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新たな脅威
しおりを挟む「俺が先に斬り込むから、抜けてきた奴をラムがブロックしつつグノーがカバーして。ユニは何時も通りデバフともしもに備えて!」
怒涛の三連戦。
小鬼+αのジェットストリームアタックに辟易としながら、俺達は冷静に連携を重ねていた。
周囲には噎せ返るような血臭と死体がさながらバーゲンセール、否、文字通りの出血大サービスか。とにかく大量に転がっている。
二度目の大森林ルートでは目に見えるほど減少していた敵数が、幻であったかのようだ。
軈て最後の一体を刺し貫いたラムが、どかりとその場に座り込む。
「あ~。なんだってんだよ、この阿呆みてえな大軍はよ」
「ハァ……全く、だ……ハァ」
「どっかの馬鹿が巣穴にちょっかいかけただったらぜってーぶっ殺す」
「それかスタンピードの前触れだったりして」
スタンピードとは本来、大型動物の集団が、興奮や恐怖などのために突然同じ方向へ走り始める現象を指すが、この世界では何らかの要因によって動物ないし魔物が押し寄せる行動を指しているらしい。
滝汗を流す彼等に水袋と拭く物を差し入れた俺は苦笑いを浮かべながら、一人、討伐部位証明の回収に走る。
再びの強襲に備えて少しでも前衛達の疲労を回復させる為だ。相変わらず最低値のグロ耐性を発揮、もといゲロを堪えて切断に勤しむ。
これは魚これは魚これは魚。
脳内呪文と自己催眠にも励み、次の小鬼にナイフを突き立てる。
「ううう」
ゴムとは異なる弾力に鳥肌が鮫肌に進化を遂げる。改めて屠殺業者に感謝と畏敬の念を送ろう。
「ユニ、無理しなくていいからねー」
「だっ、大丈夫ー」
膝が笑っていて、どうみても大丈夫じゃない生まれたての子鹿だが、比較的疲労の少ない俺が動く事で彼等の負担が減るのだ。ただとんでもなく数が多くて本当泣きそうになるけども!
今の救いは、あの腰の痛みが漸く軽くなってくれた事だけ。治らなかったら絶対あの栄養ドリンク飲まされてた。
『良かったナ。飲まなくて済んデ』
『なにそのどぎつい飲み物……』
『栄養ドリンクダ』
『毒物の間違いではなく?』
『まあ材料が蝙蝠の幼虫、亀、熊、蛇、蜂蜜漬けの鼠を』
『なにそのほぼ滋養強壮に良さげなもの取り敢えずぶちこみました感』
『味もとんでもなく不味イ』
『寧ろ美味しかったら異常だよ。というかそんな物誰が飲むの?』
『大抵は瀕死の重傷を負った者に処方されル』
『それ三途の川へ背中押してない?』
『だがこれで何人も助かっているのは事実ダ』
『多分助かった人達、これで死にたくなくて気力振り絞った説を俺は推しとく。というかグノーはなんでそんな危険物携帯してるの』
『もしもの時の為だ』
『凄い。こんなにもしもが来なければいいと思ったの初めて!』
『そうだナ。聞いた話しだが、怪我をした同業が治らなかったらこれを飲ませると言ったら回復速度が異常に早まったらしイ』
『それもはや薬じゃなくて立派な脅しの道具じゃん!』
……うん。本当に軽くなってくれて良かった。
回収用の袋がはち切れんばかりに膨らんだ頃、息を整えたらしい三人が回収に加わる。
「うっし。後はお兄さん達がやっから、ユニは火の準備頼むわ」
「あ、うん」
「レオはユニを手伝ってくれや」
「了解」
ならレオと合流しないと、と足を踏み出した刹那、これまたにんまりとした笑顔のグノーが、自身の耳朶を指す。
「似合ってるぞ」
「ありがと。グノーもその大きなブレスレット、ラムと同じで良く似合ってるよ」
