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情報量が多い!⑭ オズ視点です。
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オズ視点です。
「おらっ。アイツ等、もう行ったぞ」
同郷とその恋人を追い出した空間にて、俺様は一人呟いた。
目線の先は宙。何もない天井だ。
もしこの場に第三者がいれば、誰もが天井裏の誰かに対しての言葉なのだろうと解釈したことだろう。
「(実際は頭の中の野郎にだがな)」
乱暴に頭を搔き、苛立ち混じりに椅子を蹴り上げる。
俺様の怒りと衝撃音に怯んだのか、漸く脳内BGMになっていた啜り泣きが止まり、男が感謝を口にする。
自分と全く同じ声でありながら、俺様でない口調。
この男の名はイチジョウ・セイヤ。
ある時から俺様の中に勝手に同居してきやがった迷惑な存在だ。
「ありがとう、じゃねえよ。俺様の体であんな醜態晒しやがって舐めてんのか、あ゛ぁ゛!?」
『……すまない』
「謝るくらいなら最初からすんじゃねえ! つうか何で俺様にテメエは消えたなんて嘘つかせやがった」
俺様の問いに、セイヤはだんまりを決め込む。その見上げた態度に俺様はもう一度椅子に当たる。
だがセイヤは答えない。
鼻を啜る耳障りな音だけが頭の中で鳴っている。
「だぁっ。だからベソベソベソベソうっせーんだよ! テメェは女か!」
コイツが紫っつーあの野郎に何をしたのかは大まかに訊いてはいたが、改めてきいて流石に引いた。
俺様も大概クズの自覚はあるが、その上でコイツも別次元の屑野郎だった。
俺様の親父でも母ちゃんにそんな仕打ちをしたことがねえ。寧ろやったら最後クソほどしばかれる。
あの野郎の男の趣味にも呆れるが、よく血が流れなかったものだと感心する。俺様が奴なら間違いなくノータイムで首を撥ねる自信しかない。
「チッ。で、テメェはこれからどうすんだよ」
『もう暫くは君の中にいさせてほしい。もう少しだけ紫の傍にいたい』
「オメェほんと気持ち悪ぃな!」
あれほど綺麗に優しく振られたんなら、潔く身を引いてさっさと消えとけ。
『人を愛した事のない君にはきっと判らないよ』
「ハッ、愛だぁ? テメェのいう愛とやらは随分と身勝手で独り善がりなモンじゃねえか」
あの野郎が瀕死の重傷から回復した後、コイツは泣き叫ぶ野郎の傍にいって宥めるでもなく、ただ喜んで抱き締めて泣くだけだった。混乱していた事を差し引いたとしても、番を慮る気持ちがコイツは本質的に欠けている。
まあ俺様が言うのもなんだがな。
押し黙ったセイヤに呆れながら、テメェで倒した椅子を元に戻す。
『紫は優しい人だったんだ』
「ああ、そうかよ」
『俺には紫しかいなかった』
「あのなぁ……。つうかテメェ、他に沢山女もいて別れたっつっても嫁と子もいたって言ってたじゃねえか」
『交際したのは全部短期間だ。唯一長く続いた嫁はずっと俺を裏切ってた』
「そりゃまあ……」
『子供も俺じゃなく、バンドメンバーの子だ』
衝撃の事実に今度は俺様が押し黙る。
病を宣告されて自暴自棄になった時に離婚と一緒に暴露されたという。
俺様の中で合点がいく。
「(死が迫る中でコイツに残ったのは、音楽と唯一自分を心から愛してくれた野郎が齎した穏やかな時間だったわけか)」
だから人一倍執着した。
俺様は机の牛乳コップを持って回す。
「なぁ、何でこれ注文した。嫌いなんだろ」
『そうしたら紫が気付いて訊いてくれるんじゃないかって思って』
「クソきめぇ上にウゼェ!」
鳥肌を超えて鮫肌になった腕を擦る。訊くんじゃなかった。
『人を愛した事のない君には』
「テメェそれ言えば何でも許されると思うな!」
実体がねえのが本当に悔やまれる。居たら遠慮無くボコれるというのに。
せめてもの嫌がらせに牛乳を飲み干せば、奴はやっぱり美味しくないねと乾いた笑いを漏らした。
嫌がらせになってねえ。
「俺様、やっぱテメェ嫌いだわ」
『知ってる。ごめんね』
「あ゛ーーーー。腹立つ!」
『ハハッ。……けど本当に有難う。君がいてくれたから俺は踏み留まれた』
「この流れで口説くのかよ!!」
『あぁ、違う違う。もし君の意識がなくて叱ってくれなかったら、さっきも怒鳴ってもらえなかったら俺はきっとこんな風に紫と別れられなかった。まだ正直、整理はつけられそうにないけどさ』
「いやそこはつけろや」
脳内でセイヤが笑う。
あっちでも君のように叱ってくれる人がいたら俺は間違えなかったのかもしれない、と。
「(多分ぜってー無理だろ)」
自分で気付こうとせず、相手にばかり求めても結末はきっと変わらない。
どうだろうな、とセイヤに返し、俺は盆と鍵を持って個室を出た。
