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第一章
<はははは。うっかり見殺しにするところだった!>
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このダンジョンの地図を把握しているナイは、あっさりとダンジョンコアに続く通路を発見していた。
ナイの予想通り通路は鉄格子で閉鎖されていたが、ナイは簡単にすり抜けて通路に侵入した。
通路の奥にはダンジョンコア。
真っ黒で巨大な石柱だ。
闇を固めたような漆黒にも関わらず、それは淡く輝いていた。
ダンジョンコアの表面には文様が彫り込まれている。
ナイはダンジョンコアを見上げ、その文様に視線を這わせていた。
<やはり、呪術文字に似ているな。しかし、主殿は読み解けぬ文字だと言っていた>
呪術文字とは魔法陣の術式を構成している魔法文字の元になった文字だ。
古代民族が魔法の前身である呪術で使っていたらしい。今ではそれを使えるのはハイエルフなど長命な民族の一部と、研究していた賢者の数人くらいだろう。
もちろん、その数人に賢者ブリアックも含まれており、その研究を見続けていたナイも使える。
それでもなお、ダンジョンコアの表面の文様は読み解くことはできない。
<呪術文字より古い時代の文字ということだろうか?ダンジョンが作られた時代?うう……解読作業がしたい>
ナイは好奇心を満たしたい欲求に駆られるが、今はそんなことをしている場合ではない。初心者パーティーとその引率者の命がかかっている。
<時代は同じでも言語形態が別という可能性もあるな。というかその可能性が高いだろう。このあたりは呪術文字だと安定や楔を意味する文字に見えるが。>
しかし、自由気ままで、気まぐれな猫の性質がなかなかナイを開放してくれなかった。
<そもそもダンジョンそのものの謎が多すぎる。ダンジョンを作り出すためにのみ作られた、特殊な言語のための文字という可能性もあるな……>
ナイはダンジョンコアを見上げたまま、その周囲を歩く。
<ダンジョンコアのような立体物に記す前提の文字という可能性は?三次元的に影響を与えている?魔法陣も魔法文字を円形に配置することにより二次元的に干渉し合い魔法を発動させるではないか。それと同じような効果が……>
今度は床を見つめる。
<ダンジョンコアは床から生えるように立っておる。ならば、これだけが全てではなく地下にもあるのでは?もしかすると下にあるものが本体で……ダンジョンという巨大なものを制御しているのだから、これ単体で完結していると考えるよりは、さらに巨大なものの一部と考えるほうが……あああああ!>
ナイは頭の中で叫んだ。
<我も主殿のように、いや、普通の人間程度であっても文句は言わぬ!わずかでも魔法が使えれば、魔法を駆使して調べつくしてやるのに!この身が猫であることが恨めしい!>
そう考えたあたりで、地面から振動が伝わってきた。
<地震?いや、ダンジョン内は外の影響を受けないというのが定説……あっ!!>
その揺れは戦闘の振動だった。
それに気付いて、ナイはやっと自分がここに来た目的を思い出した。
<はははは。うっかり見殺しにするところだった!>
笑って誤魔化すが、それを聞いている者も誤魔化されるものもいない。
<さて、本来の目的に戻るか。だが、まあ、ほとんど期待できない、期待するのも馬鹿らしいくらい僅かな希望だがな>
ナイはゆっくりとダンジョンコアに近づき始めた。
ダンジョンコアは溜め込んだ魔力量に応じて、人の願いを叶える。
それは真実だ。過去に数多くの人間が願いを叶えてもらっている。
<ダンジョンコアは、猫である我の願いを叶えてくれるのか?興味深い実験だな>
ナイは金色の目を大きく見開いてダンジョンコアを見つめた。
この実験には問題が多い。
まず、ダンジョンコアが願いを叶えるのは人間だけなのかもしれない。
転移ポイントも、ダンジョン内の魔獣たちも猫であるナイには反応を示さない。
しかし、あれらはダンジョンコアにそういった設定をされているだけで、その根本となるダンジョンコアは違う反応を示すかもしれない。
ナイのように、人間と変わらない意識と知識を持った猫などという、特殊中の特殊な存在がダンジョンコアに触れた記録は、歴史を紐解くまでもなくあるはずがないのである。
結果は誰にもわからない。
そして、ダンジョンマスターが倒される前にダンジョンコアが願いを叶えるかもわからない。
ダンジョンコアへと続く通路の鉄格子は固く、ダンジョンマスターから逃げながらあの鉄格子を壊してダンジョンコアの元にたどり着いた者などいないのだから。
どう考えても、ナイが願いを叶えてもらえる確率は低い。
だが、絶対にありえないとは言えなかった。
<絶対にありえないと考えてあきらめる研究者は三流……だったな。主殿は良いことを言う>
ナイはダンジョンコアに近づくと、その肉球をペタリと当てた。
<さあ、我が願いを叶えてくれ!あの初心者パーティーを救ってくれ!>
ナイが触れた部分から、波紋のように何かが広がった。
