7 / 69
第一章
<むむ。まさか部屋に閉じ込められるとはな>
しおりを挟む
黒猫のナイは少し困っていた。
<むむ。まさか部屋に閉じ込められるとはな>
空腹を感じてエサをねだるために初心者パーティーに接触したのが間違いだった。
いつものようにエサをもらったらすぐに離れるつもりだったのだが、引率の男に捕獲され、ダンジョンの守衛所に預けられてしまったのである。
守衛所の人間もずっと監視しているわけにもいかず、ナイのことを小部屋に閉じ込めてしまったのだ。
<我を王都まで連れ帰ろうとしてくれるのはありがたいが、まったく、お節介な……>
ダンジョンの中を覗きに行く計画が台無しだ。
可能なら、こっそり初心者パーティーの後をつけ、その戦いの様子を観察するつもりだった。
<撫で方は上手かったが……。ふむ。あのような大きくずっしりと手で撫でられたのは初めてだったな>
守衛所に預ける時にナイは引率の男に抱かれていた。
がっしりとした筋肉質の腕は硬く安定していて抱かれ心地は悪くなかった。それに大きな手で抱いている間ずっと撫で続けていたのも評価できる。
元飼い主の賢者ブリアックは線の細い男だった。戦う時も魔法しか使わなかったため、手も細く柔らかかった。
そして、野良猫になってからは無用な危険を避けるために、優しそうな女性だけにエサをねだるようにしていた。
引率の男のような手で撫でられるのは、ナイにとって初めての体験だったのである。
<あのような強さを感じる手も、悪くはない>
ナイは撫でられた手の感触を思い出して目を細めた。
<……さて、こうしていても埒が明かぬな。抜け出すか。あそこからなら出られそうだが……>
ナイは遥か上方に空いている小さな窓を見つめる。
この部屋は問題を起こした人間を入れるための部屋なのか、正面のドア以外は出入口はない。そして、それ以外で外に出られそうなのは窓だけだ。
窓には鉄格子がはまっているが、猫であるナイなら余裕で通り抜けられる。
<問題は高さだな。足場は……>
周囲の状況を見て、即座に窓まで跳ね上がるルートを考える。
<こういう時に魔法が使えればと思うがな。猫の身ではどうにもならないな>
人間と違い、猫は魔法を使うことができない。
賢者の全てを見てきたナイは高度な魔法の知識を持っているが、それを利用することはできなかった。
<まあ、無い物ねだりは愚か者のすることだな。我は我でできることを模索するしかないか>
そう考えると、ナイは身体を小さく丸め、バネのごとき瞬発力を発揮して跳び上がる。
そして家具や壁のわずかな出っ張りを足場にして窓まで駆け上がった。
<では、楽しいダンジョン探索といくか>
笑みを浮かべると、その漆黒のシッポを大きく揺らした。
<むむ。まさか部屋に閉じ込められるとはな>
空腹を感じてエサをねだるために初心者パーティーに接触したのが間違いだった。
いつものようにエサをもらったらすぐに離れるつもりだったのだが、引率の男に捕獲され、ダンジョンの守衛所に預けられてしまったのである。
守衛所の人間もずっと監視しているわけにもいかず、ナイのことを小部屋に閉じ込めてしまったのだ。
<我を王都まで連れ帰ろうとしてくれるのはありがたいが、まったく、お節介な……>
ダンジョンの中を覗きに行く計画が台無しだ。
可能なら、こっそり初心者パーティーの後をつけ、その戦いの様子を観察するつもりだった。
<撫で方は上手かったが……。ふむ。あのような大きくずっしりと手で撫でられたのは初めてだったな>
守衛所に預ける時にナイは引率の男に抱かれていた。
がっしりとした筋肉質の腕は硬く安定していて抱かれ心地は悪くなかった。それに大きな手で抱いている間ずっと撫で続けていたのも評価できる。
元飼い主の賢者ブリアックは線の細い男だった。戦う時も魔法しか使わなかったため、手も細く柔らかかった。
そして、野良猫になってからは無用な危険を避けるために、優しそうな女性だけにエサをねだるようにしていた。
引率の男のような手で撫でられるのは、ナイにとって初めての体験だったのである。
<あのような強さを感じる手も、悪くはない>
ナイは撫でられた手の感触を思い出して目を細めた。
<……さて、こうしていても埒が明かぬな。抜け出すか。あそこからなら出られそうだが……>
ナイは遥か上方に空いている小さな窓を見つめる。
この部屋は問題を起こした人間を入れるための部屋なのか、正面のドア以外は出入口はない。そして、それ以外で外に出られそうなのは窓だけだ。
窓には鉄格子がはまっているが、猫であるナイなら余裕で通り抜けられる。
<問題は高さだな。足場は……>
周囲の状況を見て、即座に窓まで跳ね上がるルートを考える。
<こういう時に魔法が使えればと思うがな。猫の身ではどうにもならないな>
人間と違い、猫は魔法を使うことができない。
賢者の全てを見てきたナイは高度な魔法の知識を持っているが、それを利用することはできなかった。
<まあ、無い物ねだりは愚か者のすることだな。我は我でできることを模索するしかないか>
そう考えると、ナイは身体を小さく丸め、バネのごとき瞬発力を発揮して跳び上がる。
そして家具や壁のわずかな出っ張りを足場にして窓まで駆け上がった。
<では、楽しいダンジョン探索といくか>
笑みを浮かべると、その漆黒のシッポを大きく揺らした。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
呪われた侯爵は猫好き伯爵令嬢を溺愛する?
葉柚
恋愛
アンジェリカは、貧乏伯爵家のご令嬢。
適齢期なのに、あまりの猫好きのために婚約者候補より猫を優先するために、なかなか婚約者が決まらずにいた。
そんな中、国王陛下の命令で侯爵と婚約することになったのだが。
この侯爵、見目はいいのに、呪い持っているという噂。
アンジェリカはそんな侯爵の呪いを解いて幸せな結婚をすることができるのか……。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる