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冒険者は割とブラック。
しおりを挟むぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。
軟体魔法生物――所謂スライム――を杖で潰しながら、俺はその中にある小石大の魔核を取り出した。なんでもこの魔核を磨り潰して成形前の煉瓦など建築資材に加えると耐久性を上げるアイテムなのだそうだ。支部に提出すると一個あたり五ルピーで買い取りしてくれる非常に塩っぱい素材だが、塵も積もれば何とやら。外で遭遇する度、こうして俺いや俺達は収穫している。
まあ、つまり何が言いたいか。
昨日の休みを散策で潰した俺は今、仲間達と共に街の外に出ています。そも冒険者は基本、外に働きに出て街に戻れるのは月に数回という職種なのだ。
街を家に変換したらとんでもない通報案件だが、現代であればなんとかスマホやPCで履歴書のPDF作成したり、求人サイトにエントリーして脱出できるのだが、この世界ではそれがとても難しかった。
求人は基本人伝て、テレビもラジオもスマホもない。何処の未開の地だとツッコミを入れたくなるほど酷い有様なのだ。
検索エンジンに“転職”の二文字を打ち込むだけで情報と数多の選択肢を提示してくれる現代日本が今凄く恋しい。
次、街に帰還出来るのは早くて二週間。スライムにも当たりたくなるというものだ。
「随分と荒れているナ」
頭で太陽光を反射させたグノーが、やれやれと肩を落としながらやってきた。
「眩しっ!」
「何かあったのカ?」
「気遣いありがとう。けどその前にちょっとこっちに移動してもらえると嬉しいな」
「そっちは眩しイ」
「俺は今眩しいんだよね」
「全ク。これでいいか」
「うん、ありがとう。ところでそっちは集め終わったの?」
「あア。だから呼びに来タ」
くいっと親指を立てて示した先には、何かを燃やしているレオとラムがいた。
「これ拾ったら行くよ」
「それでなぜ機嫌が悪イ。朝からずっとだろウ?」
「あ~……ごめん」
「謝らなくていイ。昨日レオとデートして何かあったんだロ。アイツも少しおかしイ」
「デート!? いやいやいや違うからね。というかアレはただの街巡りであってデートじゃないよ!」
「それでそのデートで何を仕出かしたんダ?」
「聞けよ!――はぁ。特に何もない。出店回って花畑に、っ」
レオと歯と歯をぶつけたシーンが過る。
無意識に唇に触れた俺を見て、グノーはにやにやと悪い顔を浮かべた。
「なるほド。チューはしたが無かった事にされたあたりカ」
「ふぁっ!?」
「いいカ、ユニ。アイツは鈍感だからもっとぐいぐい行かないと伝わらないゾ」
「いや本当そうじゃなくて」
「そうだな。今日辺り襲ってみるといイ」
「だから聞けやこの野郎」
こめかみをマッサージする事暫し、ふと思いついた俺はグノーに尋ねる。
「グノーに一つ訊きたいんだけど」
「何ダ。何でも訊け」
「ありがと。あのさ、ラムの浮気現場を目撃して」
「野郎ぶっ殺してやる!」
「待て待て待て。例えだから、例え!」
眼光鋭く、今にでも駆け出しそうなグノーを慌てて制止する。
「例え? 本当だナ」
「本当本当!」
「紛らわしいゾ」
「オメーが最後まで聞かねえからだよ」
「何か言ったカ?」
「いーえ。何でも。じゃあ話しを戻すね。仮にだよ。グノーがラムの浮気現場を目撃した後にさ、戦闘か何かでラムが死んで自分は重傷と記憶喪失になったとするね」
「いきなりだナ」
「そう、いきなり。んでグノーはさ、その真っさらな状態でラムの面影ある人に助けられて自然と恋仲になった。でもある日、記憶を取り戻してラムの事も思い出す。その後どうする?」
「どうするとハ?」
「そのままその人と付き合う? それとも距離を置く?」
正直参考にするつもりはないが、恋人のいるグノーがどう決断を下すのか興味があった。いや、正確には距離をはかろうとする俺が正しいのだと後押しが欲しかった。
うんうんと悩むグノーを見つめ、
「取り敢えずヤッて決める」
――俺は人選を誤ったのだと悟った。
「うわぁ……。それ、ラムが聞いたら泣いちゃうよ」
「待テ。ラムには言うナ! ゴホン。やはり暫くは悩むと思うが、最終的にはソイツと話して向き合ウ。それでもし無理なら離れるしかないとオレは思ウ」
――待ち望んでいた答えなのに、出だしのせいで如何せん喜べない。
「しかし何故急にそんな話しになっタ?」
「あ、うん。ちょっと小耳に挟んでさ。グノーなら何を選択するか気になったんだよね」
「ユニは違うのカ?」
「俺は話さずに離れるよ。どうしたって死んだ相手を思い浮かべちゃうし、続けたところで相手にも悪いでしょう」
例えレオに恋心を抱いていてもそれは決して今の俺じゃない。
「まあそういう考えも無くはないナ」
「人それぞれだからね……はい、お待たせ」
「そうか。それでレオについてだが」
「ねえ、その流れで今いく? どんだけ俺達くっつけたいの?」
「こんな稼業ダ。いつ死ぬか分からんし、心残りは減らして損はなイ。ついでに潤いは多い方が楽しイ」
「確実に後者が本音だよね」
全く、と肩を落とした刹那、遠くのラムが俺達を呼んだ。
「そっちは終わったかー?」
「今行くー!」
戦利品を鞄に、彼等と合流した途端、グノーは一直線にラムへと近付く。相変わらず仲の良い二人である。
口元を引き攣らせていると、二人の隣にて同じく引き攣った顔のレオと目が合った。
「あ、レオ。お疲れさま」
「あ、あぁ……」
何故か目を逸らされた。ついでに心なしか頬が赤い。
「? ねぇ、ラム。何かあった?」
「いんやぁ~。なぁんにもなかったぜ」
「……そっか」
グノーと似た相好の崩し方に怒りを覚えたので、こっそり麻痺の呪文を唱える。
「ぐぉおおおおお、ユニこの野郎ぁおお」
「ん、俺がどうかしたの?」
「ラム、あまり揶揄ってやるナ」
「レオ。ラムに何言われたの?」
「いや、何も。うん、何に言われてないよ!」
だから何故後退るのか。
頗る納得がいかない。
「別にいいけどさ。ねえ、依頼主のいるヒューリ村まではまだかかりそう?」
「あ、うん。少し休憩したら出発するよ」
「了解」
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