婚約破棄された商人の娘は、10億の慰謝料をいただくことにした

倉桐ぱきぽ

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●後日談

2アフォードとネトリーン

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 例の婚約破棄から、半年。
 アフォードは、ネトリーンと結婚した。新居を建てる余裕はなかったので、オーバッカ家での同居である。
 部屋をあらかた片づけ、アフォードは一息ついた。

 あれから、色々とあった。
 あの婚約破棄で、様々な噂や誹謗中傷が飛び交い、どこの家からも避けらるようになった。親しくしていた家のお茶会ですら、声がかからない。町を歩けば、こちらに気づいた顔見知りがひそひそと話をし、笑い声を上げる。足繁く通っていた店や、愛用のテーラーも反応は冷たかった。
 その一番の原因は、『アフォードが、メチャエーヒト侯爵夫人を怒らせた』と言う噂だろう。

 まさか、グレースの連れていた下男が、メチャエーヒト侯爵家の人間だったとは。
 メチャエーヒト侯爵と言えば、政財界に多大なる影響力を持つ大物。その夫人であるベアトリスもまた、あちこち顔が広い。

 一族からは『なんてことをしたのだ』と責められ、母方の親類からは絶縁された。母は心労で倒れ、父も一気に老け込んだ。
 母の看病をしようにもあたふたとするばかり、父の仕事を手伝おうにも何がなんだが分からない。
 自分は、何の役にも立たない。
 アフォードは、自分の不甲斐なさをようやく自覚したのだった。

「やっと、片づいたわね」

 ネトリーンが、部屋を見回す。
 彼女のため、鏡台は新調したものの、あとの家具はあり合わせ。贅沢はできない。それでもいいと、彼女は言ってくれた。
 あの婚約破棄により、彼女もまた、父から勘当を言い渡されていた。当初は、ふさぎ込んでいた彼女だったが、この頃になって、本来の明るさを取り戻しつつあった。

 そこへ、使用人が荷物を持って来た。グレースから届いた結婚祝いだった。

「な、何よ。これ……」

 箱を開けたネトリーンが、わなわなしながら言う。

「普通のフリアンじゃないか」

 金塊を模した焼き菓子は、祝い事に贈られるポピュラーな品物だ。何もおかしなことなどない。
 
「知ってるわよ! そうじゃなくて、これって皮肉でしょ⁉ 金、払えって、イヤミじゃない! 何なのよ、こんな時まで!!」

 ネトリーンがヒステリックに叫ぶのを聞き流しながら、アフォードは同封されていた手紙に目を通す。
 そこには、グレースからのシンプルな祝辞と、そして。

「え!?」

 アフォードは、目をぱちくりとさせ、もう一度、手紙を読み直す。
 そこには、ツケの支払い残金を『0』にするという内容が書かれてあった。そして、二枚目にあったのは、ツケ払いの完済証明書。
 あの婚約破棄から、祖父が残したツケを毎月、コツコツと支払ってきた。まだまだ、ほんの一部を支払っただけだったのだが。

 何でも、オーバッカ家から返却されたゴッポの絵画が、それはもう高値で売れたらしい。
 オーバッカ家のツケを埋め合わせても、あり余るほど儲けたから、気にしなくていいわよ。手紙の最後には、そんな一文もあった。

「……グレース」

 二人の結婚を祝福してくれる人間など、いなかった。それが代償。あの日、自分たちはそれだけのことをやらかしたのだ。
 グレースにも、ひどいことをしたというのに……。
 感傷に浸っているアフォードの横で、ネトリーンはまだ文句を叫んでいた。

 アフォードは、ネトリーンを一喝すると、机に向かった。
 グレースに当てて手紙を書く。
 いつか、もう少し時間が経ったら、彼女にちゃんと謝罪へ行こう。
 アフォードは、そう、心に決めたのだった。
 

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