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大森林ダンジョン、おかわり②
しおりを挟む目的地までは前回と同じ道のりだ。
皇都ナタールからヒューリ村の間で一泊、ヒューリ村で一泊。更に大森林へ向かう行商ルートの中間にて一泊という、計三泊四日の冒険ツアーである。
新たに支部長の腹心、執事服の剣士ロキを仲間に加えた一行は、あれから常時戦闘中のような殺伐とした空気の中、歩いていた。
時折、ひゅうと心地好い風が吹き抜ける。
前回、椀子蕎麦じみた襲撃を受けた道中が、今回はそれが嘘のように平和なものとなっていた。もちろん奴等が全く姿を見せないわけではなかったが、俺の両手両足で事足りる襲撃数は非常に楽だった。
ではそんな天国で何故殺伐とした空気になるのか。答えは二つ。
一つは魔物による罠の警戒と、残りは人間関係。レオとロキの不仲だ。
もっとも不仲と言ってもレオによる一方的なもので、ロキ本人はまるで歯牙にもかけていない様子だったが。
まあそんな経緯もあり、平和でありながら何処か危うい均衡を保って到着したダンジョンでは何時もより疲労が強かった。
全員が内部に侵入し、緊張を解くべく首の筋肉を回していると、一度目同様、入り口が封鎖され、あの怪しい照明が辺りを照らす。
うん、何度見ても不気味だ。
次いでラムが若干硬い声を出す。
「話にゃ聞いてだが、実際目にすっと不気味の一言に尽きるぜ」
「そうだナ」
「うわぁ、まるでラピュ、いっつ!」
早速ボロを出しかけた星夜の腕を抓んで、俺は満面の笑みで圧をかける。
「どうした、オズ! もしかして記憶が戻ったか?」
「え、あ、すまない。石を踏んだだけだ」
「紛らわしいゾ」
「グノー。けど同じ体験をすると記憶が戻るかもしれないと医者が言っていたし、もしかしたらあり得るかもしれないよ」
「だといい、かな」
談笑中の彼等から目線をずらし、念の為、前回との相違点の捜索をしていると、同じく索敵していたらしいロキと視線が交じる。
赤い、血よりも紅い血赤珊瑚。
彼はその隻眼を揺らし、能面にも似た笑みを作ってみせる。
瞬間、俺の口の中の水分がみるみる蒸発し、喉が少し痛み出す。
「……二、ユニ!」
「あ、レオ」
どれくらい、ぼうっとしていたのか。
身体ごと揺らされた衝撃で我に返る。
見ればもうロキは此方に背を向けていた。
「どうしたの」
「あ、ううん。なんでもない」
「本当か。少し顔が青いじゃねえか」
「っ、大丈夫!」
何でもないとしつつ、前回との違いを探していたのだと告げた。
「何かあったのカ」
「ううん。今の所は何も。ここを道なりに少し行くと三叉路と看板が出てくる筈だよ。前回はずっと魔物は出てこなかったけど今回はちょっと分かんない」
「ざっと見た限り、気配はないようですよ」
少し離れていたロキが合流する。
「そんな事も分かんのか」
「大体はですがね。どうします、進みますか、リーダー」
「決まっているよ。隊列は同じ。皆、何が起こるか解らないから警戒は怠らないように」
「了解」
前衛にレオとロキ、中衛にグノーとラム、後衛に俺と星夜。横に列に並び、遺跡の中を進む。当然ながら会話はない。
「あ、見えてきましたね」
言葉通り、三叉路と看板が現れた。
見ればやはりあの子供の絵。怒り狂った悪魔と、それに向けて?のついた樽を差し出す人々の三択だ。だが若干前回と異なっており、解放状態だった三叉路はシャッターらしきもので奥を閉ざし、代わりにそれぞれその真ん中にピンポンブザーのような突起ボタンを填め込んでいた。
「なんだこりゃ」
「ユニ君、これが問題なの?」
「そう。けど前回はこんな感じじゃなかったんだけど」
「どう違うんダ」
「前はあんなボタンも閉じてもなかったの。多分正解を押すと開く仕組みなのかなって思うけど」
「問題に違いはある?」
「……ない。全く同じ」
「とすると、これは変化するダンジョンという事ですか」
表情変わらず、されど弾んだ声のロキが左端の扉に寄っていく。
「ふむ、既存の金属ではないですね。此方のボタンもロストテクノロジーの類か、はたまたこのダンジョン自体が魔物で擬態しているのか。実に興味深いですね」
「あの、あまり勝手に触らない方が」
忠告したその時だった。
突然、激しい横揺れが俺達を襲った。真っ直ぐ立っていられない程の強い揺れだ。
俺は、俺達は直ぐさまその場にしゃがみ、軈てカチッという何かを押す音が鼓膜に届く。同時に「あ」というロキの声。
「おまっ、なにして、!?」
ラムの声に顔を見上げた瞬間、俺は大きく目を見開く。先程左端、ビール絵の扉の前にいたロキの手が、あのピンポンブザーを押していた。
そして揺れが納まるのと同じタイミングで、俺達全員の足元に魔法陣が浮かび上がり、閃光弾に近い光が俺達を包んだ。
「っ、なに。……ここ何処だよ」
気が付くと俺は別の場所にいた。
強烈な目潰しを喰らい、未だぼやける視界を擦りつけていると人の気配を感じた。
「そこに誰か居るの?」
「ユニ君!? その声はユニ君だよね。俺、俺だよ!」
「私もいます」
声は星夜とロキの二つのみで、後に続くものはない。恐らくレオ達とは分断されたのだろう。ややあって明瞭となった視界で探してみても彼等の姿はなかった。
あるのは出入口のない二十畳ほどのがらんどうな空間に俺達三人だけ。
面倒な事になった。
小さく舌打ちした直後、突如、右手の甲中心に鋭い痛みが走る。まるで熱した棒を押し当てられたような痛みだ。だがそれもものの数秒で、ぱたりと消え去る。
「ユニ君、どうしたの。手? 手が痛いの」
「待て、安易に触らない方がいい。しかしこれは」
駆け寄ってきた二人、ロキが口籠もる。
一体何だと見てみると凹凸の凹らしきマークがそこにあった。
指で消そうと試みるが、皮膚が揺れるだけで変化はない。
「くっそ。消えねえ」
「ユニさん、身体に異常は?」
「いえ、今の所特には。……すみません、ロキさん。一発ぶん殴っていいですかね?」
満面の笑みで問う俺に、ロキが唇を動かそうとした刹那、右側からラムの声がした。
『いつつ、何だよここは』
直ぐさま振り向くと、さっきまで白壁だったところに驚きの映像が映し出されていた。
別の空間にいるレオ達の姿だった。
まるでホームプロジェクター越しの生中継のように、映像の中の彼等が声をあげる。
『ラム!? 無事カ!』
『オレは無事だ。クソッ、目がぼやけてよく見えねえ』
『他に誰かいるかい! ユニとオズはいる?』
「此処、此処にいるよ!」
「此方の声は届いていないようですね」
『クソッ。分断されちまったか』
『兎に角、出口を探そう』
そう三人が立ち上がった途端、それが鍵であったかのように映像の中から照明ボタンを押すような音がした。
次いで何か重い物が動く音が鳴る。
映像の中のグノーが上を見上げた。
『二人とモ。天井が!?』
『降りてきてやがる。レオ、出口は』
『駄目だ。何処にも見当たらない』
『そんな訳あるか。どっかに仕掛けがある筈だ。全員で探すぞ!』
三人が手分けして部屋を捜索するが、落下を防ぐような仕掛けは見当たらない。
このままでは三人が押し潰されて死んでしまう。唇が戦慄き、凄まじい速度で血の気が引いていく。
「そんな……」
「あのままでは圧死ですね」
「お前っ!」
星夜がロキの胸倉を掴みかかる。
「解ってんのか。ああなったのはお前のせいだぞ!」
そんな時だった。
ブンっという稼働音が鳴り、正面にまた新たな映像が映し出される。
だが今度は別の場所の中継ではなく、絵だった。あの子供が描いたような拙い絵だ。
「これは」
「なっ、」
俺は大きく目を見開き、星夜は絶句した。
そこにあったのは、レオ達の救出方法だ。けれどその内容がとんでもなかった。
「まぐわいの絵ですね」
顔に熱が集中する。
そう。ロキの言う通り、絵は三人の男性がセックスするというものだった。
二人の内一人が碁盤攻めのような体位で凹マークのある男性に挿入し、残った一人は支え兼イラマチオで凹に奉仕してもらうもの。
そして相手を入れ替えた後は、立ちバックと手コキだった。
「(俺に此奴らとヤれと!?)」
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