5 / 24
ヒロインが仕掛けた罠
しおりを挟む
教室に入ると同時に、始まりの鐘が鳴る。その音に重なって、
「ない! ないわぁ! 私の大事な髪飾りが、なくなってるぅー!」
スカーレットの叫び声が、教室中に響き渡った。
ざわざわとする教室。
ジョシュアが真っ先にスカーレットの側へ行き、少し遅れて、ルカも駆け寄る。
二人の攻略対象者が、口々にスカーレットを慰めた。
「きちんと、探したのかい?」
「もちろんよぅ。机の中も、かばんの中も全部探したけど、ないの……」
スカーレットは、あからさまに、しゅんと肩を落とす。
その様子に、ふと、私は思い出した。
ゲーム内で、あの髪飾りが悪役令嬢に壊されるというイベントがあった。
そんなことを思い出している間も、スカーレットは「ない! ない!」と、大騒ぎしていた。
「ちゃんと、机の上に置いといたのにぃ。大事な髪飾りが、魔法の実技で壊れてしまったら嫌だから」
「それで、戻ってきたら、なくなってたってこと?」
「スカーレットの勘違いではないのかい?」
「ちゃんと、机の上に置いたわ。絶対! 絶対によ!」
「それってさー、つまり、さっきの授業中、誰かが盗んでいったってこと?」
ルカの一言に、一瞬、教室が静かになる。クラスメイトたちも、彼らの話が気になっていたようだ。
「かといって、まったくの部外者が、そう簡単に校内に入って来られるとは思わないけど」
「じゃあ、関係者ってことか? ここの生徒……クラスの誰かとか?」
「でも、でも。さっき、クラスのみんなは、実技の授業で訓練場にいたわけだしぃ」
「あっ! でもさー、一人、いなかったよな?」
ルカが私のところへ来た。それにつられるように、クラスのみんなもこちらを見た。
「なぁ、ロベリア。どうして、さっきの授業、いなかったのさー? サボって、何してたわけ? 具合が悪そうには見えないんだけど?」
クリクリの緑の目は、もう、私を犯人と決めているようだった。
「ちょっと、調べるから、そこ、どいて」
言うなり、ルカは私を押しやり、机の中を覗き込む。そのすぐあとに、ジョシュアもスカーレットとともにやって来て、
「それも調べさせてもらって、いいかい?」
と、カバンを指さした。
クラスのみんなが、興味津々に見ている。こういう時に限って、先生は遅れているようだ。
このままでは、らちがあかない。
そんな中で、頭に浮かんだのは、バーノンのアドバイス。
私には、まったく身に覚えのない、濡れ衣。だったら、そう、堂々としていればいい。
「どうぞ」
私は、自ら、カバンを差し出した。
だけど……。
私の考えは、甘かった。ゲロ甘だった。
ジョシュアにカバンを渡したつもりが、横からスカーレットが割り込んできた。まるでひったくるように、カバンを奪い取られる。
スカーレットが、乱暴にカバンの中へ手を突っ込んだ。かと思ったら、すぐに手を引っこ抜いて。
「あった、あったわぁ! 私の髪飾りよ!」
大声で言いながら、手をつき上げる。その手が掴んでいたのは、ピンクのリボンの髪飾り。まぎれもなく、彼女のもの。
「ロベリア、どうして、髪飾りを盗んだりしたんだ?」
「どうせ、スカーレットのことが、気に食わないんだろ?」
左にジョシュア、右にルカ。その真ん中から、スカーレットがずいっと詰め寄ってきた。
「私、怒ったりないわ。だから、正直に、話してちょうだい。ね?」
彼女は、にんまりと笑った。
その満面の笑顔に気がつく。それこそ、女の勘というやつだ。
これはスカーレットの自作自演。
思い返せば、彼女はカバンの中を見ることも、探ることもせず、いきなり手を突っ込んで髪飾りを取り出した。初めから、髪飾りがそこにあることを知っていたからできたこと。
私は、彼女に、はめられたのだ。
「ない! ないわぁ! 私の大事な髪飾りが、なくなってるぅー!」
スカーレットの叫び声が、教室中に響き渡った。
ざわざわとする教室。
ジョシュアが真っ先にスカーレットの側へ行き、少し遅れて、ルカも駆け寄る。
二人の攻略対象者が、口々にスカーレットを慰めた。
「きちんと、探したのかい?」
「もちろんよぅ。机の中も、かばんの中も全部探したけど、ないの……」
スカーレットは、あからさまに、しゅんと肩を落とす。
その様子に、ふと、私は思い出した。
