君とのキスは、涙味。

くすのき

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しょうどく。※ちょいエロです※

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 脱衣場に隣接したバスルームは、一軒家のものと同等、否、それ以上の広さを有していた。例えるならちょっとグレートの良いホテルの浴室だろうか。水垢、ピンクのぬめり、黒カビ黴、石鹸カス、皮脂汚れ……一般家庭で目にする機会の多い五大汚れが一切見当たらない大きくて綺麗な場所だ。
 そんな場所が今、喘ぎ声をひっきりなしに反響させる非常に厭らしい空間となっていた。新たに追加した泡を雪弥に塗りたくり弄る大きな手。その手の持ち主は当然夏史だ。雪弥同様、裸となった彼は雪弥の願い通り、全身を使って雪弥を“消毒”する。
 ひとしきり胸を弄り、次いで股間のショートソードに手を伸ばす。しっかり快感を拾い反応したそれをやわやわと揉みしだく。やや硬度を増していたそれが刺激を受けて更に硬く、にょきっと上を向いた。
 夏史はそんな可愛らしい陰茎を握った手を上下させる。もちろん乱暴にではない。緩急をつけて雪弥の感じる場所を優しく優しく愛撫する。
 四カ月いや八ヶ月ぶりの前戯は蕩けるほどに甘く、理性が吹き飛ぶくらい気持ちいい。やがてぴしゅっと発射される白蜜。久しぶりの行為とあってその量は多く、色も濃い。
 絶頂に登りつめた雪弥の体は痙攣けいれんし、と同時に前へ傾いたその体を、手を後方にいた夏史が強く引く。すると密着した陰部にはち切れんばかりに膨らんだ夏史の男根がフィットする。
 例に漏れず泡塗れのそれがゆったりとした前後運動を始め、しおれた陰茎を擦り上げるが雪弥はそれを嫌がらない。それどころか自ら腰をくねらせ、欲しがる。
 もっと。
 もっとしてと切なく強請ねだる。
 もはや消毒としてではなく、ただの可愛らしいお強請りに夏史の腰の動きも自然と速度を増して、手拍子のようなパンパンと乾いた音が浴室内に響き渡った。
 エッチ、本番は一年後と約束しているため肛門性交は叶わないものの、それに負けない快楽が麻薬となって二人を深い場所へ堕としていく。このまま溶けて一つに混ざり合えばどんなに幸せだろうか。目の奥に星が瞬くのを感じながら、雪弥はふと思う。
 そしてやはり自分は夏史でないと駄目なのだと再認識した。

「雪、もっ、でる!…………くっ」

 そう言って一際強く腰を打ち付けた途端、股にいた男根は勢いよく精を放つ。受け止めた先はもはや意味を成さない曇った姿見。
 先に付着した雪弥の白蜜と合わさり、重力に従ってどろりと落ちていく様はどこか扇情的だ。雪弥はそれを指で掬い取って口に含む。青臭く、とんでもなく苦い。
 とても食べられたものではないはずなのに、何故か今は一滴残らず腹に収めたくて堪らない気持ちになる。それに伴い、腹の奥がキュンキュン疼いた。
 それでも体はもう限界で、有酸素運動をした後のように雪弥の肺は空気を求めて大きく上下する。背後の夏史も同じらしく揺れが重なった。それが妙に心地良い。ふふふと喉を震わせると、釣られてまた夏史も笑い出す。
 情事後に似つかわしくない悪戯が成功した子供のような擽ったさが胸の内に広まり、なんとか体を反転させた雪弥はキスをする。

「ん。もう怖くなくなったよ」

 若干掠れを滲ませた声は存外明るい。
 そして感謝を込めて口元、頬、目元へ押し当てる雪弥に夏史も擽ったそうに喉を鳴らしつつも全てを受け入れる。
 チュッ、チュッ。
 キスの雨が降りしきる中、雪弥を抱いたまま夏史は浴室の床に座り込む。

