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夏 2
夏の漆 ドライミニトマトのパスタ
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戦いの時である。
「ふふふ……。今回は勝てる!」
昇り始めた夏の太陽。
まだ朝方だというのに照り付ける日差しはビクターの灰色の毛皮を輝かせている。
ビクターは『おいなり荘』の庭でスマホを握りしめ、画面を見つめていた。
そこに映し出されているのは天気予報アプリ。
本日の日付を頭に、太陽マークが並んでいた。
「今日から四日間は快晴。これならどう変化しても三日間は大丈夫なはず!今回は絶対負けねぇ!!」
ビクターは輝く太陽に向かって拳を握りしめ、牙を剥きだして吠えた。
「さて、準備をするか」
ビクターが吠えたところで誰も答えるわけがなく、一拍置いてビクターは冷静になると自分の部屋に戻っていった。
そして、部屋に戻ると冷蔵庫からビニール袋を取り出す。
袋の中身は大量のミニトマトだ。
おいなり壮の庭に並べたプランターで育てたものだ。
それを軽く洗ってから上下半分に切ってまな板の上に並べていく。
まな板いっぱいになったら、切り目を上にしてまんべんなく塩を振り、今度は大皿に敷いたキッチンペーパーの上に切り目を下にして並べていく。
そのまま一時間ほど放置。
キッチンペーパーにトマトの水分を吸わせておく。
これをしないと、水分の抜けが悪くて干しきれず、ビクターの負けが確定してしまうのだ。
そう、ビクターの戦いとは、ドライトマト作りだった。
真夏の日差しでミニトマトを干して、旨味たっぷりのドライトマトを作ろうとしているのである。
それがなぜ戦いになるのかというと、真夏の日差しが強いとっても湿度が高い日本の夏では、トマトのような水分が高い食材だと干してもすぐにカビが生えてしまうのだ。
ビクターが初めて作った時はそれが分かっておらず、適当に半切りにして外に干しておけばドライトマトになるだろうと考えて水分抜きもせず、塩すら振らずに干してしまった。
結果はカビて全滅。
すべて廃棄する羽目になってしまった。
反省して、その次に作った時はちゃんと塩を振って事前の水分抜きをして干したにもかかわらず、三日ほど干している間に雨の日があって干せずにまたカビてしまった。
本当に、トマトはカビやすい。
あまりの悔しさにビクターはカビたトマトからでも種だけは回収できるのではないかと考えて水洗いして種を回収、翌年に育てることにした。
ビクターにそんな知識は無かったが、そのミニトマトの種が雑種交配一代種ではなく固定種だったおかげで、次の年も同じミニトマトが収穫できた。
今、庭にはいくつかのミニトマトが植わったプランターがあるが、それはビクターの敗北の歴史なのである。
とにかく、それで何とか無駄にならなかったと思い込むことで心の平穏を保ったのだが、その時からビクターにとってドライトマト作りはカビとの戦いになった。
以降、ビクターは天気予報を確認してしっかりとした日照りが連続するときを選び、下準備もしっかりして作るようになったのだった。
……実際のところ、ドライトマトは天日干しに拘らずに低温のオーブンで乾燥させても作れるのだが、妙なところだけ負けず嫌いのビクターは天日干しに拘ってる。
オーブンを使うのは負けだと考えてすらいる。
味は変わらないのに……。
一時間ほどして、ある程度クッキングペーパーに水分が吸い取られたのを確認してから、ビクターは干し籠にドライトマトを移した。
干し籠はステンレス製のメッシュでできている、洗える衛生的なタイプのものだ。
冬場に大根を干して壺漬けを作ったり他にも干して加工する機会も多いので、ビクターはこういう道具だけは充実させている。
干し籠に切り目を上にしてミニトマトを並べ、メッシュの蓋を閉める。
虫が多い夏場には、メッシュでしっかり覆えて日差しは通す干し籠は便利だ。
そして、庭のできるだけ長く日差しが当たる場所を選んで干し始めるのだった。
三日後。
「……勝った……」
干しあがったドライトマトを見て、ビクターは感動に震えていた。
耳が自慢げにピンと立っている。
ドライトマトと言っても、まだ柔らかいセミドライくらいだ。これくらいの方がビクター好みだ。
洋風の出汁を取ったりするなら完全乾燥を目指した方がいいのだろうが、ビクターの使い方ではこちらの方が良かった。
三日間、朝から干して、夕方になったら状態を確かめてから夜露に当たらないように室内に入れる。
それを繰り返してビクターは勝利を手にした。
カビに打ち勝った。
丁寧にカビが無いのを確認して、それをオリーブオイルに漬けていく。
カラカラに乾燥させたドライトマトならそのままでいいが、まだ柔らかさを残している状態だと放置しておくとやっぱりカビる。
オリーブオイル漬けにするときに、唐辛子やニンニク、ハーブなどを一緒に漬けても風味が付いていい。
