人虎は常に怪奇な騒動に巻き込まれる 

東堂大稀(旧:To-do)

文字の大きさ
上 下
40 / 42

40 ケンカしない 後

しおりを挟む
 後日、百家神社の宮司とお兄さんのお父さんが今後の話をするという話を聞いた。

 宮司さんは百家くんのお祖父ちゃんだ。宮司ってお宮の代表者の事らしい。

 彗煉寺ではお兄さんとしばらく話をして、時間になったので帰ることを伝えると、

「あの、君は携帯電話持ってるの?」

「うん、持ってるよ。アドレス交換する?」

「出来たら、そうしてもらえないかと思って」

「いいよ、家族以外でアドレス交換するのはこれで二人目」

 私の言葉にクッと笑うと、お兄さんはいぶし銀のような渋い銀色の薄い二つ折りの携帯を取り出した。どっかの携帯会社が限定販売で出していたやつに似てる。

 アドレスを交換して携帯をポケットに入れると、その上を大切そうに手で押さえて私を正面から見た。

「ありがとう。今日は会えてよかった」

「私も会えて嬉しかった。じゃあね」

 手を振って別れる。

 待ち合わせの場所に歩いて行く途中、お母さんとお祖父ちゃんも丁度用事が終わって本堂から出た所だったので声をかける。

「おお、麻美、暑いのにどこにおったんかの。いや~今日は暑いのお」

 お祖父ちゃんは首に下げたタオルで顔を拭いている。

「えっと、知り合いに会ったから木陰で話をしてたの」

「知り合い?珍しいのお、アルバイトの道の駅の人か?」

「うん」

「本堂の中は涼しかったし、和菓子とお茶も頂いたよ、麻美も一緒にくれば良かったねって話てたの」

 お母さんは帽子を被りながらそう言った。

「え~いいなあ。喉乾いたから自販でジュース買って車に乗るね」

「そうしなさい。ほら、そこの休憩所の右に置いてあるわよ」

 緑茶のペットボトルを購入して飲みながら家に帰った。

 
 

 家に帰ってから、お兄さんから『今日は話を聞いてくれてありがとう』というめメールがきたので。私は『会えて良かった。色々教えてくれてありがとう』と返事を返した。

 それから百家くんにもお兄さんに彗煉寺で会った事をメールで知らせると直ぐに電話がかかってきた。

 「白狐に東神家の事を注意するように言われたから、祖父ちゃんに東神家の事を相談したんだ。それで祖父ちゃんが動いてくれた。祖父ちゃんも前に向こうにはお祓いを拒否されたけど、ずっと気になってたらしい。この間、東神家に祖父ちゃんが行った時、俺も付いて行ったんだ」 

「えっそうなの、どんな感じだった?」

「悪いモノが引き寄せられて来ていた。井戸の障りは家自体に憑いてる感じだな。取り敢えず、外からの邪気は跳ね返し、中の悪いモノは出せない様に護符を貼りつけて、結界石を置いて帰ったけど」

 百家くんが先に動いてくれたらしい。頼りになる人だ。お寺でも白狐が私の周りで跳ね回っていたけど、どうやら私がお兄さんに会った事も私が連絡するよりも先に白狐から聞いていたらしい。

 白狐はお兄さんが悪いモノに憑かれないように守ってくれているようだ。

「東神家には塙宝も一緒に行った方がいいと白狐が言ってる。来てくれるか?」

「うん、行ってもいいなら行かせてもらうよ。でも、関係者じゃないのに行っても大丈夫かな?」

「白狐はお前は関係者だって言ってるけど、確かに東神家にとっては神社の者じゃないのに来てるのは変に感じるかもしれないから、巫女としてついて来てもらうよ。装束をそれなりにして行けば見た目問題ないだろ。そのつもりだったし」

「え、う、うん?」

 正直、そんな事を言われるとも思っていなかったので、ものすごく驚いた。

「今年の年末は巫女さんのアルバイトするんだろ、先に練習出来ていいじゃないか?」

「そんな簡単にいうけど、着付けとか教えてもらえるの?」

「伯母さんに頼んでおくよ。いつもアルバイトの子達にも教えてるから大丈夫。行く前に少し練習すればいいよ。ああ、それに祖父ちゃんが来てくれるならアルバイト代を出すって言ってた」

