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ルディ・リアリース⑤
しおりを挟む「はい! 拙者の名はナウシュヴォーナ・デールライト。お察しの通り、デールライト伯爵家の三男坊にござる。少々口にし辛い名ゆえ気軽にナウちゃんと呼んでくだされ!」
「マジかぁ……」
顔面を覆い天を仰ぐ俺、距離感の可笑しい奇天烈動作貴族の暫定転生者、俺を気遣う彼氏。野次塗れの外野。
なんだこの地獄は。
「あー……デールライト伯爵令息にご挨拶申し上げます」
「な、何故敬語を?! 先程のようにタメ口で構いませんぞ。名も親しみを込めてナウちゃん、いえ、ナーちゃんでもよいのですぞ」
「いや駄目でしょう。それよりご令息のような貴い方が何故このような掃き溜めにいらっしゃったのですか」
「アァン。つれないユニたんも善い!」
「もうやだ此奴」
「ユニ、代わろうか」
「お願いしたいんだけど」
「ふぉおおお。生腰抱きぃいいい」
動きと喋りだけで精神ダメージ与えてくる暫定転生者とか本気要らない。
ここからどう話しを持っていくべきか心底頭を抱える俺にレオが尋問役を代わってくれる。
「さっきの質問に答えてくれる?」
「はいっ! 兄上がユニたん達を呼びつけたと小耳に挟んだゆえ、遠くからならばお顔を拝見出来ると窺っていた次第にござる!」
しかし一向に俺達が姿を現さなかった為、何か不測の事態が起きたと思い、足を運んだのだそうだ。そこで漸くナウシュヴォーナの瞳が気絶した三人を捉える。
「ところで何故彼等は気を失っているのでござるか?」
「それ今気付いたんだ」
「端的に言うと此処の兵士が無抵抗の俺達を投獄したかと思いきや今さっき無理矢理出されて、直後にそこで伸びてる執事?に結婚指輪を破壊されてブチ切れた俺達が奴等をぶちのめした」
「ひょっ!?」
意表を突かれたナウシュヴォーナに証拠の残骸を見せる。
「こここ、これが」
「そう。俺がレオの為に買って渡そうとしてた結婚指輪」
「た」
「た?」
「大変申し訳ありませんでしたぁああああああああ!」
土下座を超えた器用な土下寝だ。
突然の謝罪に今度は此方も意表を突かれる。どうやらナウシュヴォーナは言動と動作は非常にアレだが、人間行動による善悪の区別はきちんと搭載されていたらしい。親御さんグッジョブ。
真摯な態度で頭を擦りつける彼に僅かに燻り続けていた怒りの炎が鎮火を見せ始める。
「貴方がやった事ではないのでそのように頭を下げる必要はありません。ただ彼等に相応の罰と弁償をお約束して頂けるのであれば」
「いいえ、いいえ。例えどのような理由があろうとも彼の行為は非難されて然るべきもの。そして無抵抗な貴方方を連行した家臣の罪もまた主である伯爵家の罪にござる。罰と賠償は拙者が責任を持ってさせるでござる」
聞けば、俺達がルディ捜索と保護を強く妨害し剣を向けた為にやむを得ず捕縛したと報告されていたとのこと。
とんだ嘘八百である。
「一つ質問。俺達が嘘をついているとは考えないの」
「レオたんは好青年設、と聞き及んでおりますゆえ。それにお恥ずかしいことに我が家の者は」
ナウシュヴォーナが口篭もる。
成る程。前科がある、または彼等ならやりかねない心当たりが多分にあるというわけか。
「まあ貴族の選民思想は今に始まった事ではないからね」
「レオ……」
「彼等にも事情が、いや、コレは言い訳でござるな。不当な拘束をして誠に申し訳ないでござるよ」
まるで別人のような真摯な態度に心動かされ、ナウシュヴォーナの拘束を解いてやる。
「良いのでござるか」
「貴方様に敵意はないと判断しました。そして此方も拘束してしまい申し訳ありません」
「ふぉおおお。ユニたんのデレ頂きましたぁああああああああ」
「……」
解除して本当に良かったのだろうか。
遠い目をする俺に、頑丈だったらしい執事が気絶から回復する。
彼は俺達、いやナウシュヴォーナの存在に気付くと、お逃げくださいと声を張り上げた。だが――。
「黙れ、ロッテングルー! 其方や兵が彼等に何をしたか私が知らぬとでも思ったか!」
「ぼ、坊ちゃま。私共は」
「言い訳など聞きとうない。今この瞬間より彼等は私の客分だ。異議は認めぬ。加えて貴様等が行った非道については兄上にこれより包み隠さず報告に行く。追って沙汰を待つように!」
「は、ははぁ!」
がらりと打って変わった貴族然とした行動にレオと顔を見合わせる。
誰だ此奴。
「暫くそこで頭を冷やしておれ!……さて、お客人。兄上の元に案内しよう。ついて参れ」
ナウシュヴォーナの勢いに圧倒され、レオと共に外に出る。すると七十度ほど傾いた太陽が俺達を照らす。
やはり一日経過していたようだ。
目を細めながらナウシュヴォーナの後に続くと、彼は徐に足を止めて振り返った。そして――。
「ああああ。緊張したでござる!」
元に戻った。
「レオたん、ユニたん。これでお二人の身の安全は確保したでござるよ!」
「あぁ、うん。どうも」
「ややっ。なんでそんな目で見るでござるか」
見たくもなる。猫を被るどころか人を被ったばりのそれに何も言えない。
そして若干見直した気になったが、そもそものルディ逃亡の元凶は彼だと気付き、見直す部分はほぼほぼなかった。
「取り敢えず訊いていい?」
「はい! 何でも訊いて欲しいでござるよ!」
「ルディは無事なんだよね?」
「ルディたんでしたら今多分兄上ルート、ごほん。兄上がとても気に掛けておいでなので大丈夫にござるよ」
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