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大森林ダンジョン、おかわり④
しおりを挟む鈍い音が鳴り、床に六つ並んだ魔法陣が淡く光る。直後、その上に分断されていた六人が現れ出でる。
場所は最初の問題があった三叉路だ。
即座に状況把握に務めたレオが、此方に気付き、声を飛ばす。
「ユニっ!」
「っ、近付かないで!」
彼を制し、近付いた分、後ろに下がる。
怖くて顔は見れない。俺はフードを目深に被って、胸の前で杖を強く握り締める。
失望、落胆、軽蔑。彼に、皆の瞳に自分がどう映るのか。それを知るのが怖い。
「え、どうしたの」
「ごめん。いま、俺、汚いから」
「何を言って……!!」
伸ばしたレオの手が、ぴたりと止まる。
俺達から香るイカ臭い、もとい栗の花の匂いに気付いたからだ。
目を伏せていると、正面に人の気配を感じて身を縮こませた次の瞬間――。
「大丈夫ダ」
「へ」
グノーが俺を抱き締めた。
「っ、離して。俺は」
「問題なイ。ユニは何処も汚れていないゾ」
幼子をあやすように大きな手が、背中をとんとんと叩く。そのあまりの心地良さに安心した目が見る見るうちに水の膜を張る。
「う~……」
「よしよシ」
「グノー。おれ、おれぇ」
「分かってル。分かってるゾ」
左目からの落涙を切っ掛けに、遂に眼輪筋のダムが決壊した。ぼろぼろと泣き始める俺をグノーは黙ってあやしてくれる。
一方でラムが他の面々に呼びかける。
「テメェ等はちょっとこっち来い」
そう言って四つの足音がその場から遠離った。方向と音の止まり具合から恐らく通路側で歩みを止めたのだろう。
「……身体は大丈夫カ?」
「ぐすっ、少し怠く、て腰が、痛い」
「軟膏ハ?」
「塗っだぁ」
「偉いゾ」
すんすんと鼻を鳴らし続けること五分。
漸く涙も収まり、代わりに目の下が腫れた頃、ラム達の消えた通路側からバキッと何かを殴るような音が聞こえてきた。
次いで切羽詰まった声色のラムがレオの名を呼ぶ。
「止めろ、レオ!」
「離せ! コイツは、コイツだけは殺す!!」
「気持ちは判る。判るが今はよせ!」
「……ユニは少し此処にいロ」
ただ事でないと察したグノーも通路側へ移動する。そして一人取り残される俺。
「(一体何があったんだろ)」
見える位置まで歩く。
すると――。
「ぶっ殺ス」
「待て待て待て。おい、オズ! んなとこで何時までも土下座してねえで、コイツ等止めるの手伝え!」
斬りかかりそうなレオとグノー両名を必死に阻むラムと、床にて土下座ならぬ土下寝の星夜に、左頬を赤く腫らしたロキ、という極めて穏やかでない構図が広がっていた。
何がどうしてそうなったのか理解に苦しんでいると、レオの目が此方を向いた。
見たことのない鬼の如き形相が一転、酷く傷付いたものに変化する。
「っ、」
瞬間、俺の中のユニの部分が、キリキリと胸を締めつける。
直視出来ず、思わず視線を逸らすと彼等の方から、パンッと乾いた音がした。
ラムだ。
「そこまでだ。全員、色々と腑に落ちねえ事や腸が煮えくりかえってるだろうが、今は依頼の最中だ。よって仕事が片ぁ付くまでは、全員抱えたもんは胸に秘めろ。いいな!」
「だが、ラム!」
「だがもしかしもねぇ!」
異論は認めんという強い圧に、全員が黙りこくる。それが正論だと誰もが理解している。けれどそれを切り替えるには、時間が足りないのもまた事実だった。
なのでその背中を押すべく、俺はほんのしるしだけ微笑んだ。
「進もう。あ、さっきの答えは真ん中だよ。一回目の時はその先に二叉の行き止まりがあって数字を当て嵌めるパズルだったよ」
「……ユニ」
「良し。じゃあ隊列は此処に来る時と同じ横二列でいいか、リーダー?」
「そう、だね」
そう言うと皆、ぎこちないながらも隊列を組み始める。そして真ん中の道を通る際、隣の星夜が申し訳なさそうに小さく話し掛けてくる。
「あの、ユニ君。あの場所では」
「止めて」
「けど」
「お願いだから。今は誰にも触れて欲しくないし、思い出したくもないんだよ」
「……ごめん」
杖を握る手が痛い。
それを見ていてくれたのか、グノーがレオを呼び止める。
「オレとオズの場所を変えていいカ」
「……解った。他も何かあったら遠慮せずに言ってくれ」
「了解ダ。悪いな、オズ」
「あ、いや」
問答無用でオズと交代したグノーが、にかりと笑う。
「宜しくナ」
「……ありがと、グノー」
「いや、オレもラムに叱られて少し顔を合わせ辛いだけダ」
「……そっか」
とても優しい嘘だ。
彼は然り気無く歩幅を落とし、手を繋いで俺を引っ張る。
「俺が女なら間違いなく今のでグノーに惚れてたかも」
「すまない。オレは一生ラム一筋ダ」
「ふふっ。知ってる」
少しだけ心が軽くなっていった矢先、ラムがレオに向けて檄を飛ばす。
「レオ。よそ見してっと危ねえぞ」
「っ、解ってるよ」
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