「今夜はこの勝利を味わおう……」
その日の夕食に、さっそくできたばかりのドライトマトを使うことビクターは決めた。
朝食などだとそのままパンに乗せても美味いが、夕食だとやはりボリュームが欲しいのでパスタだ。
スープにミネストローネを作り、サラダを作ってからビクターはドライトマトを使ったパスタに取り掛かった。
「ドライトマトだけじゃ、やっぱりちょっと寂しいな」
ドライトマトをしっかり味わいたい気持ちもあるが、やはり皿の中が寂しいのは良くない。
冷蔵庫をあさり、ベーコンと茄子を加えることに決めた。
まずパスタを茹で始めるのと同時に、フライパンオリーブオイルを入れてそこに刻んだニンニクと鷹の爪を入れる。
それを弱火でゆっくりと温めて、香りと辛みを移していった。
パスタの茹で加減を見ながら、中火にして香りと辛みが移った油でベーコンと茄子を炒め始める。ビクターはベーコンはちょっと焦げ気味にする方が好みだ。ナスは油を吸ってしんなりトロっとした方が良い。
塩コショウで軽く味をつけて、ドライトマトは焦げやすいのでちょっと遅めのタイミングで投入。
食材の火が通ってもパスタが茹で上がってなかったら、火を弱めたりして時間調整。
パスタが茹で上がったらザルに開けるが、ビクターはこの時にしっかりと湯を切らず、ゆで汁も一緒に入るくらいの方がパスタとオリーブオイルが馴染む気がする。
乳化とかいう現象が起こるのだろう。
火を弱めてた場合は中火に戻して、サッと混ぜ合わせ、味見をしてから足りなければ塩コショウを追加。いろどりにカイワレを載せて粉チーズを振れば完成だ。
「ワインあったよな?もらったやつ」
パスタにはやはりワインだろう。
ビクターは戸棚からワインを取り出し開けた。
地元産のブドウを使ったワインで、甘みが強いものだ。
そのまま食べる品種のブドウを使っているため、ワインというよりジュースのような味わいだが、十分美味しい。
結婚祝いのお返しにもらったもので、ワインはあまり飲まないため放置していたものだった。
「それじゃ、かんぱーい!ざまみろ、カビ野郎!!」
グラスを掲げてから、一気に飲み干す。
そしてドライトマトのパスタを豪快に口に入れた。
噛むと、トマトの干して凝縮された旨味が一気に口の中に広がっていく。ベーコンにも負けてない。
「美味い!」
まさに勝利の喜びを噛み締めるビクターだった。
※※ 今までカテゴリをファンタジーにしていましたが、キャラ文芸の方が相応しい気がしたのでカテゴリ変更しました。
「ふふふ……。今回は勝てる!」
昇り始めた夏の太陽。
まだ朝方だというのに照り付ける日差しはビクターの灰色の毛皮を輝かせている。
ビクターは『おいなり荘』の庭でスマホを握りしめ、画面を見つめていた。
そこに映し出されているのは天気予報アプリ。
本日の日付を頭に、太陽マークが並んでいた。
「今日から四日間は快晴。これならどう変化しても三日間は大丈夫なはず!今回は絶対負けねぇ!!」
ビクターは輝く太陽に向かって拳を握りしめ、牙を剥きだして吠えた。
「さて、準備をするか」
ビクターが吠えたところで誰も答えるわけがなく、一拍置いてビクターは冷静になると自分の部屋に戻っていった。
そして、部屋に戻ると冷蔵庫からビニール袋を取り出す。
袋の中身は大量のミニトマトだ。
おいなり壮の庭に並べたプランターで育てたものだ。
それを軽く洗ってから上下半分に切ってまな板の上に並べていく。
まな板いっぱいになったら、切り目を上にしてまんべんなく塩を振り、今度は大皿に敷いたキッチンペーパーの上に切り目を下にして並べていく。
そのまま一時間ほど放置。
キッチンペーパーにトマトの水分を吸わせておく。
これをしないと、水分の抜けが悪くて干しきれず、ビクターの負けが確定してしまうのだ。
そう、ビクターの戦いとは、ドライトマト作りだった。
真夏の日差しでミニトマトを干して、旨味たっぷりのドライトマトを作ろうとしているのである。
それがなぜ戦いになるのかというと、真夏の日差しが強いとっても湿度が高い日本の夏では、トマトのような水分が高い食材だと干してもすぐにカビが生えてしまうのだ。
ビクターが初めて作った時はそれが分かっておらず、適当に半切りにして外に干しておけばドライトマトになるだろうと考えて水分抜きもせず、塩すら振らずに干してしまった。
結果はカビて全滅。
すべて廃棄する羽目になってしまった。
反省して、その次に作った時はちゃんと塩を振って事前の水分抜きをして干したにもかかわらず、三日ほど干している間に雨の日があって干せずにまたカビてしまった。
本当に、トマトはカビやすい。
あまりの悔しさにビクターはカビたトマトからでも種だけは回収できるのではないかと考えて水洗いして種を回収、翌年に育てることにした。
ビクターにそんな知識は無かったが、そのミニトマトの種が雑種交配一代種ではなく固定種だったおかげで、次の年も同じミニトマトが収穫できた。
