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それ、ヒロインハラスメントです

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 翌日。
 スカーレットが、また、やってくれた。

 普段より遅めに、教室に入ってきた彼女。いつもはやたら元気な挨拶が、どういうわけか、今日はしょぼくれていた。すぐに、ルカがかけ寄った。ちなみに、ジョシュアはまだ登校していない。

「どうしたんだよ、スカーレット。元気ないじゃん?」
「まぁ、ちょっと、色々あってぇ……」

 スカーレットは思わせぶりに答えて、髪をかきあげる。その動作で、制服の袖口から、左の手首にちらりと白いものが見えて。それに、ルカがすばやく反応した。

「その包帯、ケガしたのか?」
「あっ……うん。ちょっとねぇ……」

 スカーレットはすっと手首を隠しながら、これまた、思わせぶりに答えた。
 今朝、寮の食堂で見かけた時には、包帯なんて見えなかったのに。今度は一体、何をするつもりなのか。
 そんなことを考えていたら、スカーレットと目が合った。彼女はあからさまに「あぁっ!」と、目をそらす。これにも、また、ルカが反応した。

「まさか、ロベリアに何かされたのか⁉ 昨日の放課後、ロベリアと話をするって言ってたよな!」
「ち、違うのよ? 私が勝手に転んで、ケガをしただけで、ロベリアは関係ないの。ロベリアのせいじゃないわぁ!」

 またしても、でっちあげるつもりらしい。
 これにも、思い当たることがあった。
 ゲーム中、ロベリアに突き飛ばされて、怪我をするイベントがある。スカーレットは、シナリオ通り、それを強引に起こすつもりなのだろう。

「ロベリアは、なぁんにも、悪くないの!」

 スカーレットの声が、教室中に響き渡った。口では否定してるけど、私のせいだと言いふらしているのも同然。
 どうあっても、私に悪役を強要したいらしい。
 ヒロインだからって、何をやっても許されるわけがない。ここまで来るとパワハラ。いや、これはヒロインハラスメント。
 私だって自分が可愛い。当然、降りかかる火の粉は、払わせてもらう。
 私はスカーレットの所へ行くと、包帯が巻かれた手首を掴んだ。

「きゃぁああ、何するのよぅ!」

 スカーレットは、ぎゅうっと目を閉じる。殴られるとでも思ったのか。いや、もしかしたら、それが彼女の想定だったのかもしれない。
 スカーレットは棒立ちのまま。身をかばうそぶりや、逃げるそぶりを見せなかった。そして、思った通り、手首を痛がる様子もない。

 私は呆れながらも、隠し持っていた魔法の杖を取り出し、呪文を唱える。

「聖なる癒やしよ!」

 魔法の杖から、小さな光がシャワーのようにスカーレットの手首へ降り注ぐ。しかし、光の粒はパチンと弾かれて、消えてしまった。
 その瞬間、スカーレットの顔がまずいとゆがむ。

 普通、回復魔法の光は、患部に吸い込まれていく。弾かれてしまったのは、癒やすべき場所がなかったから。

「残念だったわね」

 私はスカーレットにささやいた。
 スカーレットは、私の腕を振り払うと、教室から出て行った。あとに残されたルカが、ぽかんとした顔で私を見る。

「大したこと、なかったようね」

 私は、にっこりと笑ってみせる。
 むしろ、ケガなんてなかったわけで。魔法を学ぶ者なら、スカーレットの嘘は誰が見ても分かること。

「え、あぁ、うん……」

 ルカもまた、すごすごと自分の席に戻っていく。
 けれど。
 スカーレットは、とても諦めが悪かった。
 うんざりするほど。
 
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