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第三章
「どちらも本体でどちらも分身だ。同じものであり、別のものだ」
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「まず剣を返してもらおう。アルベルト、呼べ」
「ああ、トリックスター!」
アルベルトはナイを抱きかかえたまま、何かをつかむように片手を前に突き出す。
一瞬だけ光が弾け、その光が収まった時にはその手に一本の剣が握られていた。
「それは!!?」
その剣の銘は『悪戯神』。
謁見の間に刺さっているはずの魔剣だった。
「この剣はオレが呼べば来るんだよ。理屈は分からん。鞘がないな。仕方ないか」
刀身がアルベルトとナイの顔を映しこむ。
ナイはアルベルトを軽く睨んでいた。
ナイは事細かにこの魔剣に使われている魔法について語っていた。
魔剣の力を使いこなしてもらうために講義したのに、あっさりとその理屈を憶えていないと言われたことに気分を害したのだ。
アルベルトは睨みつけるナイを可愛いと思ってしまい、軽く頭を撫でた。
「呼べば来る剣?結界は?」
目の前で剥き身の剣を持った男がいるというのに、近衛騎士たちは呆然と見つめるしかできない。
献上され二度とアルベルトの手に戻るはずがなかった魔剣が、一声呼ぶだけでその手の中にあるのだ。
誰もがその事実に驚いていた。
つまり、献上などまったく無意味だったことになる。
ならば、その魔剣が引き起こしたこの騒ぎはまったくの無駄骨だ。やっても意味がない行為をしたせいで、王族の存在を脅かすことになったのだ。
「アルベルト、打ち合わせ通りに行くぞ」
「ああ。大丈夫だ。式典なんかより気楽なもんだ」
抱きかかえていたナイを下ろし、アルベルトは片手で魔剣を振る。
そして、もう一方の手で腰に吊るしていた剣を抜いた。
二刀流だ。
アルベルト本来の戦闘スタイルではないが、対応できないわけではない。
近衛騎士たちは相変わらず、呆けたようになっていた。
その目は、アルベルトの剣を見つめていた。
「……魔剣が二本……?」
「これもトリックスターだ。ナイの話では元々は一本で分身のようなものらしい。並列的存在?ってやつらしい。オレは深く考えないことにしてる」
「どちらも本体でどちらも分身だ。同じものであり、別のものだ」
「はあ……」
国王の呟きにアルベルトとナイが答えたが、まったく理解できなかった。
やっぱり人知を超えたダンジョンコアの魔剣は凄いという感想を持っただけだ。
……もっとも、ダンジョンコアの魔剣という触れ込みになっているが、作ったのはナイだ。そして賢者ブリアックの知識が元になっているため、人知を超えているという訳ではない。
ただ、理解できないという意味では同じものだろう。
「派手にやるつもりだからな、まずお前たちを転移させる」
「まさか!転移魔法を?」
国王たちは驚いたが、それをナイは冷たい目で眺める。
「そんなわけないだろう?準備されている転移魔法陣を使うだけだ。まあ、王族しか使えないというのは面倒だからな、少し改変させてはもらうが」
当然といった風に言い放つが、国王たちはさらに驚いていた。
転移魔法陣は国家機密だ。なぜこのような少女が知っているのかと驚くのは仕方ないだろう。
アルベルトはというと、またナイが非常識なことをしてるなと思う程度で特に感想はない。
「しかし、魔力が……」
「結界を作っている魔道具の魔力を使う。結界は消えるが必要ないからな」
「な……賢者の魔法陣を書き換える?なぜそんなこ……」
国王が言い切るのを待つこともなく、そこにいたアルベルトとナイ以外の人間の姿が掻き消えたのだった。
「ああ、トリックスター!」
アルベルトはナイを抱きかかえたまま、何かをつかむように片手を前に突き出す。
一瞬だけ光が弾け、その光が収まった時にはその手に一本の剣が握られていた。
「それは!!?」
その剣の銘は『悪戯神』。
謁見の間に刺さっているはずの魔剣だった。
「この剣はオレが呼べば来るんだよ。理屈は分からん。鞘がないな。仕方ないか」
刀身がアルベルトとナイの顔を映しこむ。
ナイはアルベルトを軽く睨んでいた。
ナイは事細かにこの魔剣に使われている魔法について語っていた。
魔剣の力を使いこなしてもらうために講義したのに、あっさりとその理屈を憶えていないと言われたことに気分を害したのだ。
アルベルトは睨みつけるナイを可愛いと思ってしまい、軽く頭を撫でた。
「呼べば来る剣?結界は?」
目の前で剥き身の剣を持った男がいるというのに、近衛騎士たちは呆然と見つめるしかできない。
献上され二度とアルベルトの手に戻るはずがなかった魔剣が、一声呼ぶだけでその手の中にあるのだ。
誰もがその事実に驚いていた。
つまり、献上などまったく無意味だったことになる。
ならば、その魔剣が引き起こしたこの騒ぎはまったくの無駄骨だ。やっても意味がない行為をしたせいで、王族の存在を脅かすことになったのだ。
「アルベルト、打ち合わせ通りに行くぞ」
「ああ。大丈夫だ。式典なんかより気楽なもんだ」
抱きかかえていたナイを下ろし、アルベルトは片手で魔剣を振る。
そして、もう一方の手で腰に吊るしていた剣を抜いた。
二刀流だ。
アルベルト本来の戦闘スタイルではないが、対応できないわけではない。
近衛騎士たちは相変わらず、呆けたようになっていた。
その目は、アルベルトの剣を見つめていた。
「……魔剣が二本……?」
「これもトリックスターだ。ナイの話では元々は一本で分身のようなものらしい。並列的存在?ってやつらしい。オレは深く考えないことにしてる」
「どちらも本体でどちらも分身だ。同じものであり、別のものだ」
「はあ……」
国王の呟きにアルベルトとナイが答えたが、まったく理解できなかった。
やっぱり人知を超えたダンジョンコアの魔剣は凄いという感想を持っただけだ。
……もっとも、ダンジョンコアの魔剣という触れ込みになっているが、作ったのはナイだ。そして賢者ブリアックの知識が元になっているため、人知を超えているという訳ではない。
ただ、理解できないという意味では同じものだろう。
「派手にやるつもりだからな、まずお前たちを転移させる」
「まさか!転移魔法を?」
国王たちは驚いたが、それをナイは冷たい目で眺める。
「そんなわけないだろう?準備されている転移魔法陣を使うだけだ。まあ、王族しか使えないというのは面倒だからな、少し改変させてはもらうが」
当然といった風に言い放つが、国王たちはさらに驚いていた。
転移魔法陣は国家機密だ。なぜこのような少女が知っているのかと驚くのは仕方ないだろう。
アルベルトはというと、またナイが非常識なことをしてるなと思う程度で特に感想はない。
「しかし、魔力が……」
「結界を作っている魔道具の魔力を使う。結界は消えるが必要ないからな」
「な……賢者の魔法陣を書き換える?なぜそんなこ……」
国王が言い切るのを待つこともなく、そこにいたアルベルトとナイ以外の人間の姿が掻き消えたのだった。
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