人虎は常に怪奇な騒動に巻き込まれる 

東堂大稀(旧:To-do)

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15 お仕事の邪魔をしない 後

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 部屋を出て、とりあえずフロントで支配人の居場所を聞く。

 支配人は支配人室にいた。
 支配人室に併設された一般客室程度の仮眠室が有って、オープンして落ち着くまではその部屋で生活しているそうだ。
 仕事場に缶詰になってると言えば悲惨としか言いようがないが、仕事を兼ねてホテル生活と考えると優雅に思える。不思議なもんだ。

 支配人室で資料を受け取る。
 これは、騒動処理人の本部が依頼していたもので、単的に言うと、オーナーを恨んでいる可能性のある連中をまとめた資料だ。

 ざっとその場で読んだが、どうも黒峰湖ができる時にオーナーの一族……祖父、父親あたりが色々な所ともめたらしい。
 複数の村単位でオーナーの一族は恨まれていた。

 ダムに沈んた村出身の一族であることはパンフレットに書かれていたから知っていたが、どうやら周辺の山々の持ち主もオーナーの一族だったらしい。
 建設に関わって、かなり汚い手を使って強引に建設を進めたようだ。

 なるほど、元々土地持ちではあったが、ホテル経営ができるほどの大金持ちになったのはダムができてからなのか。
 オレが成金趣味だと思ったのは、間違っていなかった。

 しかもオレたちに依頼ができるような謎の政財界とのパイプを持っているあたり、オーナー自身も色々とやらかしてそうだ。
 ただ、そちらはこういった資料の形では表に出てこないだろう。

 それにしても……これって、容疑者の絞り込みなんて不可能じゃないか?

 ダム湖に沈んだ村々の元住人なんて、様々な地方に移住しただろうし、その後をどう生きてたなんて到底調べ切れると思えない。
 かなり昔の話だから、向かから出て行くまで恨む素振りが無かった奴も、その後の生活で恨みを持った可能性だってある。

 恨みは時間が経つにつれ煮詰まって熟成されて真っ黒に染まって、最終的に最悪な変化をするものだからな。
 ちょっとした切っ掛けが大きく変化している可能性もあるし。

 恨みを晴らせないと諦めていた人間が、偶然から大きな力を持って復讐に打って出たって可能性もある。

 ダムに沈んだ村に、人を怪物にする秘術を伝承してる家系があったとかなら、一発でそいつが犯人だったのに。
 そんな都合の良い事実はないみたいだ。

 資料を受け取った後、部屋を出る寸前に支配人から「どのようなをされてもかまいませんが、従業員それを見せつけるのは困ります」と言われてしまった……。

 犯罪の現場じゃなくて特殊な性癖と思われてしまったらしい。
 それも、他人に見せつける系の。

 聞こえなかったフリしてそのまま支配人室を出てきたが……うん、忘れよう。
 何もなかった。従業員たちの噂にならないことを祈る。

 こういうのは否定すればするだけ泥沼にはまり込んで、真実のように語られるんだよな。
 何もなかったような顔をしておくのが一番いい。

 オレはその足でフロントに行って、レンタカーなどの手配ができないか尋ねる。
 オレの大事な大事なジムニーが見事に壊されたため、今のオレには移動手段がない。

 もちろん、タクシーを呼べば来てくれるだろうし、ホテルの運転手付きの車も借りられるだろう。
 だが、今のオレに必要なのは、自由に好き勝手出来る移動手段だった。
 ホテルの送迎に使うような高級車はいらない。

 レンタカーの仲介程度で良かったのだが、ホテルの方でいくつかレンタルバイクを所有していたのでそれを借りることにした。

 どうやら、ダム湖周辺でのアウトドアレジャーを推し進めており、広範囲に散らばっているレジャー施設の移動に使ってもらうためのレンタル自転車やバイク、カートなんかに力を入れているとか。
 
