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大森林ダンジョン、おかわり⑥
しおりを挟む「ユニ、どうかしたカ?」
「え、あ、ううん。何でもない」
「? そろそろ行くゾ」
「今行く」
思考を切り替え、皆の後を追う。
隊列はさっきと同じ並びだ。
相変わらず腰の疲労は取れないけれど、レオと和解した今は心に加え、少しだけ足取りも軽くなっていた。
行進後暫し、横からの視線を感じて振り向くと、微笑したグノーと目が合った。
続けて厚く広い手がフードを取った俺の頭を撫でる。普段は豪快な手つきなのに、今は子を慈しむように柔らかい。
「良かったナ」
レオとの事を指しているのだろう。
頷いて子供扱いを享受する。
紫としての年齢はほぼほぼ彼と変わらないくらいだが、色々あった今はそれがとても心地良かった。
「グノーって年の離れたお兄さんみたい」
「そこはお母さんだろウ」
「何それ」
小さく喉を震わせると、撫でを止めた彼が話題を変える。
「話しは変わるが、さっきの問題について訊いてもいいカ」
「いいけど何か気になる事でもあったの?」
「いヤ。報告では問題が変化していたとのことだったが、ユニから見てどうだっタ」
「確かに変わったといえば変わったかな。けど……」
「けド?」
「根っこ、ルールは変化なしの難易度上昇って方が多分あってるかも。確証はないけど次、ううん。全部そうかもしれない」
「……解けそうカ」
「多分問題ないかな」
紫時代に無料アプリケーションで鍛えた腕に支障はない、筈だ。多分。
「それは頼もしいナ。しかしユニにそんな才能があったなんて知らなかったゾ」
ぎくりと身を縮める。
「実は俺も吃驚してる」
「そのキメ顔はやめロ。可愛くない」
「キメ顔って普通可愛くないよ」
「まあ昔からユニは頭は良かったからナ」
「その言い方だと他は駄目みたいに聞こえるんだけど」
「なんダ、拗ねたカ」
「わわッ!」
今度は、ぐしゃぐしゃと容赦のない何時もの撫で方だった。
「着いたぞ。ユニ、グノー。じゃれ合いはその辺にしとけ。そろそろオレも妬くぞ」
「ラム……!」
「大丈夫。グノーは取らないから」
突如始まった二人劇場に苦笑いを浮かべ、横を通り過ぎる。そして二問目同様、傍にレオがつき、問題盤の前で立ち止まった。
「……うわぁ」
「ユニ?」
「ごめん。最初に言うね。これすっごい時間かかる」
目の前にあったのは、ミルクパズル。
別名、地獄パズル。
一般的な絵柄をヒントに完成へ向けて組み上げていくものに比べ、そのヒントがまるでない難易度が桁外れのものだ。
他の面々に動揺が走る。
出来れば俺もそっち側でいたかった。
「そんなに難しいのかい!?」
「それ+面っっっ倒臭い! 俺が一回目に解いたのは絵柄があったけどこれは何もないの。真っ白。四隅以外ほぼノーヒント」
「最悪じゃねえか!」
全員の心と顔が一致するなんて多分この時をおいて他にないだろう。
「じゃあ全員で」
「絶対止めて」
「ならどうしろってんだよ」
「大人しく……あ、やっぱりちょっとだけ手伝って」
俺はバラバラなピースの中から見本となる八種類を取り出して床に並べる。
一つは、四隅の二辺直線四つ。
一つは、四辺出っ張り。
一つは、三辺出っ張りの一辺凹み。
一つは、二辺出っ張りの二辺凹み。
一つは、一辺出っ張りの三辺凹み。
一つは、四辺全部凹み。
その中で二辺出っ張りの二辺凹みのあるピースは隣合っている辺が出っ張っているものと、上下もしくは左右出っ張りのピースと分けていく。
後は、四本の紐を用いて作成した簡易額を床に敷いて準備は完成。
「これが見本だから似た形のピースを纏めてくれると助かる」
「そのくらいは構わねえが、それでどのくらい短縮できる」