ゲーム内で、あの髪飾りが悪役令嬢に壊されるというイベントがあった。
そんなことを思い出している間も、スカーレットは「ない! ない!」と、大騒ぎしていた。
「ちゃんと、机の上に置いといたのにぃ。大事な髪飾りが、魔法の実技で壊れてしまったら嫌だから」
「それで、戻ってきたら、なくなってたってこと?」
「スカーレットの勘違いではないのかい?」
「ちゃんと、机の上に置いたわ。絶対! 絶対によ!」
「それってさー、つまり、さっきの授業中、誰かが盗んでいったってこと?」
ルカの一言に、一瞬、教室が静かになる。クラスメイトたちも、彼らの話が気になっていたようだ。
「かといって、まったくの部外者が、そう簡単に校内に入って来られるとは思わないけど」
「じゃあ、関係者ってことか? ここの生徒……クラスの誰かとか?」
「でも、でも。さっき、クラスのみんなは、実技の授業で訓練場にいたわけだしぃ」
「あっ! でもさー、一人、いなかったよな?」
ルカが私のところへ来た。それにつられるように、クラスのみんなもこちらを見た。
「なぁ、ロベリア。どうして、さっきの授業、いなかったのさー? サボって、何してたわけ? 具合が悪そうには見えないんだけど?」
クリクリの緑の目は、もう、私を犯人と決めているようだった。
「ちょっと、調べるから、そこ、どいて」
言うなり、ルカは私を押しやり、机の中を覗き込む。そのすぐあとに、ジョシュアもスカーレットとともにやって来て、
「それも調べさせてもらって、いいかい?」
と、カバンを指さした。
クラスのみんなが、興味津々に見ている。こういう時に限って、先生は遅れているようだ。
このままでは、らちがあかない。
そんな中で、頭に浮かんだのは、バーノンのアドバイス。
私には、まったく身に覚えのない、濡れ衣。だったら、そう、堂々としていればいい。
「どうぞ」
私は、自ら、カバンを差し出した。
だけど……。
私の考えは、甘かった。ゲロ甘だった。
ジョシュアにカバンを渡したつもりが、横からスカーレットが割り込んできた。まるでひったくるように、カバンを奪い取られる。
スカーレットが、乱暴にカバンの中へ手を突っ込んだ。かと思ったら、すぐに手を引っこ抜いて。
「あった、あったわぁ! 私の髪飾りよ!」
大声で言いながら、手をつき上げる。その手が掴んでいたのは、ピンクのリボンの髪飾り。まぎれもなく、彼女のもの。
「ロベリア、どうして、髪飾りを盗んだりしたんだ?」
「どうせ、スカーレットのことが、気に食わないんだろ?」
左にジョシュア、右にルカ。その真ん中から、スカーレットがずいっと詰め寄ってきた。
「私、怒ったりないわ。だから、正直に、話してちょうだい。ね?」
彼女は、にんまりと笑った。
その満面の笑顔に気がつく。それこそ、女の勘というやつだ。
これはスカーレットの自作自演。
思い返せば、彼女はカバンの中を見ることも、探ることもせず、いきなり手を突っ込んで髪飾りを取り出した。初めから、髪飾りがそこにあることを知っていたからできたこと。
私は、彼女に、はめられたのだ。
516
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる
mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。
どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。
金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。
ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)


彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

婚約者は一途なので
mios
恋愛
婚約者と私を別れさせる為にある子爵令嬢が現れた。婚約者は公爵家嫡男。私は伯爵令嬢。学園卒業後すぐに婚姻する予定の伯爵令嬢は、焦った女性達から、公爵夫人の座をかけて狙われることになる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる