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終わりの始まり⑪
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「はぁ……ユニ」
チュッとリップ音を奏でながら唇を離したレオがうっそりと呟く。
途端、駆け足気味だった心臓の鼓動がまた一段早まり、下腹部の辺りに甘い痺れが走る。
「っ、」
「? どうかした?」
「う、ううん。そっ、それより血が出てるよ、レオ」
「あぁ、これ。大丈夫。単なるかすり傷だから平気」
「駄目っ!」
取り出したハンカチで顔の血を拭う。幸いそれほど深い傷ではなかったものの、自分の所為で怪我を負わせてしまった罪悪感が重石となってズシリと心にのし掛かる。
「……ごめんね」
「? ユニが謝る事なんて一つもないよ。この傷だってさっき転けた時についたものだし、大体こうなったのは全部ヘルブリンとアウクスブルク侯爵の所為でしょ。ユニじゃない」
「それはそう、だけど」
「ユーニ」
幼子を見守るような柔らかな視線に俺は押し黙る。すると俺の頬を撫でていたレオの指が左耳のピアスに触れた。
体がぎくりと強張る。
「ヒビが入ってるね。ユニ、道中なにかあった?」
「こ、これは……ごめん! 目が覚めて気付いたらいつの間にか割れちゃってたんだ。たぶん寝てる間に無意識に壊しちゃったみたいで、あ、でも俺、これ本当に大事にしてて」
必死に弁明を重ねる内に鼻の奥がつんとして、視界には水の膜が張られていく。レオの目を、表情を見るのが怖くて下を向いていると、またレオが抱きしめてくれる。
「れお?」
「大丈夫。怒ってないよ」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと。それより破片で怪我しなかった?」
「ううん、してない」
「なら良かった。もしかしたら、それ、購入時に目に見えないヒビが入っていたかもしれないね」
「……ん」
「じゃあそのままだと危ないから一回外そうか」
「やだ」
「んんんん?」
見つめあった最中、俺の額にレオが自分の額を押し付けてぐりぐりする。
「ユ~ニ~」
「……だって」
「だって?」
「外して落としたくないからやだ。……ねぇ、なんで急に天を仰ぐの?」
「いやちょっと」
「?」
なんかよく分かんないけど、呆れられていないようなので良しとしよう。その後、説得されて泣く泣くピアスを手放したあと俺達はお互いの状況を共有しあうことにした。最も俺の方は火炎瓶片手に此処まで疾走しただけで大した事件はない。
そんなこんなで情報共有を終えて、これからどうすべきかと話し合うと思い込んでいた時、レオの口から堅い声が出た。
「――なるほどね。状況は分かった。けどその前にユニ。俺は今から君を叱ります」
「なんで?」
「いや逆になんで叱られないと思ったの。一人でアンデッドが要るかもしれない貴族街に出歩くなんて、何かあったらどうするの。今回はたまたま運が良かったかもしれないけど、もし群れや大群、不意打ちされたらどうなっていたことか」
「だから火炎瓶いっぱい持ってきたよ。ほら」
「違う、そうじゃない」
鞄いっぱいの火炎瓶を見せると、何故かレオが頭を抱えてしまった。
「あー、うん。じゃあさ。俺がユニの立場だったらユニはどうする?」
「叱る」
「ね!」
「うっ。な、ならレオは自分の所為で皆が危険な場所にいるのに、吞気にその場に待てって言われて留まれる?」
「無理」
「でしょ!」
暫し睨み合い、やがて俺達はどちらともなく笑う。
「この話は止めよっか」
「そうだね。たぶんこれ何処までいっても平行線だもん。あ、でも心配させちゃってごめんなさい」
「俺もユニの気持ちを考えてなかった。ごめんね」
レオは目元、俺は頬に唇を落としたのち、気持ちを切り替えて周囲を見渡した。グノー、ラム、ルディの姿は未だない。無事だろうかと心配していると、レオが何かに気付いたように「あ」と声を上げる。
「どうしたの?」
「いや、そこの肖像画なんだけど最初に見た時と何か違う気がして見てたんだけど、そこ」
指差した先は額装の上下左右。それぞれの辺に一つずつ空いた小さな穴だ。
「なんだろ……鍵、穴かな?」
「その通りでございます」
後方より鈴を転がすような声が聞こえてくる。驚いて振り返ると、そこには肖像画の女性と瓜二つの淑女が立っていた。
レオ曰く、魔物らしい彼女は聖母のように穏やかな微笑を浮かべ、言う。
「お初にお目に掛かります」
「あ、はい」
「あの四辺にレオ様の入手した黒花、赤鬼、白塔、緑椿象の鍵を差し込みますと二階への通行が可能となります」
レオの手に収まる黒花の鍵がキラリと光る。
「それから四つの鍵は何処にさしてもいい訳ではございませんのであしからず」
「……間違えたら」
「その場合、鍵は消失し、もう一度各扉に挑戦して頂く必要がございます」
「めんどくさっ!」
思わずやってしまったツッコミにも彼女はただただ微笑む。
「ヒントは無いの?」
「ございません」
それは無理ゲーなのでは?