それはダンジョンコア全体に広がり、鈴のような音を奏で始める。
その時、通路の向こう側から強烈な光が差し込んできたのだった。
ナイの予想通り通路は鉄格子で閉鎖されていたが、ナイは簡単にすり抜けて通路に侵入した。
通路の奥にはダンジョンコア。
真っ黒で巨大な石柱だ。
闇を固めたような漆黒にも関わらず、それは淡く輝いていた。
ダンジョンコアの表面には文様が彫り込まれている。
ナイはダンジョンコアを見上げ、その文様に視線を這わせていた。
<やはり、呪術文字に似ているな。しかし、主殿は読み解けぬ文字だと言っていた>
呪術文字とは魔法陣の術式を構成している魔法文字の元になった文字だ。
古代民族が魔法の前身である呪術で使っていたらしい。今ではそれを使えるのはハイエルフなど長命な民族の一部と、研究していた賢者の数人くらいだろう。
もちろん、その数人に賢者ブリアックも含まれており、その研究を見続けていたナイも使える。
それでもなお、ダンジョンコアの表面の文様は読み解くことはできない。
<呪術文字より古い時代の文字ということだろうか?ダンジョンが作られた時代?うう……解読作業がしたい>
ナイは好奇心を満たしたい欲求に駆られるが、今はそんなことをしている場合ではない。初心者パーティーとその引率者の命がかかっている。
<時代は同じでも言語形態が別という可能性もあるな。というかその可能性が高いだろう。このあたりは呪術文字だと安定や楔を意味する文字に見えるが。>
しかし、自由気ままで、気まぐれな猫の性質がなかなかナイを開放してくれなかった。
<そもそもダンジョンそのものの謎が多すぎる。ダンジョンを作り出すためにのみ作られた、特殊な言語のための文字という可能性もあるな……>
ナイはダンジョンコアを見上げたまま、その周囲を歩く。
<ダンジョンコアのような立体物に記す前提の文字という可能性は?三次元的に影響を与えている?魔法陣も魔法文字を円形に配置することにより二次元的に干渉し合い魔法を発動させるではないか。それと同じような効果が……>
今度は床を見つめる。
<ダンジョンコアは床から生えるように立っておる。ならば、これだけが全てではなく地下にもあるのでは?もしかすると下にあるものが本体で……ダンジョンという巨大なものを制御しているのだから、これ単体で完結していると考えるよりは、さらに巨大なものの一部と考えるほうが……あああああ!>
ナイは頭の中で叫んだ。
<我も主殿のように、いや、普通の人間程度であっても文句は言わぬ!わずかでも魔法が使えれば、魔法を駆使して調べつくしてやるのに!この身が猫であることが恨めしい!>
そう考えたあたりで、地面から振動が伝わってきた。
<地震?いや、ダンジョン内は外の影響を受けないというのが定説……あっ!!>
その揺れは戦闘の振動だった。
それに気付いて、ナイはやっと自分がここに来た目的を思い出した。
<はははは。うっかり見殺しにするところだった!>
笑って誤魔化すが、それを聞いている者も誤魔化されるものもいない。
<さて、本来の目的に戻るか。だが、まあ、ほとんど期待できない、期待するのも馬鹿らしいくらい僅かな希望だがな>
ナイはゆっくりとダンジョンコアに近づき始めた。
ダンジョンコアは溜め込んだ魔力量に応じて、人の願いを叶える。
それは真実だ。過去に数多くの人間が願いを叶えてもらっている。
<ダンジョンコアは、猫である我の願いを叶えてくれるのか?興味深い実験だな>
ナイは金色の目を大きく見開いてダンジョンコアを見つめた。
この実験には問題が多い。
まず、ダンジョンコアが願いを叶えるのは人間だけなのかもしれない。
転移ポイントも、ダンジョン内の魔獣たちも猫であるナイには反応を示さない。
しかし、あれらはダンジョンコアにそういった設定をされているだけで、その根本となるダンジョンコアは違う反応を示すかもしれない。
ナイのように、人間と変わらない意識と知識を持った猫などという、特殊中の特殊な存在がダンジョンコアに触れた記録は、歴史を紐解くまでもなくあるはずがないのである。
結果は誰にもわからない。
そして、ダンジョンマスターが倒される前にダンジョンコアが願いを叶えるかもわからない。
ダンジョンコアへと続く通路の鉄格子は固く、ダンジョンマスターから逃げながらあの鉄格子を壊してダンジョンコアの元にたどり着いた者などいないのだから。
どう考えても、ナイが願いを叶えてもらえる確率は低い。
だが、絶対にありえないとは言えなかった。
<絶対にありえないと考えてあきらめる研究者は三流……だったな。主殿は良いことを言う>
ナイはダンジョンコアに近づくと、その肉球をペタリと当てた。
<さあ、我が願いを叶えてくれ!あの初心者パーティーを救ってくれ!>
ナイが触れた部分から、波紋のように何かが広がった。
それはダンジョンコア全体に広がり、鈴のような音を奏で始める。
その時、通路の向こう側から強烈な光が差し込んできたのだった。
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