「うんとね……多分100ピースはあるから早くて一時間、長くて三時間かも」
「マジかよ」
「でもまだ良い方だよ。この数がもっと多かったら一日じゃ多分きかないと思う」
うへぇ、とラムが顔を顰める。
それでもやらなければ終わらない。
全員でピースを八つに分類し、見やすいように重ならないよう並べていく。
そしていざと意気込んだその時、ロキが自分がやってもいいかと申し出た。
「恐らくですが彼がやるより早いですよ」
「貴男が、ですか?」
温和なレオの双眼が鋭く細められる。
「正直、俺は貴男を信用出来ない」
「オレもレオに賛成だ」
「オレもダ」
ラムとグノーも続く。
まあ先の失態を見れば、彼等の中のロキの評価はマイナスに近いのだろう。
唯一、星夜だけが「えええ」と困惑を露わにしている。
「そうですか。貴方も反対ですか?」
「っ、」
ロキの感情のない赤い隻眼が、じっと俺を見据える。直ぐにレオが庇うように射線を塞いでくれるが、一度恐怖を覚えた肉体は否応なく硬直する。
「そうですか。名誉挽回になればと思ったのですか」
「貴様っ!」
「れ、レオ。一回やらせてあげれば」
俺の発言に三人が信じられないと言わんげに此方を見る。
「ユニ……」
「駄目そうなら直ぐ俺が変わるから、ね?」
「……解った」
「では私がしても宜しいと」
「その前に」
剣を抜いたレオが、その鋒をロキに突きつける。
「もしまた何かあればその時は容赦なく貴男を斬る」
「肝に銘じましょう。では三十分ほどで片をつけます」
そう言うと、彼は簡易枠にピースを並べるでもなく、ただただ床のそれを見つめた。
体感にして約十分。
既に三分の一を使い切った彼に、ラムが呆れた声を出した。
「大口叩いといてあの様かよ。ユニ、悪いが頼むわ」
「あ、うん……え!?」
変わろうと足を踏み出した刹那、ずっと微動だにしなかったロキが、遂にピースを拾った。そして驚くべき速度で簡易額でない方にそれを填め込んでいった。
その姿に一切の迷いはない。まるで録画した番組を早送りしているかのようにあっという間に額の半分が埋まっていく。
「……ふぅ。二十分、余りましたね」
懐から出した懐中時計を一瞥し、彼が言う。
「嘘だろ」
「こういったものは得意なので。どうでしょう。挽回出来ましたでしょうか」
「出来る訳がないだロ」
「それは残念」
「っ、」
再度向けられた深紅にまた恐怖を覚え、俺はレオの後ろへ隠れる。
「ユニ?」
「何でもない」
「取り敢えず解けた事だし進むぞ」
その後、お絵かきロジックと迷路、間違い探しと続いたが、ミルクパズルほど難しくはなかった。大した手間もなく最後の間違い探しのある空間にて、最後のスイッチを押すと、あの死んだ貝のように閉じた大扉が轟音を響かせて、その口を開ける。
「全員、油断しないように」
「おう」
全員が得物を構え、警戒する。
またあのオーブからエビルトレントが出現する。脳内に男性器を模した気味の悪い木製人形が掠め、冷たい手が背中を撫でた。
それでも覚悟を決め、真っ直ぐ前を見据えた次の瞬間――。
「は……ぁ……んァ……や……ぁあ……あ、ん」
「…………は?」
ボス部屋中央。
やや薄暗い空間にて、此方に背を向けた状態の桃色髪の少年がエビルトレントの上に跨がり、尻をガン突きされていた。
ちょっと予想だに出来ない光景に全員が一瞬思考停止に追い込まれる。
腰の動きを止めることなく、エビルトレントが俺達を視る。
「あつっ!」
急に俺の手に刻まれた凹マークが熱を持つ。そのあまりの熱さに杖を手放すと、何処からともなく伸びた木の根が俺を捉え、中へと引き摺りこんだ。
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