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ヒロインに踏み潰されたプレゼント
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「きゃっ! ごめんなさぁい!」
踏み潰されてぺしゃんこになった箱を、おろおろと拾い上げるスカーレット。
金塊を模した幸運の焼き菓子は、跡形もない。
「私ったらぁ、全っ然、気づかなくてぇ! どうしよう! こんなの、もう、食べられないわよね。ごめんなさぁい! ジョシュアが大好きなお菓子なのにぃ! 私、弁償する! 私が同じ物を買って来て、ジョシュアに贈るわ! それでいいわよね? 許してくれるでしょ?」
スカーレットはシュンと肩を落とし、今にも泣き出しそうだった。
大きな瞳が、うるうる、うるうる。
上目遣いで、パチパチ、パチパチ。
そうやってスカーレットが見上げていたのは、私ではなく、ジョシュア。
ジョシュアが受け取る前だったのだから、お菓子の所有者はまだ私。
一言でも、表面だけでもいい。私にも謝るべきなんじゃない?
そんなふうに思う私は、心の狭い嫌なヤツなのだろうか。
「仕方ないよ。わざとじゃないんだし。ロベリアも許してやって」
ジョシュアがそう言うなら、私もうなずかない訳にはいかない。
「気にしないで。スカーレット」
できるだけ優しく言って、その場を離れた。けど、本当は腹わたが煮えくり返ってた。
だって、見えたから。
スカーレットのひざが大きく上がってから、お菓子を踏み潰したところを。
あんなの、わざとに決まってる。
だからといって、どうすることもできない。何より、ヒロインの彼女とは、もめたくなかった。
私は気分を落ち着かせるため、一旦、教室を出る。すると、どういう訳か、クラスメイトのエリーがあとを追ってきた。
「災難だったわね」と、私の肩をたたく。
正直、彼女とは、あまり話したことがなかったので、驚いた。
エリーは『マジですか』で、転入生のヒロインに学校の施設を案内する、いわばチュートリアル係のモブ学生。これといって目立った活躍はなかったけど、設定上はヒロインの親友。実際、この世界でも、彼女はスカーレットとよく一緒にいた。
そんな彼女が、私に体を寄せ、小声で言う。
「さっきのあれ、あの子、わざと踏んだでしょ」
「あなた、見ていたの?」
「バッチリね。思いっきり、足を上げてから踏んでたわ」
「やっぱり」
あの時、スカーレットが、やたら体を触ってくるから、変だとは思っていた。あれは、お菓子を拾わせないためだったに違いない。
納得する一方で、エリーの口調には違和感を覚えていた。
「あれが、あの子の手口よ」
そう言うエリーの声には、軽蔑のようなものが含まれている。
「あなた、スカーレットと友人なのではなくて? 仲が良かったでしょう?」
「友人?」
エリーは鼻で笑って、ゆるゆると首を振る。
「そう思ってたのは、私だけだったみたい」
「どういうこと?」
「私ね、一つ上の学年に幼なじみがいて、スカーレットのお目当ては、そっちだったのよ。彼と仲良くなったら、私は用済みって訳」
「まさか、その幼なじみって、ダグラス?」
「あら、知ってるの?」
そりゃあ、もちろん、攻略対象の一人だから。
キャラクターの人気投票でも、TOP3に入るスポーツ系の爽やかイケメンだ。
そのダグラスへの差し入れを、まったく同じ手口でエリーもダメにされたのだと言う。
「ロベリア。あなたもスカーレットには、気をつけた方がいいわ」
エリーの忠告は、少しもしないうちに、現実となった。
「君がそんな人だとは、思わなかったよ」
ジョシュアから一方的にそう言われ、それからというもの、彼の態度は冷ややかになった。
何が何だか分からなかった。挨拶は無視され、口もきいてくれない。気づかないうちに、彼を怒らせたのだとしたら、謝りたい。でもジョシュアは、それすらも許さず、徹底的に私を避けるようになったのだった。
踏み潰されてぺしゃんこになった箱を、おろおろと拾い上げるスカーレット。
金塊を模した幸運の焼き菓子は、跡形もない。
「私ったらぁ、全っ然、気づかなくてぇ! どうしよう! こんなの、もう、食べられないわよね。ごめんなさぁい! ジョシュアが大好きなお菓子なのにぃ! 私、弁償する! 私が同じ物を買って来て、ジョシュアに贈るわ! それでいいわよね? 許してくれるでしょ?」
スカーレットはシュンと肩を落とし、今にも泣き出しそうだった。
大きな瞳が、うるうる、うるうる。
上目遣いで、パチパチ、パチパチ。
そうやってスカーレットが見上げていたのは、私ではなく、ジョシュア。
ジョシュアが受け取る前だったのだから、お菓子の所有者はまだ私。
一言でも、表面だけでもいい。私にも謝るべきなんじゃない?
