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助けてくれたのは友人のモブ令嬢

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 軽蔑したようなジョシュアの視線。
 正直、失望した。
 ルカやスカーレットは、どうでもいい。でも、大好きなジョシュアまで、私を犯人だと決めつけていた。悪口の件だって、そう。こちらの言い分は、少しも聞いてくれないくせに。

「何とか言ったらどうなのさ!」

 ルカが乱暴に机をたたいた。

「私は盗んだりしていません」
「犯人ってさー、みんな、そう言うんだよねー」

 フンッと、ルカは鼻で笑う。
 気づいた時には、ルカにも嫌われていた。交流はほとんどなく、話をしたこともほとんどなかったはずなのに。多分、こちらもスカーレットの仕業なんだろうけど。

「正直に言いなよ!」
「何のために、わざわざ、スカーレットの髪飾りを盗んだりしなくてはならないの?」

 私は、真正面から言い返した。

「これは、私がとっても、とぉっても、大事にしてるものよ。田舎から出てくる時に、お母さんからもらった宝物なの。だから意地悪して、盗んだんでしょ⁉」

 ひどいわと、スカーレットは悲しげな顔を見せた。
 もちろん、大事な宝物なのは、ゲームの情報で私も知っていた。でも……。

「その髪飾りが、あなたがとても大事にしているもので、お母様からもらった宝物だという話は、今、初めてあなたから聞きましたけど?」
「え?」 
「プライベートな話を聞くほど、親しくしていたわけではありませんし」
「でも、それは……、」

 勢いを失っていくスカーレット。しかし。

「ていうかさー、そんなの、スカーレットに対する嫌がらせだろ?」

 ルカの言葉で、再び、彼女は「そうよ、そうよ!」と、威勢を取り戻した。おまけにジョシュアまで。

「正直に話して欲しい」なんて、真剣な顔で言ってきて。

 私をはめたスカーレットはともかく、ルカやジョシュアにとっても、私が犯人なのは決定事項らしい。だったら何を言っても、無駄じゃない。どうしろって言うの……。
 大きなため息が出たところで。
 
「ロベリアは、犯人ではございませんわよ」

 そう証言してくれたのは、ティナだった。『マジですか』では、ロベリアの取り巻きで、名前も出てこないモブ令嬢。だけど、モブだって、ここでは、一人一人に名前があって、それぞれの人生がある。一番の友人であるティナと私は、幼なじみでもあった。

「ロベリアが、そんなことをするはずがありません」

 彼女はきっぱりと言ってくれた。

「だからさー。君、今の話、聞いてた?」
「もちろんですわ」

 ティナは、正面からルカにうなずく。
 
「先ほど、教室を最後に出たのは、このわたくしです。その時、スカーレットさんの机には、何もありませんでしたわ」
「え?」

 ぱちくりと、スカーレットがティナを見た。

「わたくし、ロベリアと一緒に教室を出たのですけど、あろうことか教科書を忘れてしまい、取りに戻ったのです。あぁ、先に謝っておきますわね。慌てて取りに戻ったものですから、スカーレットさん、あなたの机にぶつかってしまいました。もちろん、元に戻しておきましたけど」

 しかしそれで、私の疑いが晴れたわけではなく。すかさず、ルカが「でもさー」と、反論してきた。

「さっきの授業、ロベリアはいなかったわけだし、髪飾りだって、ロベリアのカバンから出てきたわけだしさー。どう考えても、ロベリア以外、犯人はいないよ?」
「他の誰かが、ロベリアを犯人に仕立てようとしている。そうは考えられませんこと?」
「他の誰かって、誰だよ?」

 そこで声を上げたのは、エリーだった。「そういえば」と、エリーはスカーレットに目を向ける。

「あなた、さっき、授業が終わって、一番に訓練場を出て行ったわよね?」
「あ、あれは、そのぉ……そう、お手洗いに行ったのよ!」 
「へぇ、そう」

 エリーは、うなずいてから、にっこりと笑う。

「でも、机の上になかったものをどうやって、ロベリアが盗めたのかしら。ねぇ、スカーレット?」
「え……あっ! そうだったわ! 私、机の上は危ないから、机の中に、入れなおしたんだった!」
「さっきは、『絶対、机の上に置いた』って言ってたのに?」
「そんなの、誰だって、勘違いすることはあるでしょ!」
「あのねぇ! これはロベリアの名誉や人生にも関わることなのよ? 勘違いで、言うことがコロコロ変わったら、あてにならないじゃない!」
「じゃあ、何? エリーは、今の今まで、人生で一度だって勘違いしたことないの? そんなわけないよね?」

 スカーレットの逆ギレに、ティナが「まぁ」と、大きく目を見開いた。

「何ですの、その言い方は⁉」
「そもそも、ティナだって、ロベリアとグルじゃない!」
「ぐる?」
「いつも一緒なんだもの! どんな時でも、ロベリアの味方でしょ!」
「いい加減にしなさいよ、スカーレット!」

 エリーとスカーレットが、言い争いを始める。
 ティナもエリーも、助けてくれようとしただけなのに。二人までひどく言われるのは、腹が立つ。
 私はたまらず、両手で机をたたいた。それに、教室中が静かになる。

「分かりました!」

 私は、いちかばちかの賭けに出る。

「スカーレット、あなたは校長先生でも憲兵でも、どこへでも、被害届を出しなさい。私に髪飾りを盗まれたと。ただし、私も身に覚えのないことだから、黙っているわけにはいきません。こちらは、名誉毀損で訴えさせてもらうわ!」
「は?」

 ポッカーンと、口が半開きになったスカーレットに、間髪を入れず、私は告げる。

「むしろ、裁判になれば、徹底的に調べてもらえるし、偽証もできないから、必ず、真犯人は見つかるでしょう?」
「さ、裁判って……わ、私は、別に、そこまで……」

 またも言葉のキレが、悪くなるスカーレット。しどろもどろに、もごもごと繰り返す。スカーレットが静かになったからか、ルカとジョシュアも黙り込んでしまった。

 そこへ。
 教室のドアが開いて、先生が入ってきた。遅れたことを謝りながら、教室を見回す。

「どうしました? 席につきなさい。とっくに鐘は鳴りましたよ!」

 先生の一声で、みんな、自分の席へと戻っていく。
 これで、この件は終わったのだと、私は思ってしまった。
 しかし、昔の人は、こう言った。
 一難去って、また一難。
 二度あることは三度ある、と。
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