喉元まで出かかったそれを呑み込んで、俺はもう一度額装を注視する。すると鍵穴の上に小さく数字が刻まれている事に気付いた。上から順に、XVI、255:0:0、1,000、1/1と並んでいる。
まるで意味が分からない。
「ユニ、分かる?」
「さっぱり。取り敢えずその鍵見せて貰ってもいい?」
黒花の鍵。夜の闇を溶かしたようなそれに、一輪の白い花が描かれている。
何となく鈴蘭に似てるような気もするが、俺は其方の方にはとんと疎いため正確には分からない。
「何の花だろ……」
「スノードロップにございます」
「へー」
名前もあまり聞いたことはない。
念のためレオにも聞いてみるが、やはり記憶にはないそうだ。
XVI、255:0:0、1,000、1/1。
この中でスノードロップ、いや黒花の鍵に関連する数字がある。
「(ここにスマホがあれば検索して一発なのに……)」
うんうんと唸りを上げていると、また俺達の後方からヴンッという起動音にも似た音が鳴った。
今度は何だと警戒すれば、レオの時同様扉が現れ、中からルディが飛び出してきた。
「ユニざぁぁあん!」
「ぐぁっ!」
強烈な体当たりにつんのめりそうになった体をすんでのところで堪える。
なんていうか相撲取りのぶつかり稽古のような勢いだ。
「ユニさんだ。本物のユニさんだ!」
「うぉっふ。ルディ君、ステイ。ちょっと離れよ、ね?」
「ユニざぁぁあん」
聞けや。
「ユニが苦しがってるから止めて」
「やだやだやだ、離してください!」
レオによって引き剥がされたルディが、かつてない暴れっぷりを見せる。
どうしてそうなった。
「あ~……。なんか心配かけちゃったみたいでごめんね。この通り、今は元気だから少し落ち着こっか。はい、深呼吸。吸ってー、吐いてー」
「すぅー、はぁー」
「はい。落ち着いたかな?」
「ユニさんユニさんユニさん」
「……うん、駄目だね」
扉の先で一体何があったのか。一先ず落ち着かせるべきと判断した俺は、今度は自分からルディを抱きしめに行く。なんかレオが凄い不服そうな顔をしているが、状況把握を優先してここは我慢してもらう。
小さな子供をあやすみたいにポンポンと背中を叩いてやれば、彼は俺の肩口にぐりぐりと顔をこすりつける。
そしてその度にレオの表情が般若に近付いていってなんとも居心地が悪い。
「えっーと、ルディ君。そのままで聞いて欲しいんだけど大丈夫かな」
「ふぁい」
「取り敢えずまず怪我はしてない」
「したけどしてないです」
「んんん? ……あ、自分で治したって事?」
腕の中のルディが頷く。
「そっか。あのさレオに聞いたんだけど、二階に上がるために鍵が四つ必要みたいなんだ。ルディ君は」
「取ってきました」
そう言って見せてくれたのは、トランプのような絵柄で砕かれた塔を描いた白い鍵だった。
「……あれ」
「ユニさん?」
「なんか見たことがあるような」
既視感を覚えた俺は懸命に記憶の引き出しを開け閉めする。紫時代に何処かで似たようなものを目にした記憶があった。けどそれが何処であったかはいまいち思い出せない。
「なんだろ。トランプ……いやこんなトランプは普通にないし、なんかで見た筈……カード、カード、カード。……個展、そうだ。個展だ。ミュシャ展」
