6 / 42
6 女性には優しくする 後
しおりを挟む
オレの提案に、頭上の奴が動いた。
太めの木の枝から、垂れ下がる様にそれは姿を現した。
その姿を見て、オレは一瞬だけ息を呑んだ。
「ラミア……だっけか?」
ゲームで見たことがある。
上半身が人間で下半身が蛇の怪物だ。
日本では蛇女?でも日本の蛇女は蛇そのものに変身するから違う気がする。安珍清姫だっけ?
ゲームのイラストなんかだとラミアの上半身は美女なんだが……。あーー何と言って良いのか、乳房があるので女性らしいのだが、全身どころか顔にも鱗が生えた、とても色気なんて感じられないものだった。
ラミアモドキと言ったところか。
オレはラミアモドキを見つめ、わずかに眉を寄せた。
嫌なことに気付いたからだ。
ラミアモドキは、申し訳程度に人間の衣類を身に付けていた。
「クソっ」
ボロボロに破けたブラウス。
腕と背には紺色のジャケットだったらしい、ぼろ布がまとわりついている。
元々はどこかの従業員の制服のように見えた。
無理やり服を着て破れたというよりは、着ていた服が身体の変化で内側から裂けた様だ。
オレの頭に嫌な考えが過る。少しだけ、戸惑いの感情が浮かんだ。
オレの変化を感じ取ったのか、ラミアモドキは大きく避けた口を開き、オレに向かってシャーと威嚇して見せた。
長い髪が、不気味に垂れ下がった。
「こいよ」
不愉快だ。
オレは無理やりに頭を切り替える。
余計なことは考えたくない。
今は、目の前の相手を殺してあげよう……。
オレは自分の白い前髪を掻き上げる。
その間もラミアモドキからは目を離さない。ラミアモドキは視線を感じ続けることで攻めあぐねているらしく、オレを恨めしそうに睨みつけていた。
風が吹く。
オレは少しだけ身を後ろに下がらせる。
風切り音と共に、鼻先を何かが通過していった。
「当たらねーよ」
通過していったのは、ラミアモドキの尾。
長く伸びた尾を鞭のように使って、オレを攻撃したのだ。
蛇は尾で攻撃しない。
長さがあるから鞭のように使うとか、人間の発想だろう。
それがオレの嫌な考えを補強する。
シュンと、また風切り音が響く。
オレは右手を前に突き出すと、打ち付けられた尾を受けた。
「痛ってぇ!」
丸太で殴られたような衝撃。
常人なら腕どころか身体ごと弾き飛ばされ、骨がボキボキに折れていることだろう。
だが、オレはしっかりと受け止めていた。
オレはそのまま両手で尾を掴み、一気に引っ張る。
木の上ってのが面倒だったんだよな。少なくとも、今のオレには。
手繰る様に尾を引き、ラミアモドキを木から引きずり下ろす。
普通の蛇なら長い身体を木に巻き付けて耐えるところなんだろうが、ラミアモドキはそういったことを知らないかのようにあっさりと地上に叩きつけられた。
その蛇の胴体を、オレは踏みつける。
「終わらしてやるよ」
オレはニヤリと微笑む。
オレの犬歯は肉食獣の様に大きめだ。仰向けに倒れているラミアモドキはその犬歯を目にしたのか、縦長の瞳を恐怖に震えさせた。
ひゅう……と、ラミアモドキの喉が恐怖に鳴った。
バケモノを見るような目で見るなよ……。
オレはさらに笑みを強める。
嫌な気分を上書きするように。
気付けば、クスクスと小さな笑い声が口から洩れていた。
ラミアモドキは必死に腕を動かして背中を地面に擦りつけながら後ずさりをしていた。
まあ、オレが長い蛇の胴体を踏みつけているから、ほとんど動くことはできなかったのだが。
オレは踏みつけている足を一瞬だけ上げ、蛇の尾を引っ張って位置をずらして、再び踏み下ろす。
ラミアモドキの胸へ。
骨の折れる音、肉の潰れる感触。
しまった、サンダルで踏むんじゃなかったと思った時には、ラミアモドキは絶命していた。
周囲に飛び散る温かい血。それがオレの全身を汚している。
あっさりしたもんだ。
死は、何者にも訪れる……はずだ……。
オレは苦い物を喉の奥に感じながら、しばらくその死骸を見つめた。
太めの木の枝から、垂れ下がる様にそれは姿を現した。
その姿を見て、オレは一瞬だけ息を呑んだ。
「ラミア……だっけか?」
ゲームで見たことがある。
上半身が人間で下半身が蛇の怪物だ。
日本では蛇女?でも日本の蛇女は蛇そのものに変身するから違う気がする。安珍清姫だっけ?
