二度目の人生は、地雷BLゲーの当て馬らしい。

くすのき

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情報量が多い!⑫

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 目覚めると破顔一笑のレオがいた。
 精も根も尽き果てた俺とは違い、異様に肌艶の良くなった彼は、おはようと口にする。寝起き特有の掠れ声。
 俺も相好を崩し、挨拶代わりのキスを贈る。軽いリップ音にレオが笑う。
 見れば俺達はどちらも裸で、脳裏に昨夜兼明け方までのまぐあいが過る。
 最高に疲れたが、最高に満たされた初夜だった。
 名を呼ぼうとした唇が声の代わりに咳を出す。随分と喘いだ所為か喉が痛い。これは一回水を入れた方がいいなと腕に力を込めた途端、腰から下に激痛が走る。声にならない悲鳴が漏れる。
 腰と股関節が超痛ぇ。
 苦悶に染まる俺を、レオがあちゃーと言わんげな顔で抱き起こした。
 痛みをやり過ごした頃合いを見計らい、受け取った水を口に入れる。

「無理させてごめんね」
「なんで、コホッ。レオが謝るの?」
「だって優しく抱くって言ったのに」
「優しかったよ」

 相手に配慮せず、躰の隅々まで無理矢理快楽を叩きつけるものとは違う。レオは終始、俺の言葉に従い、愛を囁いてくれたのだ。それを優しいと言わず何と言うのか。
 こてりと首を傾げる俺に、レオは納得のいってない表情を向ける。
 あ、これ多分引き摺るやつだ。
 早々に察した俺は今日一日たっぷり甘やかしてとぶりっ子三割増しで言う。中身おっさんのぶりっ子とか糞デカダメージだが、レオの背後に喜びで尻尾ぶん回す大型犬の幻覚が見えたので良しとする。

「ユニ、大好き!」
「うん。俺も愛してるよ」

 頬擦りするレオの髪が擽ったい。

「レオ、擽ったいよ」
「じゃあもっとやる」
「もう」

 彼氏の甘えたな一面に、微笑ましさと愛しさが天元突破する。これが俺の彼氏です。可愛いでしょう!と全世界に向けて発信、いや自慢したい気分だ。

「ユーニ」
「なーに?」
「なんでもない」
「あはっ。なにそれ」

 顔を見合わせ笑い合うと、両方の腹から控えめな腹の虫が鳴った。
 軽食用意しといて良かった。
 すっかり硬くなったサンドイッチをレオの手から頬張り、咀嚼する。

「美味しい?」
「ん。レオが食べさせてくれるから凄く美味しいよ」
「俺も一口……うん。悪くないね」
「レオ、ちょっとこっち来て」

 顔を差し出したレオの唇横、ついたソースを舌で舐め取る。彼の面を喰らった表情が可愛くて自然と顔が綻ぶ。

「ご馳走様」
「ユニってたまに悪戯っこになるね」
「ふふっ。悪戯っ子の俺は嫌?」
「ううん、大好き」

 お返しとばかりにキスをされ、また二人で笑い合う。

「そうだ。今日は休みだけど、ユニはどうする?」
「んー。寝てたいところだけど、宿の人に布団変えて貰わないといけないからなぁ」

 レオの方の寝台へ照準を合わせる。
 俺の潮で盛大に濡らしてしまった布団が、朝日を浴びて何処となく輝いていた。

「あ、じゃあこっちのと合わせて交換してもらった方がいいね。俺、着替えたら宿の人にお願いしてくるよ」
「ちょっと待って。俺の鞄取って!」

 財布を取り出し、レオの手に一万ルピーを乗せる。

「従業員さんにお願いする時は、これも一緒に渡して」
「え、多くない?」
「迷惑料兼チップ。幾ら安宿の安物寝具とはいえ、心証を悪くするのは悪手だよ。冒険者に横の繋がりがあるように宿屋にもあるし、こういうのは下手こくと後で痛い目にあうんだからね」

 前世の報道番組や職場で何度も目撃した。素直に謝ればいいものを下手な言い訳を重ね、絶対に認めず、挙げ句他人に責任転嫁するイかれた人。
 まあいずれも顰蹙ひんしゅくを買い、やがて業界、人間関係から除外されて消えていったが――。
 おっと、逸れた。兎も角、こういった問題は初動が肝心なのだ。俺が嫌われるのはどうでもいいが、レオの評価まで下がるのは我慢ならない。

「……ユニは凄いなぁ」
「そう?」
「うん。俺、正直そこまで考えてなかった」
「じゃあこれから、じっくりそっち方面についてお勉強していかないとね」
「お、お手柔らかに」
「どうしようかなー?」
「ユニぃ」
「嘘嘘、冗談だよ。大丈夫、ずうっと優しく優ーしく教えて、あ、げ、る」

 耳元に唇を寄せ、厭らしく告げれば赤面したレオがベッドから落ちた。

「ゆ、ゆにぃ……」
「ごめん。ちょっと悪戯がすぎたね」
「本当だよ。うっかりもう一回戦いきたくなった」
「う。それはちょっと」
「ハハッ。冗談だよ。冗談」

 手早く身支度を整えたレオが、床に転がった俺の服を着せてくれる。

「はい、ユニ。ばんざーい」
「ばんざーい。わぷっ」
「はい、オーケー。次は髪の毛整えてあげるね。このブラシでいい?」
「それー」

 上機嫌で髪を整えてもらい、暫くしてレオが寝具交換言伝の為に部屋を出て行く。一人取り残される俺。
 因みにこの時既に、いや昨夜の内にラムとグノー両名から宿側にフォローと迷惑料が支払われていた事を俺はまだ知らない。
 一時間ほどだろうか。
 言伝にしては長いなと思い始めた頃、レオが疲れた気に帰ってきた。

「どしたの、レオ?」
「あ、ユニ。実は」
「うん」
「今、下にオズ……星夜が来てるんだ。君に会いたいって言ってる」
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