一時期、占いにハマった颯斗が俺を個展に引き摺って連れて行った時だ。
そこで見たタロットカードに酷似していた。
「ユニさん?」
「だとしたらこれは何のタロットカードだろう。塔があるから、それに関連するものなんだろうけど」
如何せん俺は其方にも疎い。
きょとんとするルディに構わず、俺は顔だけ淑女へと振り返り、一つだけ尋ねる。
「あの、タロットカードを順に数字と一緒に教えて貰う事は出来ますか」
「構いませんよ。最初は0:愚者、1:魔術師、2:女教皇、3:女帝、4:皇帝、5:教皇、6:恋人、7:戦車、8:正義、9:隠者、10:運命の輪、11:力、12:吊された男、13:死神、14:節制、15:悪魔、16:塔、17:星、18:月、19:太陽、20:審判、21:世界です」
「ビンゴ!」
「え、え、どうしたんですか」
「あぁ、ごめん。この鍵をね、あの額装の穴の正しい位置にそれぞれ嵌めなきゃいけなくてね。その推理をしてたんだよ」
「はぁ……」
「レオ、ルディ君の白塔の鍵はたぶんXVI」
「流石ユニ!」
盛り上がる俺達について行けてないルディが、はて?と首を捻る。
残すは黒花、赤鬼、緑椿象。
黒花はいまいち絞りきれないので、ラムとグノーが持ってくる赤鬼と緑椿象の方から絞るしかないだろう。
早く二人とも戻ってこないかと考えていたその時、今度は音も無く二つの扉が現れ出でた。
きっとラムとグノーだ。
がちゃりと同時に扉が開く。
その瞬間、俺、いや女を除いた全員が大きく目を見開いた。
「ラム、グノー!!」
扉の外から血だらけの二人が出て来たからだ。
チュッとリップ音を奏でながら唇を離したレオがうっそりと呟く。
途端、駆け足気味だった心臓の鼓動がまた一段早まり、下腹部の辺りに甘い痺れが走る。
「っ、」
「? どうかした?」
「う、ううん。そっ、それより血が出てるよ、レオ」
「あぁ、これ。大丈夫。単なるかすり傷だから平気」
「駄目っ!」
取り出したハンカチで顔の血を拭う。幸いそれほど深い傷ではなかったものの、自分の所為で怪我を負わせてしまった罪悪感が重石となってズシリと心にのし掛かる。
「……ごめんね」
「? ユニが謝る事なんて一つもないよ。この傷だってさっき転けた時についたものだし、大体こうなったのは全部ヘルブリンとアウクスブルク侯爵の所為でしょ。ユニじゃない」
「それはそう、だけど」
「ユーニ」
幼子を見守るような柔らかな視線に俺は押し黙る。すると俺の頬を撫でていたレオの指が左耳のピアスに触れた。
体がぎくりと強張る。
「ヒビが入ってるね。ユニ、道中なにかあった?」
「こ、これは……ごめん! 目が覚めて気付いたらいつの間にか割れちゃってたんだ。たぶん寝てる間に無意識に壊しちゃったみたいで、あ、でも俺、これ本当に大事にしてて」
必死に弁明を重ねる内に鼻の奥がつんとして、視界には水の膜が張られていく。レオの目を、表情を見るのが怖くて下を向いていると、またレオが抱きしめてくれる。
「れお?」
「大丈夫。怒ってないよ」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと。それより破片で怪我しなかった?」
