャは幸せをつかめるのか。
※小説家になろうにも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間
夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。
卒業パーティーまで、残り時間は24時間!!
果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
いつもわたくしから奪うお姉様。仕方ないので差し上げます。……え、後悔している? 泣いてももう遅いですよ
夜桜
恋愛
幼少の頃からローザは、恋した男性をケレスお姉様に奪われていた。年頃になって婚約しても奪われた。何度も何度も奪われ、うんざりしていたローザはある計画を立てた。姉への復讐を誓い、そして……ケレスは意外な事実を知る――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢が天使すぎるとか、マジ勘弁ッ!!
灰路 ゆうひ
恋愛
それは、よくある断罪シーン。
名門貴族学校の卒業パーティーを舞台に、王太子アーヴィンが涙ながらに訴える男爵令嬢メリアを腕に抱き着かせながら、婚約者である侯爵令嬢クララマリアを卑劣ないじめの嫌疑で追及しようとしていた。
ただ、ひとつ違うところがあるとすれば。
一見悪役令嬢と思われる立ち位置の侯爵令嬢、クララマリアが、天使すぎたということである。
※別の投稿サイト様でも、同時公開させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる