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夜のお話し

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 そも支部職員というのは、喩えるなら地方公務員のようなものである。
 紫時代の記憶には確か心理・福祉・技術といった専門的な領域を担当する“専門職”で、国と基礎自治体、企業、民間団体など調整をしたり、基礎自治体の職員の皆さんが円滑に遂行できるよう気配りする人……だった。
 まあざっくばらんに言うと沢山の人を繋ぐ架け橋、雑務処理担当者だ。
 彼方では地方公務員試験なる物に合格して晴れて名乗れるようになるが、この世界の支部職員は縁故による登用か、スカウト、あとはラムの言通り銀等級自ら売り込むの三択しかない。上記二つは俺に縁遠いので、残る選択肢は銀等級になって自ら売り込むだけ。
 ではなぜ銀等級でなければならないのか。
 これにはラム曰く幾つかの理由があった。

 一つは冒険者制圧のため。
 冒険者は基本荒くれ者の集団だ。問題を起こした際、彼等を取り押さえて罰するのは支部の役目であるから。
 二つ目は調査のため。
 突発的な起こったダンジョンや外での不測の事態に対して捜査を行う際、支部職員が調査に赴く決まりだから。
 最後は素行。
 元々、銀等級冒険者というのはそう簡単になれるものではない。継続的な依頼消化、顧客とのトラブルや心証なども鑑みている。
 まあ要は職務上取り繕える素養があるか、という点なのだ。
 現在の俺は、黒鉄級。
 正直なところ昇級しても後衛職は、ハンデになるかもしれないが、書類仕事であれば紫時代の経験とスキルを駆使して食らいつく自信はある。

 よし、と心に決めたのと同じタイミングで焚き火の燃料が爆ぜ、火の粉が宙を舞う。
 気付けば辺りは朱から黒に変わっていた。
 火の周りを囲んでいた仲間達はテントに姿を消し、今は見張り兼、食器を片す俺とグノーしかいない。

「どうかしたカ?」
「え」
「手が止まってるゾ。悩み事カ」
「あ~……ちょっとね」

 ふと仰いだ夜空は墨を溶かしたように黒く、それでいてところどころライトを照らしたような点々光が煌めいていた。
 大気汚染のない、綺麗な夜空。
 俺になる前のユニには当たり前の見慣れた光景だが、俺はこの絵が好きだった。

「さっきラムが銀等級の事言及してたでしょ。それで俺が昇級するには時間かかりそうだなって思っただけ」
「後衛の辛いところダ」
「前か後ろかってだけで昇級時期が全く違うは個人的に少し納得がいかないんだよね」
「確かに考えものダ」

 同パーティで同じ依頼を熟しても前衛か後衛かで昇級のタイミングは全く異なる。
 白磁から黒鉄に上がるときもレオ達は約二ヶ月、俺だけ三ヶ月半かかった。
 別段、支部が前衛だけを優遇し、後衛を蔑ろにしている訳ではないのだが、評価基準が違うのか結果としてそう見えてしまうのだ。

「まあ超大型の魔物を屠って一足飛びに等級を上げたパーティもいたから、オレ達もそれくらいやれバ」
「嫌だよ。そんなデットオアアライブ。そんなのやるくらいなら昇級までの必要数値割り出して安全な最短ルート導き出すわ!」
「そんな事が出来るのカ?」
「多くのデータと必要な計算式さえ知ってたら大体は絞り込めるよ」
「よく分からんが解ると助かるナ。俺達はどのくらいで上がるんダ?」
「今は無理だよ。街に戻ってデータを集めないと」
「そうカ……判明したら教えてくレ」
「りょーかい」

 最後の一枚を拭き終え、荷の中に戻していると、グノーが切なげに息をつく。

「どうかしたの?」
「いや。この依頼中はラムとあまりヤれそうになくて残念だと思ってナ」
「あ、うん」
「なんだその顔ハ」
「いや、なんていうか。二人って、ほんと性欲強い方なんだね」
「逆に何故ヤりたくなイ?」
「待って。こっちが可笑しいみたいに見るのやめよう」
「ユニはレオとヤりたくならないのカ?」
「何故そこでレオを出すかな!?」

 いや、まあね。人間、特に男性は死と隣り合わせの状況に陥った際、子孫を残そうと性ホルモンが分泌されるから発情するのは百歩譲って認める。
 だがそれで俺とレオがヤるのは別物だ。

「? ユニはレオが好きなんだろウ」
「……好きだからって直ぐ体を繋げる人ばかりじゃないよ」
「そういうものカ?」
「そういう人もいるんだよ。てか前から気にはなってたんだけど、そんな高スパンでグノーのお尻は大丈夫なの?」

 医療レベルの低いこの世界で肛門括約筋が伸びたら割と冒険者としても人としても死活問題ではなかろうか。首を捻る俺に彼は腰の入れ物から二つの瓶を取り出して見せる。
 一つは馴染み深い緑の液体回復薬と、もう片方は粘度のある桃色の液体が入った瓶だ。

「緑は兎も角として、桃色のは何?」
「性交渉用のスライムダ。これをアナルに入れると腸を綺麗にするだけでなく、ローションの代わりも果たス。使用後のスライムは肥料として売れるから安易に捨てない方が良イ。回復薬はセックス後に使う。穴に入れるかかけると緩んだ筋も戻してくれる」
「アッ、ウン。ソウナンダ」

 恐らく俺は今、チベットスナギツネのような顔をしているのだと思う。

「――えっと、ご教授有難う?」
「スライムは記念にやル。レオとのセックスで使うといイ」
「いや、要らないし使わないよ」
「次回、購入するなら道具屋ロイかミザリーにしロ。彼処は品が良い上に値段も手頃ダ」
「グノー、話しはちゃんと聞こう。でもその情報は、まあまあ有難う」

 押しつけられたスライムが瓶の中で、ちゃぽんと揺れた。
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