「ううん、してない」
「なら良かった。もしかしたら、それ、購入時に目に見えないヒビが入っていたかもしれないね」
「……ん」
「じゃあそのままだと危ないから一回外そうか」
「やだ」
「んんんん?」
見つめあった最中、俺の額にレオが自分の額を押し付けてぐりぐりする。
「ユ~ニ~」
「……だって」
「だって?」
「外して落としたくないからやだ。……ねぇ、なんで急に天を仰ぐの?」
「いやちょっと」
「?」
なんかよく分かんないけど、呆れられていないようなので良しとしよう。その後、説得されて泣く泣くピアスを手放したあと俺達はお互いの状況を共有しあうことにした。最も俺の方は火炎瓶片手に此処まで疾走しただけで大した事件はない。
そんなこんなで情報共有を終えて、これからどうすべきかと話し合うと思い込んでいた時、レオの口から堅い声が出た。
「――なるほどね。状況は分かった。けどその前にユニ。俺は今から君を叱ります」
「なんで?」
「いや逆になんで叱られないと思ったの。一人でアンデッドが要るかもしれない貴族街に出歩くなんて、何かあったらどうするの。今回はたまたま運が良かったかもしれないけど、もし群れや大群、不意打ちされたらどうなっていたことか」
「だから火炎瓶いっぱい持ってきたよ。ほら」
「違う、そうじゃない」
鞄いっぱいの火炎瓶を見せると、何故かレオが頭を抱えてしまった。
「あー、うん。じゃあさ。俺がユニの立場だったらユニはどうする?」
「叱る」
「ね!」
「うっ。な、ならレオは自分の所為で皆が危険な場所にいるのに、吞気にその場に待てって言われて留まれる?」
「無理」
「でしょ!」
暫し睨み合い、やがて俺達はどちらともなく笑う。
「この話は止めよっか」
「そうだね。たぶんこれ何処までいっても平行線だもん。あ、でも心配させちゃってごめんなさい」
「俺もユニの気持ちを考えてなかった。ごめんね」
レオは目元、俺は頬に唇を落としたのち、気持ちを切り替えて周囲を見渡した。グノー、ラム、ルディの姿は未だない。無事だろうかと心配していると、レオが何かに気付いたように「あ」と声を上げる。
「どうしたの?」
「いや、そこの肖像画なんだけど最初に見た時と何か違う気がして見てたんだけど、そこ」
指差した先は額装の上下左右。それぞれの辺に一つずつ空いた小さな穴だ。
「なんだろ……鍵、穴かな?」
「その通りでございます」
後方より鈴を転がすような声が聞こえてくる。驚いて振り返ると、そこには肖像画の女性と瓜二つの淑女が立っていた。
レオ曰く、魔物らしい彼女は聖母のように穏やかな微笑を浮かべ、言う。
「お初にお目に掛かります」
「あ、はい」
「あの四辺にレオ様の入手した黒花、赤鬼、白塔、緑椿象の鍵を差し込みますと二階への通行が可能となります」
レオの手に収まる黒花の鍵がキラリと光る。
「それから四つの鍵は何処にさしてもいい訳ではございませんのであしからず」
「……間違えたら」
「その場合、鍵は消失し、もう一度各扉に挑戦して頂く必要がございます」
「めんどくさっ!」
思わずやってしまったツッコミにも彼女はただただ微笑む。
「ヒントは無いの?」
「ございません」
それは無理ゲーなのでは?