「えっ、アルバイト代まで貰えるの?」

「そりゃ巫女さんとしてついて来てもらうし、塙宝は俺の神力を上げてくれる相手だから、そのあたりも家で話をしてる」

 百家という家がどんな歴史を辿ってきた家なのかよく知らないけど、不思議な力を代々持ち続けてきた一族なのだろうと何となく推測した。でなければ常識から外れたこういう話は普通に受け入れられはしない。

「なんか至れり尽くせりで申し訳ないかんじ」

「お前はちゃんと分かってないけど、俺の貴重な相棒だからな」

「相棒かあ・・・」

「何だよ、そのあんまり嬉しそうじゃない返事は」

「そんなことないよ、聞きなれない響きだから噛み締めてただけ。東神家の事で動いてくれて正直すごく嬉しいし感謝してるよ。ありがとう」

「え、そ、そうか。何だよ、突然。ほんとお前って面白いやつだな」

 私がお礼を言うと、百家くんは突然あわあわした。百家くんこそ面白いと思う。

 次の日に冷房の効いた部屋で衣装合わせをしようと百家くんが言ってきたので、お母さんには少し早いけど巫女さんのアルバイトの為に着付けを習いに行くと言ったら、コンタクトレンズにしていきなさいと言われた。

 ついでに私の適当に切ってある髪の毛をカット用のハサミで揃えてくれた。

「麻美も今度から美容室で髪をちゃんとしてもらおうね。三つ編みもそろそろ卒業かな」

「えっ何で?」

「だってお母さん高校生で三つ編みしてる女の子見たこと無いし、逆にその眼鏡と三つ編み目立ってるよ」

 うっと痛い所を突かれた。逆に目立っているとは、それも困る。

「眼鏡はもっと薄いレンズで作れるそうだから今度作りに行こうか、今は可愛い眼鏡もたくさんあるし」

「そんなに私の為に散財しなくていいのに」

「まあっ、娘の為に使わなくていつ使うの?それにその程度は何でもないよ。お母さんにもっと頼ってね」

「・・・ありがとう、お母さん」

 そうして、新しい眼鏡は直ぐに作ってもらった。お母さんの行動力は凄いと思う。

 眼鏡のレンズは薄く、ちょっとモード系というのか、おしゃれな眼鏡を買ってもらった。眼鏡一つで印象が変わるのでとても驚いた。

 前後して百家神社に巫女装束の着付け等を習いに何回か行くことになった。百家くんの伯母さんはとても面白くて優しい人だ。そして、おやつは美味しかった。

 


 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

ショートホラーストーリー「帰宅途中に」

『むらさき』
ホラー
短い短編です。帰宅途中などに読んでもらうと幸いです。

【ホラー】バケモノが、いる。 ー湖畔の森ー

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
大学四年生の夏休み、七虹(ななこ)はH県のS高原にいた。 頼りない自分を変えたくて、たったひとりで、新しい世界に飛び込むために。 そこで出会ったのは、椿(つばき)という人懐っこい少女と、大和(やまと)という美少年。 謎の多い椿と大和、そして『グロススタジオ』という会社のメンバーと合流した七虹は、湖のある森の中のログハウスで過ごす。 その夜、湖に行った宿泊客のひとりが姿を消す。 その湖には、人間を喰う『人魚』がいるという噂があった……。 * 超弩級のB級ホラー(バトル要素もある)です。 志知 七虹(しち ななこ) /主人公 木瀬 椿(きせ つばき) 大和 柊(やまと ひらぎ) /謎の多い少女と少年 仁藤 健太(にとう けんた) /グロススタジオの責任者 四条 剛樹(しじょう ごうき) 伍川 圭助(ごかわ けいすけ) 六人部 雄一(むとべ ゆういち) /グロススタジオの関係者(男) 一ノ宮 蓮絵(いちのみや はすえ) 三井 果蘭(みつい からん) /グロススタジオの関係者(男)

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

【完結済】僕の部屋

野花マリオ
ホラー
僕の部屋で起きるギャグホラー小説。 1話から8話まで移植作品ですが9話以降からはオリジナルリメイクホラー作話として展開されます。

処理中です...