 その対応をしてくれたのは、昨日と同じくフロントで研修をしていた、ちょっと性格がキツそうなオレ好みの美人だ。
 対応してくれた態度で、オレと谷口との不名誉な噂は出回っていないと確信する。
 ならば、やることは決まっている。

 「昨日はコーヒーありがと!お礼に、これからバイクでコーヒー飲みに行かない?」

 ノリが軽すぎたかな?まあ、こういうのは軽すぎるくらいの方が良い。

 お姉さんの横にいる、どうも教育係らしいちょっとハゲ気味の中年が嫌な顔をしてるけど無視。
 オーナー命令で、教育よりオレの相手の方が優先度が高くなってるのは計算済みだ。

 「いえ、私は研修中で……」

 ちょっと困ったようなビジネスライクな笑顔が良いよな。長い髪を後ろでひっつめて纏めていて横を向く度にちらちら見えるうなじがキレイだ。

 「大丈夫だって」

 できるだけにこやかに。
 オレ、時々怖い人と思われるらしいから。全然怖くない、本当に人の良いヤツなのに。よく街中でお婆ちゃんに道を尋ねられるよ?

 今日の格好は昨日の昼間と同じようなもんだ。
 膝下のハーフパンツに白Tシャツ。スーツは嫌いだし、護衛の仕事をしないなら着る必要もない。軽い印象になってるだろうけど、警戒されるような見た目じゃないはずだ。

 「あの」
 「ん?」

 ハゲ気味中年が横から口を挟んできた。

 「そういうのは、本当に困ります。探偵さんには便宜を図るように支配人から言われていますので、できる限りのことはさせていただきますが……」

 ハゲた頭まで汗を浮かべている。オレ、怖くないって。

 オーナーはオレのことを探偵として紹介していたのか。
 調査の仕事メインだと、確かにその方が動きやすいだろう。

 その設定には乗っからせてもらうとして、ここであまり押しまくると印象悪いよな。引くべきか?
 お姉さんの顔を見ると、本当に困ったような顔をしていた。
 色っぽい表情だが、これは引いた方が良い場面だな。

 「わかった。困らせてすまない」

 できるかぎりの人の良さそうな笑顔を作る。
 このまま続けて彼女の怒った顔も見てみたい気もするが、まだ仕事が終わるまで最低でも数日はあるだろうから、焦る必要はない。
 怒らせたらビンタくらいしてくるかな?
 いや、そんな趣味はない。本当だ。
 
 フロントを離れ、駐車場の方に回るとやけに爽やかなお兄さんが待っていてくれた。
 フロントの方からすぐに話を通してくれて様で、レンタルバイクの担当者らしい。整備をしていたのか、着ている青いツナギは所々オイルで汚れていた。

 こいつも犬系だな。
 オレは谷口のことが頭に過ったが、無理やり頭から追い出した。

 青ツナギお兄さんに連れられてレンタルバイク置き場に移動し、借りるバイクを選ぶ。

 バイクにはどれもレンタルと分かるホテルロゴのステッカーが貼られ、燃料タンクの部分にデカデカと数字がかかれていた。管理番号だろう。

 レンタルバイクはスクーターから中型、四輪バギーなんてものまであった。
 需要が無さそうだと判断したのか大型は置いてない。数が多いのはスクーター系だ。オフロードも多い。
 すぐ横にレンタルサイクルも並べられていて、そっちの方が圧倒的に数が多かった。

 オレは扱い易そうな原付オフロードバイクを選んだ。

 ちょっと四輪バギーにも惹かれたが、レジャー要素が強すぎる気がしてあきらめた。遊びなら絶対に四輪バギーを選んだのに。

 さてと。
 これからどうするかな。
 オレは調査するだけの技術はない。なんとなくでやってみるか。

 とりあえずは、市役所に行って資料にある人間の中で地元に残っている人間を調べてみるか。
 支配人がホテルスタッフに説明した設定に便乗させてもらって、探偵を名乗ればいいだろう。

 あとは、警察関係だな。

 さて、ツーリングだ。
 ヘルメットは嫌いだが、人目があるうちは被っておこう。
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