「(この奇妙な同居生活も何時まで続けにゃなんねえんだろ)」
「おらっ。アイツ等、もう行ったぞ」
同郷とその恋人を追い出した空間にて、俺様は一人呟いた。
目線の先は宙。何もない天井だ。
もしこの場に第三者がいれば、誰もが天井裏の誰かに対しての言葉なのだろうと解釈したことだろう。
「(実際は頭の中の野郎にだがな)」
乱暴に頭を搔き、苛立ち混じりに椅子を蹴り上げる。
俺様の怒りと衝撃音に怯んだのか、漸く脳内BGMになっていた啜り泣きが止まり、男が感謝を口にする。
自分と全く同じ声でありながら、俺様でない口調。
この男の名はイチジョウ・セイヤ。
ある時から俺様の中に勝手に同居してきやがった迷惑な存在だ。
「ありがとう、じゃねえよ。俺様の体であんな醜態晒しやがって舐めてんのか、あ゛ぁ゛!?」
『……すまない』
「謝るくらいなら最初からすんじゃねえ! つうか何で俺様にテメエは消えたなんて嘘つかせやがった」
俺様の問いに、セイヤはだんまりを決め込む。その見上げた態度に俺様はもう一度椅子に当たる。
だがセイヤは答えない。
鼻を啜る耳障りな音だけが頭の中で鳴っている。
「だぁっ。だからベソベソベソベソうっせーんだよ! テメェは女か!」
コイツが紫っつーあの野郎に何をしたのかは大まかに訊いてはいたが、改めてきいて流石に引いた。
俺様も大概クズの自覚はあるが、その上でコイツも別次元の屑野郎だった。
俺様の親父でも母ちゃんにそんな仕打ちをしたことがねえ。寧ろやったら最後クソほどしばかれる。
あの野郎の男の趣味にも呆れるが、よく血が流れなかったものだと感心する。俺様が奴なら間違いなくノータイムで首を撥ねる自信しかない。
「チッ。で、テメェはこれからどうすんだよ」
『もう暫くは君の中にいさせてほしい。もう少しだけ紫の傍にいたい』
「オメェほんと気持ち悪ぃな!」
あれほど綺麗に優しく振られたんなら、潔く身を引いてさっさと消えとけ。
『人を愛した事のない君にはきっと判らないよ』
「ハッ、愛だぁ? テメェのいう愛とやらは随分と身勝手で独り善がりなモンじゃねえか」
あの野郎が瀕死の重傷から回復した後、コイツは泣き叫ぶ野郎の傍にいって宥めるでもなく、ただ喜んで抱き締めて泣くだけだった。混乱していた事を差し引いたとしても、番を慮る気持ちがコイツは本質的に欠けている。
まあ俺様が言うのもなんだがな。
押し黙ったセイヤに呆れながら、テメェで倒した椅子を元に戻す。
『紫は優しい人だったんだ』
「ああ、そうかよ」
『俺には紫しかいなかった』
「あのなぁ……。つうかテメェ、他に沢山女もいて別れたっつっても嫁と子もいたって言ってたじゃねえか」
『交際したのは全部短期間だ。唯一長く続いた嫁はずっと俺を裏切ってた』
「そりゃまあ……」
『子供も俺じゃなく、バンドメンバーの子だ』
衝撃の事実に今度は俺様が押し黙る。
病を宣告されて自暴自棄になった時に離婚と一緒に暴露されたという。
俺様の中で合点がいく。
「(死が迫る中でコイツに残ったのは、音楽と唯一自分を心から愛してくれた野郎が齎した穏やかな時間だったわけか)」
だから人一倍執着した。
俺様は机の牛乳コップを持って回す。
「なぁ、何でこれ注文した。嫌いなんだろ」
『そうしたら紫が気付いて訊いてくれるんじゃないかって思って』
「クソきめぇ上にウゼェ!」
鳥肌を超えて鮫肌になった腕を擦る。訊くんじゃなかった。
『人を愛した事のない君には』
「テメェそれ言えば何でも許されると思うな!」
実体がねえのが本当に悔やまれる。居たら遠慮無くボコれるというのに。
せめてもの嫌がらせに牛乳を飲み干せば、奴はやっぱり美味しくないねと乾いた笑いを漏らした。
嫌がらせになってねえ。
「俺様、やっぱテメェ嫌いだわ」
『知ってる。ごめんね』
「あ゛ーーーー。腹立つ!」
『ハハッ。……けど本当に有難う。君がいてくれたから俺は踏み留まれた』
「この流れで口説くのかよ!!」
『あぁ、違う違う。もし君の意識がなくて叱ってくれなかったら、さっきも怒鳴ってもらえなかったら俺はきっとこんな風に紫と別れられなかった。まだ正直、整理はつけられそうにないけどさ』
「いやそこはつけろや」
脳内でセイヤが笑う。
あっちでも君のように叱ってくれる人がいたら俺は間違えなかったのかもしれない、と。
「(多分ぜってー無理だろ)」
自分で気付こうとせず、相手にばかり求めても結末はきっと変わらない。
どうだろうな、とセイヤに返し、俺は盆と鍵を持って個室を出た。
「(この奇妙な同居生活も何時まで続けにゃなんねえんだろ)」
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