ゲームのイラストなんかだとラミアの上半身は美女なんだが……。あーー何と言って良いのか、乳房があるので女性らしいのだが、全身どころか顔にも鱗が生えた、とても色気なんて感じられないものだった。
ラミアモドキと言ったところか。
オレはラミアモドキを見つめ、わずかに眉を寄せた。
嫌なことに気付いたからだ。
ラミアモドキは、申し訳程度に人間の衣類を身に付けていた。
「クソっ」
ボロボロに破けたブラウス。
腕と背には紺色のジャケットだったらしい、ぼろ布がまとわりついている。
元々はどこかの従業員の制服のように見えた。
無理やり服を着て破れたというよりは、着ていた服が身体の変化で内側から裂けた様だ。
オレの頭に嫌な考えが過る。少しだけ、戸惑いの感情が浮かんだ。
オレの変化を感じ取ったのか、ラミアモドキは大きく避けた口を開き、オレに向かってシャーと威嚇して見せた。
長い髪が、不気味に垂れ下がった。
「こいよ」
不愉快だ。
オレは無理やりに頭を切り替える。
余計なことは考えたくない。
今は、目の前の相手を殺してあげよう……。
オレは自分の白い前髪を掻き上げる。
その間もラミアモドキからは目を離さない。ラミアモドキは視線を感じ続けることで攻めあぐねているらしく、オレを恨めしそうに睨みつけていた。
風が吹く。
オレは少しだけ身を後ろに下がらせる。
風切り音と共に、鼻先を何かが通過していった。
「当たらねーよ」
通過していったのは、ラミアモドキの尾。
長く伸びた尾を鞭のように使って、オレを攻撃したのだ。
蛇は尾で攻撃しない。
長さがあるから鞭のように使うとか、人間の発想だろう。
それがオレの嫌な考えを補強する。
シュンと、また風切り音が響く。
オレは右手を前に突き出すと、打ち付けられた尾を受けた。
「痛ってぇ!」
丸太で殴られたような衝撃。
常人なら腕どころか身体ごと弾き飛ばされ、骨がボキボキに折れていることだろう。
だが、オレはしっかりと受け止めていた。
オレはそのまま両手で尾を掴み、一気に引っ張る。
木の上ってのが面倒だったんだよな。少なくとも、今のオレには。
手繰る様に尾を引き、ラミアモドキを木から引きずり下ろす。
普通の蛇なら長い身体を木に巻き付けて耐えるところなんだろうが、ラミアモドキはそういったことを知らないかのようにあっさりと地上に叩きつけられた。
その蛇の胴体を、オレは踏みつける。
「終わらしてやるよ」
オレはニヤリと微笑む。
オレの犬歯は肉食獣の様に大きめだ。仰向けに倒れているラミアモドキはその犬歯を目にしたのか、縦長の瞳を恐怖に震えさせた。
ひゅう……と、ラミアモドキの喉が恐怖に鳴った。
バケモノを見るような目で見るなよ……。
オレはさらに笑みを強める。
嫌な気分を上書きするように。
気付けば、クスクスと小さな笑い声が口から洩れていた。
ラミアモドキは必死に腕を動かして背中を地面に擦りつけながら後ずさりをしていた。
まあ、オレが長い蛇の胴体を踏みつけているから、ほとんど動くことはできなかったのだが。
オレは踏みつけている足を一瞬だけ上げ、蛇の尾を引っ張って位置をずらして、再び踏み下ろす。
ラミアモドキの胸へ。
骨の折れる音、肉の潰れる感触。
しまった、サンダルで踏むんじゃなかったと思った時には、ラミアモドキは絶命していた。
周囲に飛び散る温かい血。それがオレの全身を汚している。
あっさりしたもんだ。
死は、何者にも訪れる……はずだ……。
オレは苦い物を喉の奥に感じながら、しばらくその死骸を見つめた。
1
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
怪異相談所の店主は今日も語る
くろぬか
ホラー
怪異相談所 ”語り部 結”。
人に言えない“怪異”のお悩み解決します、まずはご相談を。相談コース3000円~。除霊、その他オプションは状況によりお値段が変動いたします。
なんて、やけにポップな看板を掲げたおかしなお店。
普通の人なら入らない、入らない筈なのだが。
何故か今日もお客様は訪れる。
まるで導かれるかの様にして。
※※※
この物語はフィクションです。
実際に語られている”怖い話”なども登場致します。
その中には所謂”聞いたら出る”系のお話もございますが、そういうお話はかなり省略し内容までは描かない様にしております。
とはいえさわり程度は書いてありますので、自己責任でお読みいただければと思います。
不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
【全64話完結済】彼女ノ怪異談ハ不気味ナ野薔薇ヲ鳴カセルPrologue
野花マリオ
ホラー
石山県野薔薇市に住む彼女達は新たなホラーを広めようと仲間を増やしてそこで怪異談を語る。
前作から20年前の200X年の舞台となってます。
※この作品はフィクションです。実在する人物、事件、団体、企業、名称などは一切関係ありません。
完結しました。
表紙イラストは生成AI
ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿
加来 史吾兎
ホラー
K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。
フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。
華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。
そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。
そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。
果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。
鈴ノ宮恋愛奇譚
麻竹
ホラー
霊感少年と平凡な少女との涙と感動のホラーラブコメディー・・・・かも。
第一章【きっかけ】
容姿端麗、冷静沈着、学校内では人気NO.1の鈴宮 兇。彼がひょんな場所で出会ったのはクラスメートの那々瀬 北斗だった。しかし北斗は・・・・。
--------------------------------------------------------------------------------
恋愛要素多め、ホラー要素ありますが、作者がチキンなため大して怖くないです(汗)
他サイト様にも投稿されています。
毎週金曜、丑三つ時に更新予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる