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無意識の刃は意外と攻撃力が高い。
しおりを挟む「! 何があった!?」
此方を視認して一秒、買い物終わりのレオが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「オズっ!……いや、二人とも誰にやられたんだ?」
「「は?」」
俺と星夜の声が綺麗にハモる。
ついでに涙も引っ込んだ。
遅れて、俺は自分達の状況を客観視する。
涙目でオズの手を引く俺と、僅かにオロオロと心配そうなオズ。
つまりレオの思考はこうだ。
俺と目が合う→犯人はオズか?→いやコイツも可笑しい→残る可能性は誰かに襲われた。そうだ、そうに違いない!
……の流れに落ち着いた。
心の中で『あ~……』と叫ぶ。
「大丈夫。俺達、誰にもやられてないから。そうだよな?」
「あっ、うん」
「……本当に?」
赤べこの頭のような緩いヘッドバンキングを繰り返す俺達に暫し疑いの眼差しを送っていたレオは釈然としないながらも、小さく肩を落とす。
「ならどうして泣いてたの?」
「うっ……それは言いたくない」
「そ、そっか。じゃあ何で手を繋いで」
「これはちょっと、まぁ理由があって。これからコイツの宿まで」
「…………は?」
「ひっ!」
レオから放たれた闘気に全身が、ぞわりと震える。まるで闘牛を前にしたような、心なしか周囲の温度が低下しているようだ。
何処にレオの気に障る要素があったのか。脳内疑問符が社交ダンスを踊る中、突如、天啓が降り注ぐ。
「違うよ! 断じて、断じてレオが想像しているような事はないからね! そうだよな。せ、じゃなくてオズ!」
「え、あ、うん?」
「いや、どっち?」
「ないです!」
俺達は赤べこからロックコンサートの観客に進化した。いや片方は本職なのだが、今はどうでもいいか。
「じゃあ何で宿に? 二人はそんなに仲良くなかったよね?」
「コイツに道案内頼まれて仕方なくだよ」
「え。俺、地図渡したよね?」
「それは」
「駄目だったんだって。んで唯一居場所の割れてる俺にお鉢が回ったって感じ」
「なるほど。ならそれが終わればまた支部に?」
「そのつもりだよ。レオは買い物途中?」
「さっきまでね。そうだ、俺も一緒に行っていい? 分かりにくい地図書いちゃったお詫びがしたいんだ」
他意のない申し出に二の句が継げない。
屑元彼と元恋人の声の仲間と三人。
極力思い出さないようにしていた、後追い自殺したアイツの顔がチラつく。
居心地の悪さに眉を下げると、レオが大型犬のような首を傾げる仕草をする。
「やっぱり駄目、かな?」
「っ、俺は構わないけど」
「俺も大丈夫です」
「じゃあ決まりだね」
「あ!」
然り気無く俺の反対隣に並んだレオに、俺は手を離し、レオの耳元へ近付いて小声で話し掛ける。
「せ、オズがさ、水溜まりを忌避してるみたいなんだけど昔何かあったりした?」
「オズが? いや、俺の知る限りでは無いと思うけど、俺も全部把握してる訳じゃないからなぁ」
「そっか。案内は少しゆっくり歩いてあげて」
「了解」
「二人ともどうしたんだい? アイタッ!」
脳天気な星夜に腹が立ち、軽く足を踏みつける。こっちは整合性を崩さないよう嫌いなお前の為に先んじて動いてやってんだよ、と声を大にしてブチ切れたい。レオが居るから絶対に出来ないけども。
「ユニ君、痛いよ」
「ユニ、暴力は駄目だよ」
「う……はい」
レオがゴールデンレトリーバーで、星夜がアメリカンフォックスハウンドに空目するとか、いよいよもって頭がヤバい。
脚を退けて離していた手を仕方なく繋ぎ直すと、何故かレオが複雑そうな顔を見せるが、襤褸を出させない為に率先しなくてはならない俺の方が複雑だ。
だが突っ込むのも面倒臭いのでそのまま三人並んで歩く。
「あ、ユニ。この後新しいスキル試すんだよね。それ、俺も見に行ってもいい? 今後の戦術の為に一度どんなものか知っておきたいんだ」
「そういう事なら別に」
「無理言ってごめんね。あ、もうすぐ三つ目の十字路に差し掛かるよ」
「了解。……あのさ、こんな時になんなんだけど、ラムさんとグノーさんはそういう関係なんだよね。もしかして二人も」
「違うよ」
「――あぁ。俺とユニは、仲間だよ」
何故か少しレオの声に元気がない。
もしかして俺が知らない間に周りからそう思われていたり、揶揄われて実は不快な気持ちになっていたのかもしれない。
前のユニには悪いが、ここは強く否定しておこう。
「そうそう。俺とレオが恋人同士なんて絶対にありえないよ」
「……っ」
「そ、そうなんだ」
「?」
今度は星夜の顔が引き攣った。
何がいけなかったのだろうか。
考え倦ねる事十五分、正解に辿り着く事無く、オズの定宿、獅子の咆哮亭に到着する。
見た目は、俺達の朝のグリル亭以上に趣深い建物だ。現代日本でも中々お目にかかれないボロさ具合である。
「案内終わりだね」
「あ、うん。ありがとう、助かったよ」
「支部へは夕方集合だから、遅れないようにね」
「……お節介かもしれないけど此処から安い飯屋とか道具屋近辺の地図書いてやるよ」
「いいのかい!?」
「少し待ってて。あっ!」
荷の中を漁って切れ端を取ろうとしたら、何かに引っ掛かって何枚かが地面に落ちる。
「うわぁ、濡れちゃう濡れちゃう!――あれ、これ?」
レオ同様、素早く拾い上げた星夜が、用紙を見て首を捻る。
「どうかした、オズ?」
「いや、これ何処かで見たような」
「!?」
見れば、それは俺が情報整理に用いた日本語版続け字の、あのメモ書きだった。
慌てて引っ手繰って鞄に戻す。
「勝手に見ないで!」
「あっ、ごめん」
「ユニ。拾ってくれたのにその態度は良くないよ」
「……ごめん」
「あぁ、いいよ、レオ君。今のは勝手に見た俺が悪いんだ。あ、中身は達筆すぎて全然読めなかったから安心して」
「っ、」
付き合ってる時は、汚くて読めねぇって茶化してたくせに。
俺は、ぐっと唇を噛み締め、在庫のメモにちょっと大まかな手書きの地図を書き殴る。
「はい。大まかで悪いけど」
「いやいやいや。全然。分かりやすいよ」
「じゃあ、俺達は支部に戻るよ」
「あぁ、気を付けて」
顔を合わせることなく踵を返した俺を、レオが追いかけてくる。
そしてそれを見送る星夜。
「……あの紙の字。何処かで見た事あるような気がしたけど。うん、気のせいかな?」
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