「――疲れた?」
「ちょっとな」

 そう苦笑しつつ、今度は夏史からキスを仕掛けられる。雪弥のライトキスとは異なり、下唇と自分の唇で挟んで交互にかわすバインドキスだ。
 何度目かで終わりを告げ、雪弥は彼に全体重を預けるが、夏史に崩れる素振りはない。ジムに通っているわけでもないのに程良く引き締まった筋肉はびくともせず、雪弥をしっかりと受け止める。
 同じ男なのに何だか羨ましい。
 僅かばかりの羨望と嫉妬に包まれながら重なった腰のものを少々上下してやれば、夏史の口から甘めの吐息が吐き出される。同時に刺激を受けた男根も硬度を取り戻し始めていく。雪弥はしてやったりとばかりに微笑んだ。

「夏史先輩のココは元気ですねぇ」
「ゆ~き~」

 咎めるように名を呼ばれるが、そこに怒りは含まれていない。しかし――。

「ひゃん!」
「悪い子はお仕置きしないとな」

 抱きしめてくれていた手が、雪弥の慎ましやかな穴の縁に押し当てられ、ふにふにと感触を確かめ、やがて、それがつぷりとナカへ入る。
 雪弥は甘イキしそうになるのを懸命に堪ける。そんな雪弥に気を良くした夏史は軽い出し入れを繰り返す。
 くちゅ、くちゅと淫らな音が反響し、もうこれ以上は無理と雪弥は夏史に縋りつく。

「んっ、ん、んン、そこ、だ、めぇ」
「ちゃんと反省した?」

 こくこくと頷き返せば、夏史はちゅぷんと指を引き抜いた。
 あぁん、と口から恥ずかしい喘ぎ声が零れ落ちて浴室内にまた反響するも、それに羞恥を回せるだけの余裕は奪い取られたまま。しかも中途半端に弄られたナカは食むものを恋しがって、淫らに蠢く始末。期限前だというのに目の前の雄が欲しくて堪らず、雪弥は夏史を見上げた。
 欲に濡れた瞳に映るのは、自分と同じ、いやそれ以上に飢えた男の瞳。
 このまま流してはいけないと思う半面、一度くらい消毒にかこつけてやってもいいのではと、心の天秤てんびんが激しく揺れ動く。そうしてYESとNOの内、YESの杯が下へ傾いた刹那――
 今日は終わりと夏史が言う。
 予想外の試合終了に呆気に取られた雪弥は大きく目を開く。けれどそんな雪弥を無視して体を離した夏史はシャワーノズルに手を伸ばした。

「さっきのはお仕置きだからダメな。ほら、逆上のぼせると悪いから流してもあがろうぜ。雪、立てるか?」
「立てるけど……その、しっ、したくないの? い、今は消毒だから、その……エッチにはカウントしないよ」

 だから一回だけシてもいいよ、と意味をこめて懇願してみるが、夏史から返されたのは温かなお湯だった。そのまま優しい手つきで泡を落とされ、湯を張った浴槽に入れられる。
 ちょっと温めの三九度。背もたれにした夏史の手をデシデシと叩く雪弥は分かりやすく不機嫌を露わにする。ぱちゃぱちゃと中の湯が揺れて小さな波を作りだした。

「ゆーきー」

 止まる抗議の手。 
 それでも納得がいかないようで口元まで湯に浸かった雪弥はブクブクと気泡を泡立てる。

「それもダメ。……俺もスッッッッゲェしてぇけど、雪はまだ病み上がりだし、約束は一年後だろ」

 頑なに守り通すその姿勢に心のもやが僅かに晴れるが、雪弥の中の欲求不満は未だ拭えない。
 というかあのお仕置きはどうかと思う。煽るだけ煽って放置は生殺し、否、鬼畜の所業ではなかろうか。いやそうに決まってる。
 一度そう思ってしまうと妙に腹が立って腹が立って仕方ないのに――。

「どした?」

 顔を見た瞬間、そんな気持ちも彼方へ吹き飛んでしまうのだから、なんともチョロいと笑ってしまう。

「アイスを所望します」
「アイスか。確かわらび餅味と黒蜜きなこに抹茶ミルク、小豆があったな」
「何その怒涛どとうの和風推し」
「他のが良かったか?」
「ううん。全部僕好みで嬉しい。黒蜜きなこ食べたい」
「りょーかい。俺は抹茶ミルク。上がってから一緒に食べような」 
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