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ルディ・リアリース②

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 防具屋の次に立ち寄ったのは、朝のグリル亭の食堂だ。朝というには遅く、正午というにはまだ早い時分のそこは閑散としており、落ち着いて話しをする分には打ってつけの場所だった。
 奥の一角。少々がたつくテーブル席を陣取り、俺達は顔を突き合わせる。壁側に俺とルディ、正面にレオが座る。
 注文した薄い茶を啜りながら、然り気無く目線を横へずらす。美少女もとい立派な男の娘となったルディが泣き腫らした顔で、ふうふうとお茶を冷ましている。控えめに申し上げて最高に可愛らしい。
 俺の視線に気付いた彼が、にへらと口角を緩める。此処にカメラが無いのが本当に悔やまれる。
 自然と横髪を撫でてしまうと、彼はより幸せそうに頬を染めた。歳の離れた弟妹を可愛がる兄達もこんな気持ちなのだろう。

「そうだ。クッキー買っておいたんだけど食べる?」
「食べます!」

 パカっと口を開けて待つ雛鳥の構え。
 色々有り過ぎた上に泣き疲れて甘えん坊モードに移行しているようだ。
 つい先日の自分を見ているようで身につまされるも、此方はとても愛らしくて微笑ましい。口元に持っていって給餌してやれば、今日一番の笑顔の花が咲いた。遠くない将来、この顔が一人の男のモノになるのだと思うと一抹の寂しさが過る。
 ――だがその前に何故レオまで雛鳥の構えを取るのか。まあ可愛いからやるけども。

「ほいひいね」
「……むぅ」

 俺の袖を引いたルディが上目遣いのまま、悲しげに瞳を潤ませる。本当に君、俺がレオに構うの嫌がるのな。願わくはそのままレオを好きになる事無く、他の攻略対象に目を向けていってほしいものだ。但し俺が認められる奴限定で!

「ユニさん?」
「なんでもないよ。これ、食べ終わったら何があったのか訊いてもいい」
「あ、はい。実は…………」

 そう言って口の中の菓子をお茶で流し込んだルディは所々掻い摘まみながら、この一ヶ月超に起こった出来事を順序立てて説明した。
 かなり情報量が多かったので、整理すると――。

 1、ルディは貴族の御落胤。
 2、その父はビア村を焼いた貴族。
 3、つまりルディは仇の子供。
 4、神聖力開花は現在秘匿中。
 5、理由は父親の道具にされない為。
 6、帰還後は支部長経由でオズと手を組んだ貴族の元に預けられていた。
 7、その預けられた先がさっきの兵士の雇用主。階級は伯爵。
 8、ほぼずっと軟禁状態だった。
 9、そこで襲われかけた為に逃げ出し、追われた。←今ココ

「――そういう訳なんです」
「うわぁ……」

 思わず頭を抱えた。
 俺も割かし大概な自覚はあったが、此方も負けてなかった。
 属性と因縁と突っ込み処が多すぎて一体何から手をつけるべきか解らない。――いや先ずはレオだ。関わりがないとはいえ一応仇の子を前にして心穏やかではいられない筈だ。
 流石に刀傷沙汰は不味いと慌てて見上げた刹那、俺は動きを止める。
 恐れや恐怖ではない。驚愕に見開いた視界の先に、信じられないほど自然体なレオが映る。 

「レオ、その、大丈夫?」
「ああ、うん。まあ思うところが全くない訳じゃないけどね」

 瞳孔、声色、動き。
 どれをとっても変化はない。
 嘘ではないのだろう。
 ほっと胸を撫で下ろすと、ルディがまた俺の裾を握る。迷子の子供のように不安げな顔で俺を見つめている。

「僕、どうしたらいいですか」

 そんなもの俺が知りたい――とは、とても言えない。荒々しく髪を搔き、無い頭から一生懸命アイディアを捻り出す。

「一先ずその伯爵とやら、デールライト家には戻らない方がいいかもね。ベストは支部長に事情を話して穏便に保護観察解消を打診してもらうべきなんだろうけど、多分難しいかな」
「外に逃がすのは」
「街中に兵士を放つくらいだから各出入り口に通さないよう通達は出してる可能性が高いよ」
「じゃあどうすれば」
「一つは暫く身を隠す、二つ目は伯爵より上な相手の力を借りる、三つ目は第三者の力を借りて脱出」

 けれどどれも成功率は低いだろう。

「困ったね」
「ねぇ、ルディ。辛い事を訊くけど君は誰に襲われたの」
「お、襲われたっていうより抱き着かれたんです。えっとデールライトの三男だって言ってました」

 それはもう立派なセクハラである。

「流石にそれは同情する」
「その人本当に気持ち悪くて、『本物のヒロインちゃんが生きて動いてる』って訳の解らない事言うし」
「もしかして精神異常者?」
「ルディ!」
「はっ、はい!」
「その人、他に何か可笑しな事とか言ってない。何でもいいから」
「え、……えっと、あ! 『君は六人中誰狙いなの。まさかラスボス、ヘルブなんとか?じゃないよね』だったような」

 両手で顔面を覆う。
 間違いない。

「ユニ?」
「……ユニさん?」

 多分その暫定精神異常者は、俺と同じ転生者、それもBindの内容を知っている者だ。
 その時だった。
 通路側が騒がしくなり始め、次の瞬間、兵士達が食堂に雪崩れ込んできた。

「居たぞ!」
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