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まだまだ続くヒロハラ
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スカーレットに出くわしたのは、職員室へ向かう途中のこと。
隣にいる茶髪は、噂のオーランド。二人は、廊下のど真ん中を話しながら、歩いて来る。
不意にスカーレットがこちらを見た。目が合ったのは一瞬。彼女は、オーランドと楽しそうにおしゃべりを続ける。
今度は、どんな難癖をつけられるのか。
向こうは二人で、私は一人。言いがかりをつけられたら、面倒なことになる。
ただ、私も期限ぎりぎりの反省文と課題を、提出しなければならない。
廊下ですれ違うだけ。何も起こらないはず。そう思って、廊下の端に寄って、やり過ごそうとした。
何事もなく行き違う……かと思ったら、その直前。
スカーレットが、こちらへ足を踏み出した。私を避けるのでなく、私に向かって寄って来て。肩と肩がぶつかった。反動で、私は廊下の壁に体が当たる。
一方、スカーレットはというと。
「きゃあぁああっ!」
派手な悲鳴をあげ、どさっと尻もちをつく。まるで、私が後ろへ突き飛ばしたみたいに。
「いったぁーい!」
スカーレットは、いつまでも立ち上がろうとしなかった。それどころか、なぜか小刻みにふるえている。
「スカーレット⁉ 大丈夫か!」
オーランドが、壊れ物でも扱うかのように、優しくスカーレットを抱き起こす。それから、私をきつくにらみつけ、声を荒げた。
「おい、ひどいじゃないか!」
恋は盲目、なんて言うけど。彼のコバルトブルーの瞳はスカーレット以外、何も見えない節穴らしい。
さらには、「スカーレットに謝れよ!」とまで迫ってきた。
正直、スカーレットには呆れていた。こんなことまでやるのかと。呆れて、怒る気力も出てこない。代わりに、大きなため息が出てきた。
「ぶつかったのは、お互い様でしょう?」
「ぶつかる前に、避ければいいだろ!」
「私は、廊下の右端を歩いていました。どちらへ避ければよかったのかしら?」
「え?」
オーランドは、ようやくそこに気づいたらしい。スカーレットの肩を支えて立つ、彼の位置は廊下の真ん中。その右側には、充分に空間が空いていた。
「避けろと言うのなら、廊下の真ん中を歩いていた、あなたたちがもう少し注意してくれれば、よかったのでは?」
「それは……」
「それとも、あなたとスカーレットが廊下を歩いている時は、何人たりとも道を空けろということ?」
「いや、別に……そんな、つもり……」
私は、おろおろとするオーランドから、スカーレットに視線を移した。
「何もかも、自分の思い通りになると考えているのなら、思い上がりも甚だしいわよ」
これが、スカーレットの悪役強要に対する私の答えだった。
私たちの事情を知らないオーランドには「なんか、怖いな」なんて、言われてしまったけど。
スカーレットには充分だったようで。彼女は、ものすごい顔つきで、こちらをにらみつける。それも一瞬。次には、満面の笑みを浮かべていた。
「ごめんなさぁい、ロベリア。悪いのは、私たちよねぇ。おしゃべりに夢中で、あなたのことが、全っ然っ、見えてなかったみたぁい」
行きましょ。スカーレットは何ごともなかったかのように、オーランドを促して歩いて行った。
……あー、疲れた。
そこへ。
「おかしな女にからまれたものだな」
角から姿を現したのは、バーノンだった。
「いつからそこに?」
「あの女が、お前にわざとぶつかって、派手に倒れたところ」
「つまり、全部ですわね」
「あの女と、何か、もめてるのか?」
「ちょっとした因縁といいますか、色々とありまして」
「そうか」
小さくつぶやいたあと、少し黙り込んだかと思えば、バーノンは意外な提案をしてきた。
「ディランを貸すか?」
「ディラン?」
「俺の側衛だ。かなり腕は立つぞ」
前に見たことがある、学生服を着た、あの、いかつめなおじさんのことらしい。
「結構です。もしも、殿下の身に何かあったらどうするです?」
「もしもの時のため、ここには宮廷魔導師の使い魔が山ほど配置されている。ディラン一人くらい貸し出しても、問題はない。そもそも、ここで俺の正体を知っているのは、お前とごく一部の人間だけだしな」
そう言われても。自分の後ろを、常に制服のおじさんがついてくるのを想像したら。
……それはもう、不審者でしょ。
