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番外&後日談

SS 悪役一家のある日の晩餐

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 その日、私は、久しぶりに実家へ戻った。
 家族で夕飯を食べるのも、久しぶりのこと。
 テーブルに並ぶのは、私の好物ばかり。しかもどれもが、三ツ星レストラン並みに美味しかった。

 ……まあ、それも当然。

 うちのシェフは、超有名レストランの前総料理長。それを父が、札束の山の力で引き抜いてきたのだ。
 以前、家族でそのレストランを訪れた時、『毎日でも食べたい』と、私がうっかり言ってしまったからだった。

 私は父が年をとってからできた娘で、甘やかされて育った。幼くして母を亡くすと、甘々になった。そして、魔法学校の寮に入って、めったに家に帰らなくなってからは、ゲロ甘になってしまった。
 それは、年の離れた二人の兄も同じだった。

 私はとにかく、超過保護に甘やかされて育った。望めば何でも手に入り、わがまま放題、やりたい放題。嘘をついたって、何をやったって、叱られることはなかった。

 そりゃあ、悪役令嬢になるわ。ヒロインだって殺そうとするわ……。
 
 思わず、ため息がこぼれてしまった。それに、二人の兄がすぐに反応した。

「どうした、ロベリーちゃん。何かあったのか?」
「まさか、学校でいじめられたのか?」
「何⁉ 誰だ、そいつは⁉」
「うちのかわいいロベリーちゃんをいじめるとは、許せん!」

 二人の兄がヒートアップしたところで。
 ドスンと、テーブルを叩いたのは、父だった。

「ロベリーちゃんをいじめるとは、一体、どこの馬の骨だ! このワシが成敗してくれる!」

 今すぐに、悪代官も組長も黒幕も、どんな悪役をもこなせそうな強面。普通にしていても、どすの利いた低い声。
 私の第一印象は、間違ってなかった。悪役令嬢の父は、本当に悪役伯爵だったのだ。

「僕は、手足の爪を一枚ずつ✕✕してやる!」
「だったら、僕は✕✕に✕✕んで、海に✕✕めてやる!」
「このバカ息子どもがぁあああ!」
「父上⁉」
「生ぬるいわぁあああ! お前たちは生ぬるすぎて、もはや、冷水! ワシは、そいつを生きながらにして、全身の✕✕を✕✕で、手足の✕✕を一本ずつ✕✕ってやり、最後は、両足に✕✕を✕✕けて、海に✕✕めてやるわぁあああ!!!」

 わーはっはっと、高笑いする父に、

「さすがは父上!」

 二人の兄も同意した。

 こうやって、日々、悪行の数々と悪の名言をすり込まれ、極悪英才教育のもと、悪役令嬢は作られたわけだ。
 私はナイフとフォークを置いてから、静かに呼びかけた。

「お父様。もし、そんなことをなさったら、大事なアレを切り刻んでしまいますわよ」

 ギロリとにらみつければ、父の手からカラーンとナイフが落ちた。

 父も昔はあくどいこともしたらしい。それも、母と出会ってからは、すっかり改心したというけど。でも未だに、昔のクセは抜けきらないようだ。その度、今では私が母に変わって、にらみをきかせているのである。こっちだって大好きな家族を、犯罪者にするわけにはいかない。
 
「お兄様たちも覚悟なさってください。使い物にならなくなるまで、ボッコボコにして、細切れにして、最後は燃やしてやりますわ」

 二人の兄も立て続けに、カラカラっと、ナイフとフォークを落とす。

「ロ、ロベリーちゃん……」

 食堂は静まり返り、父も兄もしゅんと肩を落としていた。
 父も兄も、根っからの悪人ではないと思っている。身内びいきかもしれないけど。私に関わることにだけ、見境がつかなくなるだけで。

「お父様とお兄様には、何度も言ってますわよね? 法を犯すようなこと、犯罪者になるような真似はしないで下さいって!」
「じょじょ冗談だよ。ロベリーちゃん。冗談に決まっているじゃないか! な? な? お前たち」
「そそ、そうだよ」
「も、もちろんだ」

 兄たちも次々とうなずく。

「明日も社会に貢献するぞ。ノブレス・オブリージュ!」
「ノブレス・オブリージュ!」
「ノブレス・オブリージュ!」

 父と兄は、拳を天に突き上げ、コール・アンド・レスポンスを繰り返す。

 ……なんだか、やばい団体っぽい。でも、まぁ、一家で犯罪者になるよりマシか。

 叫び続ける父と兄を放置して、私はシェフにデザートをお願いした。


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