二度目の人生は、地雷BLゲーの当て馬らしい。

くすのき

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大森林ダンジョン、おかわり⑧

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 演劇のワンシーンじみた光景である。仲間の突然の奇行に、旧知であるレオ達ですら度肝を抜かれた。それからたっぷり三拍置き、誰かの息を飲む音が聞こえてくる。ただならぬ緊張感に空気が凍る。
 けれどそれを破ったのもオズだった。一頻り喉を鳴らし終えた後、鬱陶しげに前髪を掻き上げる。

「……ハァ。折角表に出てみりゃ、この俺様に汚ねぇもん見せやがってよぉ。舐めてんのか、なぁ。舐めてんだよなぁ!」
「君は」
「あ゛ぁ゛? うっせぇよ、眼帯執事野郎」
「能書きはいい。テメェもさっさと手伝え」
「俺様に命令すんじゃねえ!」
「いいからさっさと来イ」

 ロキ、ラム、グノーと続く。
 オズは一つ舌を打ち、剣を構える。型のない素人丸出しのものではなく、隙の無い普段の構えだ。
 彼の足が大地を蹴る。
 それはまさに神速が如く。目にもとまらぬそれが木の根を稲刈り後の姿に変えていく。

「ハッ。脆ぇ、脆すぎんぞ!」
「彼は一体……」
「呆けんのは後にしろ!」
「オズ! そのままレオに合流しロ!」
「だから俺様に命令すんじゃねえ!!」

 グノーの発言に対してがなりながらも、従う。いやその先に不快の元凶がいると察してだろう。あっという間にレオの隣に並んだオズは軽口を叩く。

「よぉ、珍しく苦戦してたみてぇじゃねえか」

 だがしかし肝心のレオは何も返さない。

「おい、無視するんじゃねえ、よっ!」

 オズの斬撃に合わせ、レオの二撃目が光る。二人の連携は完璧だ。口喧嘩、ほぼ一方的にだが、どちらかに危機が迫ればすかさずフォローに回り、相手を圧倒する。
 阿吽の呼吸。それ以外に二人を形容する言葉はない。
 十分もかからず、部屋の中央に到達する。もはや根は脅威ではなかった。
 その辺の雑草のように斬り払われ、二人の通った後には無残な刈り取り現場だけが残された。
 だが彼等は振り返る事は無い。
 そうこうする内に木の根の草叢を抜けた。

「ユニっ!……っ、」

 輝いたレオの表情が一瞬にして消える。

「うげっ」

 後に続いたオズが渋面を作った。
 それもその筈。
 彼等の前に居たのは犯し尽くし、塵のように床に放られた全裸の桃髪少年と、下半身を露わにしたまま気絶しているユニ、その彼を仰向けのまま挿入し、夢中で律動するエビルトレントだった。

「き、貴様ァアアアア!」

 エビルトレントの首が宙を舞う。
 数秒遅れて舞ったそれが、ごとりと床に転がる。そして残された胴体は血が噴き出すわけでもなく、切断の衝撃に抽挿が止まり、ぐらりと揺れる。
 そこへ鈍色の冷たい輝きが突き刺された。
 一度、二度、何度も何度も。
 その木の身体を刺し貫く。

「は?……いや、ちょっと待て!」

 尋常でないレオに圧倒されたオズが、彼の肩を掴む。だが直ぐにその手は停止した。
 同郷の、割と穏やかな彼の新たな一面を直視してしまったからだ。
 ぞっとするほどの黒い空気を纏い、一心不乱に刺し貫く様は、異様の一言に尽きた。
 怯んでしまった苛立ちか、はたまた面倒臭さか。舌打ちしたオズは再度、同郷の肩を揺らす。

「その辺にしとけや。ソイツ、怪我すんじゃねーの」
「!? そうだ、ユニ!」

 その言葉に平静を取り戻したレオは剣から手を離し、ユニへと駆け寄った。
 急いでエビルトレントを引き剥がし、彼の名前を呼ぶ。

「ユニ、ユニっ! しっかりして!」

 ぺちぺちと頬を叩くこと暫し、ユニの茶色い目が薄く開いた。

「れ……お?」
「そうだよ。俺だよ」
「ない、てるの?」

 頬に熱い水を感じ、ユニの手が弱々しくレオの頬に触れる。

「……ごめん。ごめん。ユニ」
「だい、じょぶ。だいじょぶだよ」

 ぼんやりとした笑顔に、レオはその身体をかき抱いた。彼の嗚咽がその場にいた者の心を刺激する。

「……チッ。こっちは、まあ生きてはいるな」

 張り合う気にもなれなかったのか、オズは桃髪少年の具合を確認した後、ラム達のいる方向へ振り返る。
 あれだけ伸びていた木の根は、もう影も形もなかった。

「おらっ。さっさと来やがれ、のろま共」
「うるせえ! 今行くから待ってろ! それとユニは無事か!?」
「生きてはいっぞ」
「はぁ!?」

 どういう事だと、顔を見合わせたラムとグノーが小走りで駆け寄ってくる。
 その遥か後方――。
 一人離れた場で得物を仕舞ったロキが、彼等とは別の方向へ首を動かす。



「……ふむ。どうやら調査部隊は全滅したようですね」
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