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そうだ!婚約破棄があるじゃないか
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目が覚めてから、三日が過ぎた。
あのあと、すぐに医師に診てもらい、体の方は、すっかりよくなったホリーだが。まったくよくない事態に陥っていた。
何度、確認しても、何度、寝て起きても、ここは十年前。しかもリヒトとの結婚が、三ヶ月後に迫っていた。
ホリーは、部屋の中を歩き回る。
「無理無理無理無理、絶対、無理!」
リヒトと結婚なんかしたくない。あんな生活は、もう、うんざり。
十年の結婚生活でめった打ちにされた心が、そう簡単に元に戻るはずはない。
天を仰いではうなり、地をにらんではうめく。
そうやって部屋中をぐるぐるしていると、ふと、本棚が目に入った。そこに並ぶのは、大好きなジェイク・スピーヤ。その中の一冊に目がいった。若かりし時……と言っても、この世界ではつい先月、買ったばかりの本。女遊びを繰り返す婚約者に見切りをつけ、たくましく生きていくヒロインの物語だった。
それを見て、ホリーはポンと手をたたく。
「そうだわ! 婚約破棄よ!」
家同士の問題はあるけれど、きっとリヒトも本望だろう。白い結婚なのだから。
ホリーは早速、父に訴えた。
リヒトとの結婚を取りやめてほしい。彼と上手くやっていける自信がない。実は年上なのも、引け目に思っていた。そのうえ、つい先日まで病で臥せっていた身。まだ体調も体力も戻らないので、とても不安……とか、なんとか、かんとか。
思いつく言い訳はすべて並べ、どれも少しずつ話を盛った。
ホリーは男兄弟の中、ようやく生まれた女の子。しかも末っ子。父が自分に甘いことを分かっていた。
上目遣いでうるうる、「お願い」すれば、あっさり上手くいく。父は、すぐさま、シュトラール家へ話をしに行ってくれた。
これで、もう、大丈夫。
ホリーは安堵した。しかし、その安心が、ほんのつかの間のことだったとは。
次の日。
ホリーは、久しぶりにジェイク・スピーヤの作品集を満喫していた。セリフを覚えるくらい、何度も何度も読んでいたけど。
やっぱり、最高だわ。
ロマンス喜劇に、うっとりしながら、優雅にお茶を飲んでいると。コンコンと、控えめなノックがあって、ナニーが顔をのぞかせた。
「あのぅ、お嬢様。そのぅ……」
ナニーには珍しく、困った顔でもじもじしている。
何かあったのか。ホリーが尋ねようとした矢先。その背後から、ナニーの体をグイッと押しのけて、入って来たのはリヒトだった。
「ホリー!」
リヒトはツカツカやって来ると、ホリーの両手を包み込むよう、ガシッと手を握った。
婚約破棄のお礼でも言いに来たのか。ホリーが内心で喜んでいると。
「まったく、婚約破棄だなんて、びっくりしたじゃないか。いくら、フールズデイだからって」
「フールズ、デイ?」
ホリーはポカンと繰り返してから、心の中で叫んだ。
しまったーーーー!