今、庭にはいくつかのミニトマトが植わったプランターがあるが、それはビクターの敗北の歴史なのである。
とにかく、それで何とか無駄にならなかったと思い込むことで心の平穏を保ったのだが、その時からビクターにとってドライトマト作りはカビとの戦いになった。
以降、ビクターは天気予報を確認してしっかりとした日照りが連続するときを選び、下準備もしっかりして作るようになったのだった。
……実際のところ、ドライトマトは天日干しに拘らずに低温のオーブンで乾燥させても作れるのだが、妙なところだけ負けず嫌いのビクターは天日干しに拘ってる。
オーブンを使うのは負けだと考えてすらいる。
味は変わらないのに……。
一時間ほどして、ある程度クッキングペーパーに水分が吸い取られたのを確認してから、ビクターは干し籠にドライトマトを移した。
干し籠はステンレス製のメッシュでできている、洗える衛生的なタイプのものだ。
冬場に大根を干して壺漬けを作ったり他にも干して加工する機会も多いので、ビクターはこういう道具だけは充実させている。
干し籠に切り目を上にしてミニトマトを並べ、メッシュの蓋を閉める。
虫が多い夏場には、メッシュでしっかり覆えて日差しは通す干し籠は便利だ。
そして、庭のできるだけ長く日差しが当たる場所を選んで干し始めるのだった。
三日後。
「……勝った……」
干しあがったドライトマトを見て、ビクターは感動に震えていた。
耳が自慢げにピンと立っている。
ドライトマトと言っても、まだ柔らかいセミドライくらいだ。これくらいの方がビクター好みだ。
洋風の出汁を取ったりするなら完全乾燥を目指した方がいいのだろうが、ビクターの使い方ではこちらの方が良かった。
三日間、朝から干して、夕方になったら状態を確かめてから夜露に当たらないように室内に入れる。
それを繰り返してビクターは勝利を手にした。
カビに打ち勝った。
丁寧にカビが無いのを確認して、それをオリーブオイルに漬けていく。
カラカラに乾燥させたドライトマトならそのままでいいが、まだ柔らかさを残している状態だと放置しておくとやっぱりカビる。
オリーブオイル漬けにするときに、唐辛子やニンニク、ハーブなどを一緒に漬けても風味が付いていい。
「今夜はこの勝利を味わおう……」
その日の夕食に、さっそくできたばかりのドライトマトを使うことビクターは決めた。
朝食などだとそのままパンに乗せても美味いが、夕食だとやはりボリュームが欲しいのでパスタだ。
スープにミネストローネを作り、サラダを作ってからビクターはドライトマトを使ったパスタに取り掛かった。
「ドライトマトだけじゃ、やっぱりちょっと寂しいな」
ドライトマトをしっかり味わいたい気持ちもあるが、やはり皿の中が寂しいのは良くない。
冷蔵庫をあさり、ベーコンと茄子を加えることに決めた。
まずパスタを茹で始めるのと同時に、フライパンオリーブオイルを入れてそこに刻んだニンニクと鷹の爪を入れる。
それを弱火でゆっくりと温めて、香りと辛みを移していった。
パスタの茹で加減を見ながら、中火にして香りと辛みが移った油でベーコンと茄子を炒め始める。ビクターはベーコンはちょっと焦げ気味にする方が好みだ。ナスは油を吸ってしんなりトロっとした方が良い。
塩コショウで軽く味をつけて、ドライトマトは焦げやすいのでちょっと遅めのタイミングで投入。
食材の火が通ってもパスタが茹で上がってなかったら、火を弱めたりして時間調整。
パスタが茹で上がったらザルに開けるが、ビクターはこの時にしっかりと湯を切らず、ゆで汁も一緒に入るくらいの方がパスタとオリーブオイルが馴染む気がする。
乳化とかいう現象が起こるのだろう。
火を弱めてた場合は中火に戻して、サッと混ぜ合わせ、味見をしてから足りなければ塩コショウを追加。いろどりにカイワレを載せて粉チーズを振れば完成だ。
「ワインあったよな?もらったやつ」
パスタにはやはりワインだろう。
ビクターは戸棚からワインを取り出し開けた。
地元産のブドウを使ったワインで、甘みが強いものだ。
そのまま食べる品種のブドウを使っているため、ワインというよりジュースのような味わいだが、十分美味しい。
結婚祝いのお返しにもらったもので、ワインはあまり飲まないため放置していたものだった。
「それじゃ、かんぱーい!ざまみろ、カビ野郎!!」
グラスを掲げてから、一気に飲み干す。
そしてドライトマトのパスタを豪快に口に入れた。
噛むと、トマトの干して凝縮された旨味が一気に口の中に広がっていく。ベーコンにも負けてない。
「美味い!」
まさに勝利の喜びを噛み締めるビクターだった。
※※ 今までカテゴリをファンタジーにしていましたが、キャラ文芸の方が相応しい気がしたのでカテゴリ変更しました。
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