人虎は常に怪奇な騒動に巻き込まれる 

東堂大稀(旧:To-do)

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19 聞かれた事には素直に答えよう 前

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 「それで、君の仲間が殺されたか拉致された可能性が高いというんだな?」

 キザ長谷川にため息混じりに問いかけられ、オレは頷いた。
 キザ長谷川は何をやってるんだと言いたげだ。なんか、中学の時に学校の先生に怒られたのを思い出した。

 オレはあの後、ホテルに引き返してすぐにキザ長谷川に状況を説明した。
 ひょっとしたらキザ長谷川の方で、何か情報を持っているかもしれないと思ったからだ。

 一応同じ仕事をしているということで情報の共有はしているが、それでも互いに隠していることはあるだろう。些細な事と判断して、報告してないだけのパターンもある。

 だからオレはしっかりと状況を話し、キザ長谷川に小さな出来事も含めて関連してそうな情報をもらうことにしたのだ。

 なりふり構ってなんていられない。それで谷口が見つかるなら、オレのプライドとかどうでもいい。
 明らかに今回のことはオレの過失。
 自分の保身など考えている場合じゃない。
 ……と言っても、態度までは変えるつもりはない。それとこれは別だ。
 服装だって、派手目のアロハシャツに短パン、スポーツサンダルのままだしな。

 もちろんオレは騒動処理人の看板を背負っている訳で、そちらの組織イメージも傷付くことになるだろう。
 ひょっとしたらBGFJの方が借りを作ってやったと思って、騒動処理人に何か見返りを求めるかもしれない。
 まあ、そちらの方は本気でどうでもいい。むしろクソ親父が困ってくれれば万々歳だ。

 「それは間違いないんだな?」

 再び、キザ長谷川が聞いてくる。オレはそれに頷いた。

 オレたちは小さな会議室にいる。同じテーブルの席に向かい合わせに座っており、真っ直ぐ見つめられると逃げ場がない。

 オレが状況から勝手に思ってるだけで、絶対にそうなのかと言われれば言い切れないんだけどな。
 それでも可能性があるなら、オレは全力で動きたい。

 まったく、今回の依頼の説明を受けた時はこんなにわけのわからない状況になるなんて、予測も出来なかった。
 分かってたら最初から谷口を連れてくるなんてことは絶対しなかった。
 ただのボディーガードの仕事だから、敵もただの人間だと思ってたんだよ。

 仕事をする度に毎回思うんだが、事務方の連中は意図的にオレに情報を隠してないだろうか?依頼者のオーナーの話を聞いた限り依頼の切っ掛けから怪物が関わっているとしか思えないし、最初からだいたいの内容が分かってたろ、これ?

 オレに回される仕事って、現場に着いて依頼人に説明されてから極端に難易度が上がるパターンが多いんだよな。
 正直に話すとオレが拒否すると思ってるのか?

 まあ、それは正解で、最初から詳しく知っていたならオレは全力で拒否していただろう。
 何度か人外の連中とやり合ったことはあるが、とにかく面倒なんだよ。
 でも、オレはクソ親父から半ば強制されているようなもんだぞ?どんだけ拒否しても最終的には仕事を押し付けられるんだから、拒否権はほぼ無いようなもんだ。

 「オレがざっと調べた限りは、このホテルからタクシーに乗ったことは分かっている。まだオープン前だからな、待機しているタクシーはなくて、フロントから電話して来てもらったそうだ」

 これだけ大きなホテルなら、タクシーの数台は待機していてもおかしくない。
 だが、今はオープン前だ。
 ホテルにいるのはほとんど従業員や出入り業者で、タクシーを利用する人間なんて滅多にいない。呼び寄せるしかないのだ。

 谷口が地元のタクシー会社に直接連絡を取って呼んでいたら分からなかっただろうが、谷口はフロントを通して呼んでいた。

 しかも谷口のデカい図体は目立つ。さらにはブラックスーツでサングラス着用など、オープン前のホテルには異物でしかない。めちゃくちゃ記憶に残る。

 複数のホテルの従業員が、谷口がタクシーに乗ったのを覚えていた。

 「だが、そこからが分からない。谷口を乗せたタクシー運転手が見つからないんだ。だからオレは計画的に殺されたか誘拐されたと判断した」

 従業員たちがタクシーに乗る姿を見ている。
 それなのに乗せた運転手が見つからないとか、ありえないだろ?普通はタクシー会社に電話して呼び寄せたのなら、配車係に記録が残っているはずだ。
 乗せたタクシー運転手は即座に判明するはずだった。

 なのに見つからない。
 記録漏れかと所属している運転手全員に聞き取りをしてくれたらしいが、誰もこのホテルに近寄ってすらいないそうだ。
 ありえない。 
 
 もうこれは、記録の改ざんができる立場の奴が、意図的に谷口を拉致したとしか考えられない。

 もし、谷口が殺されていたら……。

 そう考えて、オレは心臓を掴まれたように感じる。
 だが、キザ長谷川の手前、オレは表情や態度には出さない。

 「どうした?」

 表情や態度に出ない様にしてたのに、キザ長谷川は何かを察したらしい。
 勘が良い奴は嫌いだ。

 「なんでもない。考え事をしてただけだ」

 オレはキザ長谷川と目を合わせないようにしながら呟いた。
 キザ長谷川が髭を撫でながらオレを観察している気配がしたが、オレはそれを無視した。

 「ふむ。君の仲間については、私の方でも気に掛けておこう。何か情報があれば必ず連絡するよ」

 口調は普通だが、キザ長谷川の言葉にはどこか含み笑いの様な雰囲気を感じる。
 オレの弱みでも握ったと思ってるんじゃないだろうな?勘違いだぞ?
 まだ割り切れてないだけで、いざとなったらオレは妙な感傷なんかキッパリと斬り捨てる自信がある。

 「それから、君が見かけた少女のことだが……」

 キザ長谷川が話題を変えた。
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