昨日は、四月の一日。『どんな嘘をついても許される』という日であった。
父がすんなりと、話をしに行ってくれたのは、このためだったのだ。娘のちょっとしたいたずらに付き合った、くらいの気持ちだったのだろう。
一方のホリーは、結婚をやめさせることだけに頭が一杯で、十年ぶりのこのイベントをすっかり忘れていた。
呆然とするホリー。そこへ。
「すみません、ホリー様」と、もう一人、男性が現れた。
リヒトの従者で、レイ・ユージーン。
「ホリー様がお元気になったと聞いて安堵した矢先、伯爵様から婚約破棄なんて言われたもので、リヒト様は少々、錯乱してまして」
そう言うと、彼はホリーからリヒトを引き離した。
「フールズデイだからって、ついていい嘘とだめな嘘があるだろう」
不満そうに言うリヒト。
どこから話せばいいのか。
ホリーは、ひとまず、リヒトとレイを座らせた。
何が何でも、婚約を破棄しなければ。
訳も分からず、始まってしまった二度目の人生。どうすることもできないのなら、もう、我慢なんてしない。
ホリーは膝の上で、ぎゅっと手を握りしめた。
あのあと、すぐに医師に診てもらい、体の方は、すっかりよくなったホリーだが。まったくよくない事態に陥っていた。
何度、確認しても、何度、寝て起きても、ここは十年前。しかもリヒトとの結婚が、三ヶ月後に迫っていた。
ホリーは、部屋の中を歩き回る。
「無理無理無理無理、絶対、無理!」
リヒトと結婚なんかしたくない。あんな生活は、もう、うんざり。
十年の結婚生活でめった打ちにされた心が、そう簡単に元に戻るはずはない。
天を仰いではうなり、地をにらんではうめく。
そうやって部屋中をぐるぐるしていると、ふと、本棚が目に入った。そこに並ぶのは、大好きなジェイク・スピーヤ。その中の一冊に目がいった。若かりし時……と言っても、この世界ではつい先月、買ったばかりの本。女遊びを繰り返す婚約者に見切りをつけ、たくましく生きていくヒロインの物語だった。
それを見て、ホリーはポンと手をたたく。
「そうだわ! 婚約破棄よ!」
家同士の問題はあるけれど、きっとリヒトも本望だろう。白い結婚なのだから。
ホリーは早速、父に訴えた。
リヒトとの結婚を取りやめてほしい。彼と上手くやっていける自信がない。実は年上なのも、引け目に思っていた。そのうえ、つい先日まで病で臥せっていた身。まだ体調も体力も戻らないので、とても不安……とか、なんとか、かんとか。
思いつく言い訳はすべて並べ、どれも少しずつ話を盛った。
ホリーは男兄弟の中、ようやく生まれた女の子。しかも末っ子。父が自分に甘いことを分かっていた。
上目遣いでうるうる、「お願い」すれば、あっさり上手くいく。父は、すぐさま、シュトラール家へ話をしに行ってくれた。
これで、もう、大丈夫。
ホリーは安堵した。しかし、その安心が、ほんのつかの間のことだったとは。
次の日。
ホリーは、久しぶりにジェイク・スピーヤの作品集を満喫していた。セリフを覚えるくらい、何度も何度も読んでいたけど。
やっぱり、最高だわ。
ロマンス喜劇に、うっとりしながら、優雅にお茶を飲んでいると。コンコンと、控えめなノックがあって、ナニーが顔をのぞかせた。
「あのぅ、お嬢様。そのぅ……」
ナニーには珍しく、困った顔でもじもじしている。
何かあったのか。ホリーが尋ねようとした矢先。その背後から、ナニーの体をグイッと押しのけて、入って来たのはリヒトだった。
「ホリー!」
リヒトはツカツカやって来ると、ホリーの両手を包み込むよう、ガシッと手を握った。
婚約破棄のお礼でも言いに来たのか。ホリーが内心で喜んでいると。
「まったく、婚約破棄だなんて、びっくりしたじゃないか。いくら、フールズデイだからって」
「フールズ、デイ?」
ホリーはポカンと繰り返してから、心の中で叫んだ。
しまったーーーー!
昨日は、四月の一日。『どんな嘘をついても許される』という日であった。
父がすんなりと、話をしに行ってくれたのは、このためだったのだ。娘のちょっとしたいたずらに付き合った、くらいの気持ちだったのだろう。
一方のホリーは、結婚をやめさせることだけに頭が一杯で、十年ぶりのこのイベントをすっかり忘れていた。
呆然とするホリー。そこへ。
「すみません、ホリー様」と、もう一人、男性が現れた。
リヒトの従者で、レイ・ユージーン。
「ホリー様がお元気になったと聞いて安堵した矢先、伯爵様から婚約破棄なんて言われたもので、リヒト様は少々、錯乱してまして」
そう言うと、彼はホリーからリヒトを引き離した。
「フールズデイだからって、ついていい嘘とだめな嘘があるだろう」
不満そうに言うリヒト。
どこから話せばいいのか。
ホリーは、ひとまず、リヒトとレイを座らせた。
何が何でも、婚約を破棄しなければ。
訳も分からず、始まってしまった二度目の人生。どうすることもできないのなら、もう、我慢なんてしない。
ホリーは膝の上で、ぎゅっと手を握りしめた。
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