二度目の人生は、地雷BLゲーの当て馬らしい。

くすのき

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新たな脅威⑦

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 あのアドバイスから数日。
 レオがおかしくなった。
 いやね、精神的とか物理的に狂ったとかじゃなくて、良いか悪いかなら間違いなく良い方向なのだけれど、なんと喩えるべきか。
 事ある事にレオが『疲れてない?』とか『力仕事なら任せて』とか『これ好きだったよね』など気遣ってくれるのだ。俺に。
 恐らく俺の言葉を自分なりに解釈した結果なのだが、それが少し、いやかなりズレた方へ進化を遂げていた。
 初日に喰らった時は、結婚ウン十年の旦那による突然のデレ期により、その真意を探る、または怪しむ妻の気持ちってこれなんだろうなと吞気に考えていた。それがいけなかった。

「(まさかの俺で練習続行して、このポンコツっぷりはちょっと……)」

 朝日がとても目に染みる。
 これをどう軌道修正すべきか。
 しかも全て悪意のない善意で行われるのだから余計注意し辛くて質が悪い。今だって回収した血濡れの魔核片手に満面の笑みを浮かべている。
 なにこのサイコパス味のある地獄。
 引き攣った微笑みを向ける俺に、彼は不思議そうに首を傾げる。

「ユニ、見て。すっごく綺麗な魔核」
「ア、ウン」
「あげるね」
「あ、りがと」

 優しさの方向音痴!
 ねっとりとした感触に鳥肌を立てていると、自分の仕事を終えたルディが後ろから俺に抱きつく。

「ユニさん、お疲れさまです」
「ひっ!……あ、お疲れさま」
「えへへ。ってうわ、なんですかそれ!」

 掌のそれに気付き、ルディが驚愕を露わにする。

「何って魔核だよ」
「それは見れば分かりますよ。僕が言いたいのは何で血塗れのそれをユニさんが持ってるかってことです」
「俺がプレゼントした」
「正気ですか?」

 良かった。
 彼と俺の感性は一緒だった。

「え、これも駄目なの」
「えっと。人にもよる、かな?」
「ユニさん。こういうのは、はっきり言ってあげた方が本人の為ですよ」
「……ユニは嬉しくない?」
「嫌いではないけど個人的には、ね」
「そっか……」

 悄気た姿が大型犬みたいで可愛い。

「いいですか。相手の喜ぶプレゼントっていうのはこういうのです」

 俺から離れたルディが自らの荷に漁り、草を一束取り出す。

「はい、ユニさん」
「ありがとうって、これ薬草!?」
「さっきそこで見つけたんです。ユニさん昨日探してたみたいだから」
「これは凄く嬉しい!」

 ほらっとマウントを取るルディと悔しがるレオ。

「ありがとう、二人とも。お礼は近い内に用意するね」
「じゃあじゃあ思いっきりぎゅーしてもらってもいいですか」
「ぎゅー? そんなのでいいの?」
「いいんです!」

 弟が兄に甘えるみたいに彼が正面から抱きついてくる。
 汗と少し甘い香りが鼻腔を擽る。

「えへへ。僕、ユニさんの匂い好きです」
「いや汗臭くない?」
「全然。寧ろ森の香りがしてとっても安心します」

 それは多分、俺が一番薬の類を所持してるからだろう。

「俺からしたらルディ君の方が良い匂いだと思うよ」
「本当ですか!? わーい」
「そうかな?」
「ちょっと、レオ」

 ルディに対抗、いや真似をしているのか。レオが後ろから抱きしめて、俺の頭頂部をくんくんと嗅いだ。

「俺はユニの匂いが一番好きだよ」
「あ、う、うん」

 心臓が騒がしい。ルディとの練習台なのに、俺がときめいてどうする。

「……ユニさん」
「え、あ、なんでもない。二人とも貰った物片付けるからちょっと離れて」
「はーい」
「俺ちょっとしか抱きしめてない」
「レオはいつも夜に俺を抱っこしてるじゃん」
「えぇっ、レオさんだけ狡い!」
「いやいやいや、テントが狭いから自然とそうなってるだけだからね」

 今度はルディが唇を尖らせて、不満を示す。マウントの取り合い。最近これが彼等なりのコミュニケーションなのでは、と思えてならない。
 そうこうしていると、散らばっていたラム、グノー、オズが戻ってくる。
 因みにロキの姿が見えないのは、街に入れない俺達の代わりに物資の補充と換金に行っているからだ。

「相変わらずだなお前等」
「あ、お帰り」
「おウ」
「……何してんだ」
「――別に」

 そういえばもう一つ解った事もある。
 消えて現れて消える星夜だが、どうやらオズと共存しているようだ。
 何が切り替えスイッチになるかは現状不明。

「そっちの収穫は?」
「まあまあってとこダ」
「ん? ロキが帰ってきたみてえだな」

 ラムの視線を追うと、言葉通り大きなリュックを抱えたロキがいた。
 あの厨二執事スタイルにリュック。
 とてもシュールな光景だが、誰も何も言わないので俺も言わない。
 レオの後ろに隠れて、その到着を待つ。

「ただいま戻りました」
「おう、お疲れさん。悪いな」
「いえ。此方の都合で皆さんには留まっていただいているのですからこれくらい問題ありません。ただ」
「ただ、どうしタ」

 僅かに口篭もったロキに、嫌な予感が過る。

「少々困った事になりまして、お望みの武器や防具の手入れ用品がご希望の半分しか揃えられなかったのです」
「え、なんで!」
「まさかあの魔物か!?」

 俺達の間に緊張が走る。

「端的にいえば。けれど襲われたのは冒険者ではなく、貴族ですがね」
「ハァッ!?」

 冒険者を狙ったものではないのか。
 困惑する俺達に気にせず、ロキは続ける。

「昨夜狙われたのはグラフォリス男爵家とノーランディット子爵家です。元々悪名の高い貴族でして、当初は暗殺の類かと疑われたそうですが、それぞれ唯一生き残った庭師と侍女がそう証言しました」
「……他には?」
「魔物は愉しむように屋敷の者を一人ずつ嬲り殺しにしたとのことです」
「下劣だナ」
「支部の方は何か動きはあったのか?」
「支部長が皇城に召還されたくらいですね。皆様方には引き続き、周辺にいてもらいたいそうです」
「ん。了ー解」
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