「ラムからの愛のプレゼントダ!」
「相変わらずラブラブだね」
「ユニとレオも最近良い雰囲気だナ」
「? そうなの?」
「おぉウ、こっちも自覚なしカ。いやこれはレオが悪いのカ?」
「なんかよく分かんないけど、そろそろ行くね」
「さっきグノーと何話してたの?」
「レオから貰ったピアス褒めてもらった」
「そっか」
歩き出す二人の耳に互いの色が煌めいていた。
「おんやぁ~、誰かと思えば疾風迅雷の皆さんじゃねえか」
俺達の目の前に、輝かしい頭皮と柄の悪さが特徴的な一団がいた。全員、揃いの鎧を着用しており、明らかに堅気でない雰囲気を放っている。
ただ何処かで見た覚えがあるな、と思考を巡らせると一団の一人、以前、昇級までの計算サンプルを貰った人物だと思い至る。
「……何の用だ、牙狼」
「そんなに怖え顔すんなよ。同業じゃねえか」
「君達は個人的にお近付きになりたくない同業だけどね」
「つれねえなぁ。なぁ、ユニちゃん」
リーダーと思しき一際上背のある男が俺を見る。
「お、そのピアス。ほぉ~」
「……なに?」
「いやいやいや。なーんでもねえよ」
玩具を前にどう甚振るか、そんな下衆さを滲ませた汚い笑顔だった。
「用が無いなら通してくれるか」
「おおっと。悪い悪い」
どうぞどうぞと一団が横にずれる。
何かするでもない、けれどその不気味な態度に急いでレオの後に続こうとした時――。
「ユニちゃん。レオとのこれに満足出来なかったら何時でも相手してやるぜぇ」
リーダーが、親指を人差し指と中指の間に挟んで嗤う。
「なっ!?」
「俺なら何時でも天国見せてやるぜ」
「巫山戯んな!」
「ユニ?」
「っ、なんでもない」
男達を睨みつけ、今度こそレオの後を追う。
「何かされた?」
「大丈夫」
「全く。昔から柄の悪い連中だよ」
「だね。……そういえばあの人達、前も問題起こしてなかったっけ?」
「そうそう。元々評判は良くなかったけど、俺達が一足先に昇格したのが面白くないって理由で前も邪魔されたりしたからね」
まあ彼等でなくとも、どの世界でも妬みや嫉みはよくある事だ。
「今回も邪魔されたら嫌だね」
「問題ないんじゃないかな。受付で堂々とこの先の洞窟に行く。邪魔したら殺すってがなってたし」
「あ、じゃあ大丈夫だね」
ファニージャ洞窟最深部。
強大なそれの前に男は膝を突く。
「なんだよ、なんだよ。お前!」
『喚くな。下等生物』
邪気に満ちたそれが、男を掴む。
男はあの牙狼のリーダーだ。
あれほどユニ達を馬鹿にしていた顔は苦痛に歪み、上等な鎧が砕け、手にした刃は真ん中で折れている。
彼の後方、地面では仲間達が地面に伏し、誰一人リーダーを救わんと動かない。だがそれも当然。
既に彼等は皆、事切れていた。
「ぐ、あ、はな……し、やが、れ」
『誰に指図している』
「ギャアアアアア!!」
それの指から発した黒い光線が、男の足を射貫く。
まるで方々に散った蚊を仕留めるかのように男の四肢を順に刺す。
木霊する絶叫。
『ふむ……もう鳴かぬか』
「う、あ、あ」
『人というのはつまらんな』
「た、す……け」
男の懇願に、それが薄気味悪く口角を吊り上げる。
『愚かな者よ。助かりたいか』
男が掠れた声で必死に頷く。
『では取引だ。我の言う通りにすれば“命”だけは助けてやる。どうだ?』
「なん、でも、しま……だか、ら」
『良かろう。契約成立だ。特別にその姿も我好みに“直して”やろう』
「な、にを……ぎ、あ、アアアアアア!!」
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