喉元まで出かかったそれを呑み込んで、俺はもう一度額装を注視する。すると鍵穴の上に小さく数字が刻まれている事に気付いた。上から順に、XVI、255:0:0、1,000、1/1と並んでいる。
まるで意味が分からない。
「ユニ、分かる?」
「さっぱり。取り敢えずその鍵見せて貰ってもいい?」
黒花の鍵。夜の闇を溶かしたようなそれに、一輪の白い花が描かれている。
何となく鈴蘭に似てるような気もするが、俺は其方の方にはとんと疎いため正確には分からない。
「何の花だろ……」
「スノードロップにございます」
「へー」
名前もあまり聞いたことはない。
念のためレオにも聞いてみるが、やはり記憶にはないそうだ。
XVI、255:0:0、1,000、1/1。
この中でスノードロップ、いや黒花の鍵に関連する数字がある。
「(ここにスマホがあれば検索して一発なのに……)」
うんうんと唸りを上げていると、また俺達の後方からヴンッという起動音にも似た音が鳴った。
今度は何だと警戒すれば、レオの時同様扉が現れ、中からルディが飛び出してきた。
「ユニざぁぁあん!」
「ぐぁっ!」
強烈な体当たりにつんのめりそうになった体をすんでのところで堪える。
なんていうか相撲取りのぶつかり稽古のような勢いだ。
「ユニさんだ。本物のユニさんだ!」
「うぉっふ。ルディ君、ステイ。ちょっと離れよ、ね?」
「ユニざぁぁあん」
聞けや。
「ユニが苦しがってるから止めて」
「やだやだやだ、離してください!」
レオによって引き剥がされたルディが、かつてない暴れっぷりを見せる。
どうしてそうなった。
「あ~……。なんか心配かけちゃったみたいでごめんね。この通り、今は元気だから少し落ち着こっか。はい、深呼吸。吸ってー、吐いてー」
「すぅー、はぁー」
「はい。落ち着いたかな?」
「ユニさんユニさんユニさん」
「……うん、駄目だね」
扉の先で一体何があったのか。一先ず落ち着かせるべきと判断した俺は、今度は自分からルディを抱きしめに行く。なんかレオが凄い不服そうな顔をしているが、状況把握を優先してここは我慢してもらう。
小さな子供をあやすみたいにポンポンと背中を叩いてやれば、彼は俺の肩口にぐりぐりと顔をこすりつける。
そしてその度にレオの表情が般若に近付いていってなんとも居心地が悪い。
「えっーと、ルディ君。そのままで聞いて欲しいんだけど大丈夫かな」
「ふぁい」
「取り敢えずまず怪我はしてない」
「したけどしてないです」
「んんん? ……あ、自分で治したって事?」
腕の中のルディが頷く。
「そっか。あのさレオに聞いたんだけど、二階に上がるために鍵が四つ必要みたいなんだ。ルディ君は」
「取ってきました」
そう言って見せてくれたのは、トランプのような絵柄で砕かれた塔を描いた白い鍵だった。
「……あれ」
「ユニさん?」
「なんか見たことがあるような」
既視感を覚えた俺は懸命に記憶の引き出しを開け閉めする。紫時代に何処かで似たようなものを目にした記憶があった。けどそれが何処であったかはいまいち思い出せない。
「なんだろ。トランプ……いやこんなトランプは普通にないし、なんかで見た筈……カード、カード、カード。……個展、そうだ。個展だ。ミュシャ展」
一時期、占いにハマった颯斗が俺を個展に引き摺って連れて行った時だ。
そこで見たタロットカードに酷似していた。
「ユニさん?」
「だとしたらこれは何のタロットカードだろう。塔があるから、それに関連するものなんだろうけど」
如何せん俺は其方にも疎い。
きょとんとするルディに構わず、俺は顔だけ淑女へと振り返り、一つだけ尋ねる。
「あの、タロットカードを順に数字と一緒に教えて貰う事は出来ますか」
「構いませんよ。最初は0:愚者、1:魔術師、2:女教皇、3:女帝、4:皇帝、5:教皇、6:恋人、7:戦車、8:正義、9:隠者、10:運命の輪、11:力、12:吊された男、13:死神、14:節制、15:悪魔、16:塔、17:星、18:月、19:太陽、20:審判、21:世界です」
「ビンゴ!」
「え、え、どうしたんですか」
「あぁ、ごめん。この鍵をね、あの額装の穴の正しい位置にそれぞれ嵌めなきゃいけなくてね。その推理をしてたんだよ」
「はぁ……」
「レオ、ルディ君の白塔の鍵はたぶんXVI」
「流石ユニ!」
盛り上がる俺達について行けてないルディが、はて?と首を捻る。
残すは黒花、赤鬼、緑椿象。
黒花はいまいち絞りきれないので、ラムとグノーが持ってくる赤鬼と緑椿象の方から絞るしかないだろう。
早く二人とも戻ってこないかと考えていたその時、今度は音も無く二つの扉が現れ出でた。
きっとラムとグノーだ。
がちゃりと同時に扉が開く。
その瞬間、俺、いや女を除いた全員が大きく目を見開いた。
「ラム、グノー!!」
扉の外から血だらけの二人が出て来たからだ。
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