そんなふうに思う私は、心の狭い嫌なヤツなのだろうか。
「仕方ないよ。わざとじゃないんだし。ロベリアも許してやって」
ジョシュアがそう言うなら、私もうなずかない訳にはいかない。
「気にしないで。スカーレット」
できるだけ優しく言って、その場を離れた。けど、本当は腹わたが煮えくり返ってた。
だって、見えたから。
スカーレットのひざが大きく上がってから、お菓子を踏み潰したところを。
あんなの、わざとに決まってる。
だからといって、どうすることもできない。何より、ヒロインの彼女とは、もめたくなかった。
私は気分を落ち着かせるため、一旦、教室を出る。すると、どういう訳か、クラスメイトのエリーがあとを追ってきた。
「災難だったわね」と、私の肩をたたく。
正直、彼女とは、あまり話したことがなかったので、驚いた。
エリーは『マジですか』で、転入生のヒロインに学校の施設を案内する、いわばチュートリアル係のモブ学生。これといって目立った活躍はなかったけど、設定上はヒロインの親友。実際、この世界でも、彼女はスカーレットとよく一緒にいた。
そんな彼女が、私に体を寄せ、小声で言う。
「さっきのあれ、あの子、わざと踏んだでしょ」
「あなた、見ていたの?」
「バッチリね。思いっきり、足を上げてから踏んでたわ」
「やっぱり」
あの時、スカーレットが、やたら体を触ってくるから、変だとは思っていた。あれは、お菓子を拾わせないためだったに違いない。
納得する一方で、エリーの口調には違和感を覚えていた。
「あれが、あの子の手口よ」
そう言うエリーの声には、軽蔑のようなものが含まれている。
「あなた、スカーレットと友人なのではなくて? 仲が良かったでしょう?」
「友人?」
エリーは鼻で笑って、ゆるゆると首を振る。
「そう思ってたのは、私だけだったみたい」
「どういうこと?」
「私ね、一つ上の学年に幼なじみがいて、スカーレットのお目当ては、そっちだったのよ。彼と仲良くなったら、私は用済みって訳」
「まさか、その幼なじみって、ダグラス?」
「あら、知ってるの?」
そりゃあ、もちろん、攻略対象の一人だから。
キャラクターの人気投票でも、TOP3に入るスポーツ系の爽やかイケメンだ。
そのダグラスへの差し入れを、まったく同じ手口でエリーもダメにされたのだと言う。
「ロベリア。あなたもスカーレットには、気をつけた方がいいわ」
エリーの忠告は、少しもしないうちに、現実となった。
「君がそんな人だとは、思わなかったよ」
ジョシュアから一方的にそう言われ、それからというもの、彼の態度は冷ややかになった。
何が何だか分からなかった。挨拶は無視され、口もきいてくれない。気づかないうちに、彼を怒らせたのだとしたら、謝りたい。でもジョシュアは、それすらも許さず、徹底的に私を避けるようになったのだった。
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