「そのお気持ちだけ、受け取っておきます。自分のことは、自分でなんとかしますので」
丁重に断った。
隣にいる茶髪は、噂のオーランド。二人は、廊下のど真ん中を話しながら、歩いて来る。
不意にスカーレットがこちらを見た。目が合ったのは一瞬。彼女は、オーランドと楽しそうにおしゃべりを続ける。
今度は、どんな難癖をつけられるのか。
向こうは二人で、私は一人。言いがかりをつけられたら、面倒なことになる。
ただ、私も期限ぎりぎりの反省文と課題を、提出しなければならない。
廊下ですれ違うだけ。何も起こらないはず。そう思って、廊下の端に寄って、やり過ごそうとした。
何事もなく行き違う……かと思ったら、その直前。
スカーレットが、こちらへ足を踏み出した。私を避けるのでなく、私に向かって寄って来て。肩と肩がぶつかった。反動で、私は廊下の壁に体が当たる。
一方、スカーレットはというと。
「きゃあぁああっ!」
派手な悲鳴をあげ、どさっと尻もちをつく。まるで、私が後ろへ突き飛ばしたみたいに。
「いったぁーい!」
スカーレットは、いつまでも立ち上がろうとしなかった。それどころか、なぜか小刻みにふるえている。
「スカーレット⁉ 大丈夫か!」
オーランドが、壊れ物でも扱うかのように、優しくスカーレットを抱き起こす。それから、私をきつくにらみつけ、声を荒げた。
「おい、ひどいじゃないか!」
恋は盲目、なんて言うけど。彼のコバルトブルーの瞳はスカーレット以外、何も見えない節穴らしい。
さらには、「スカーレットに謝れよ!」とまで迫ってきた。
正直、スカーレットには呆れていた。こんなことまでやるのかと。呆れて、怒る気力も出てこない。代わりに、大きなため息が出てきた。
「ぶつかったのは、お互い様でしょう?」
「ぶつかる前に、避ければいいだろ!」
「私は、廊下の右端を歩いていました。どちらへ避ければよかったのかしら?」
「え?」
オーランドは、ようやくそこに気づいたらしい。スカーレットの肩を支えて立つ、彼の位置は廊下の真ん中。その右側には、充分に空間が空いていた。
「避けろと言うのなら、廊下の真ん中を歩いていた、あなたたちがもう少し注意してくれれば、よかったのでは?」
「それは……」
「それとも、あなたとスカーレットが廊下を歩いている時は、何人たりとも道を空けろということ?」
「いや、別に……そんな、つもり……」
私は、おろおろとするオーランドから、スカーレットに視線を移した。
「何もかも、自分の思い通りになると考えているのなら、思い上がりも甚だしいわよ」
これが、スカーレットの悪役強要に対する私の答えだった。
私たちの事情を知らないオーランドには「なんか、怖いな」なんて、言われてしまったけど。
スカーレットには充分だったようで。彼女は、ものすごい顔つきで、こちらをにらみつける。それも一瞬。次には、満面の笑みを浮かべていた。
「ごめんなさぁい、ロベリア。悪いのは、私たちよねぇ。おしゃべりに夢中で、あなたのことが、全っ然っ、見えてなかったみたぁい」
行きましょ。スカーレットは何ごともなかったかのように、オーランドを促して歩いて行った。
……あー、疲れた。
そこへ。
「おかしな女にからまれたものだな」
角から姿を現したのは、バーノンだった。
「いつからそこに?」
「あの女が、お前にわざとぶつかって、派手に倒れたところ」
「つまり、全部ですわね」
「あの女と、何か、もめてるのか?」
「ちょっとした因縁といいますか、色々とありまして」
「そうか」
小さくつぶやいたあと、少し黙り込んだかと思えば、バーノンは意外な提案をしてきた。
「ディランを貸すか?」
「ディラン?」
「俺の側衛だ。かなり腕は立つぞ」
前に見たことがある、学生服を着た、あの、いかつめなおじさんのことらしい。
「結構です。もしも、殿下の身に何かあったらどうするです?」
「もしもの時のため、ここには宮廷魔導師の使い魔が山ほど配置されている。ディラン一人くらい貸し出しても、問題はない。そもそも、ここで俺の正体を知っているのは、お前とごく一部の人間だけだしな」
そう言われても。自分の後ろを、常に制服のおじさんがついてくるのを想像したら。
……それはもう、不審者でしょ。
「そのお気持ちだけ、受け取っておきます。自分のことは、自分でなんとかしますので」
丁重に断った。
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