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夏 2
夏の捌 揚げ加茂茄子田楽
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「お!加茂茄子がある!」
加茂茄子は京都の伝統野菜だ。
京都産の加茂茄子はブランド野菜として高値で取引されている。
しかし京都でしか作れないわけではなく、当然ながらどこの土地でも作ることはできる。
ビクターが働いている農協の直売所でも、たまに農家の人が自分の畑で作った物が出品されるのだった。
目ざとくそれを見つけたビクターは、働いている者の特権で真っ先にそれを買ったのだった。
ボールのようにきれいな丸型をした加茂茄子は、米茄子に似て米茄子にない美味さがある。
特に熱を加えた時の中のねっとりとした触感は素晴らしい。
それを楽しむためにも、中の種が育っていない小ぶりで、それでいて水分の多そうな重みのあるのを選んだ。
切って焼いても美味しいが、一番はできるだけ形を残して揚げた物だろう。
「揚げ出しもいいけど、やっぱり田楽だよな」
そう呟きながら、ビクターはすでに夕食に思いを馳せるのだった。
夜になり、ビクターはさっそく夕食の準備を始める。
揚げ物・焼き物は出来立てを食べる主義なので、先に副菜の準備をしておく。
夏らしく茗荷冷奴やレタスを買ったばかりなのでレタス外葉のポン酢おひたしなど。
酒の準備も完璧だ。
そしてメインの揚げ茄子田楽だ。
まずは田楽味噌を作る。
ビクターは八丁味噌の風味は好きだが、渋みとえぐみは好きじゃないので、西京味噌と八丁味噌を合わせて作る。
メインは西京味噌で、八丁味噌は風味付け程度にしか入れない。
鍋で作ると焦げ付きやすいので、ビクターはミニフライパンを準備した。
ミニフライパンに西京味噌をスプーンに山盛り、八丁味噌は小指の先程度入れ、そこに料理酒を入れてかき混ぜて溶かしていく。
料理酒はどうせ水分を飛ばすので、多めでもいい。
味噌を溶くのには多めの方がやりやすい。
すりゴマを少し入れ、砂糖を少々。
そして、火をつけた。
弱火でじっくりと、木べらで底から混ぜながら火を入れ水分を飛ばしていく。
砂糖は煮詰まってくると味が濃くなるので、最初は少なめ、味見しつつ加えて味を調整。味噌の味が強いので、甘みも強め。ねっとりとした感じになり、照りが出たら完成だ。
「よし!」
最後にもう一度味見をしてから、ビクターは満足げに鼻先を舐めた。
出来上がった田楽味噌は火を止めてフライパンのまま横に避けて、粗熱を取っておく。
次は加茂茄子だ。
茄子のヘタとお尻の部分を切り落とし、さらに一部皮を剥いておく。
皮が堅そうなら縦に虎縞上に剥いてもいいが、あまり剥きすぎると火を通してくったりした茄子が自立できなくなるので、ほどほどに。
今回は皮は薄そうなので、上下だけ軽く剥いた。
ほぼ丸ごとの状態で揚げるので、火が通りやすいように上から下に貫通するように菜箸で数か所穴をあけておく。
この菜箸を刺して穴をあける時の感触が、地味に好きなビクターだ。
菜種油を百八十度に温め、揚げ初めだ。
ほぼ丸ごとの加茂茄子全体を浸けて揚げようとすると深い鍋と大量に油が必要になるが、面倒なのでビクターは半分だけ浸かる程度の油しか準備していない。
ひっくり返して揚げればいいだけだ。
茄子は素揚げ。
油に入れると、気持ちいい音とともにあけた穴からも油の泡が盛り上がってくる。
「あ、付け合わせに万願寺唐辛子も素揚げしよう」
思いついて冷蔵庫から万願寺唐辛子を取り出す。
焼いても揚げても煮ても美味しいしちょっとした副菜にできるので、万願寺唐辛子は夏の間は常備している。
万願寺唐辛子は丸ごと揚げると中の空気が膨らんで爆発することがあるので、包丁の先で側面に少し穴をあけておく。
ビクターも昔に爆発させたことがある。
油が周りに飛び散り、鼻先を火傷する大惨事になった。それ以来、絶対に穴あけを忘れないようにしている。
海老天で同じようなことをやらかして、それ以降は初めて油で揚げる食材のときは事前にネットで爆発しないかどうか調べる癖がついたのだった。
ちなみに、茄子もヘタなどを切らずに丸ごと揚げようとすると中の水分が膨らんで爆発するので注意だ。
揚げ物ではないが、ビクターも焼きナスを作るときにグリルで丸ごと焼いた時は爆発して掃除が大変だった。
大きな茄子を丸ごと揚げる人はいないだろうが、小茄子などはうっかり揚げてしまうかもしれない。
とにかく爆発怖い。
万願寺唐辛子はすぐに火が通るのでさっと揚げる程度。
加茂茄子はひっくり返しながら揚げて、皮を剥いた部分が軽くキツネ色になりクッタリと柔らかくなるくらいになったら出来上がりだ。
揚がったら軽く油を切って器に盛り、田楽味噌を上に乗せる。
「よしよし、いい感じだ!いただきます!」
食卓に並べると、熱いうちに食べ始めた。
大きく切り取り口に放り込むと、熱々の茄子の果肉がトロリと口の中に広がる。
それに甘辛い味噌が合う。
ハフハフと冷ましながら飲み込み、満足げに口元に付いた味噌を舐めとった。
そして、日本酒を流し込む。
「くぅーーー。美味い!」
目を細め、満足げに呟くビクターだった。
加茂茄子は京都の伝統野菜だ。
京都産の加茂茄子はブランド野菜として高値で取引されている。
しかし京都でしか作れないわけではなく、当然ながらどこの土地でも作ることはできる。
ビクターが働いている農協の直売所でも、たまに農家の人が自分の畑で作った物が出品されるのだった。
目ざとくそれを見つけたビクターは、働いている者の特権で真っ先にそれを買ったのだった。
ボールのようにきれいな丸型をした加茂茄子は、米茄子に似て米茄子にない美味さがある。
特に熱を加えた時の中のねっとりとした触感は素晴らしい。
それを楽しむためにも、中の種が育っていない小ぶりで、それでいて水分の多そうな重みのあるのを選んだ。
切って焼いても美味しいが、一番はできるだけ形を残して揚げた物だろう。
「揚げ出しもいいけど、やっぱり田楽だよな」
そう呟きながら、ビクターはすでに夕食に思いを馳せるのだった。
夜になり、ビクターはさっそく夕食の準備を始める。
揚げ物・焼き物は出来立てを食べる主義なので、先に副菜の準備をしておく。
夏らしく茗荷冷奴やレタスを買ったばかりなのでレタス外葉のポン酢おひたしなど。
酒の準備も完璧だ。
そしてメインの揚げ茄子田楽だ。
まずは田楽味噌を作る。
ビクターは八丁味噌の風味は好きだが、渋みとえぐみは好きじゃないので、西京味噌と八丁味噌を合わせて作る。
メインは西京味噌で、八丁味噌は風味付け程度にしか入れない。
鍋で作ると焦げ付きやすいので、ビクターはミニフライパンを準備した。
ミニフライパンに西京味噌をスプーンに山盛り、八丁味噌は小指の先程度入れ、そこに料理酒を入れてかき混ぜて溶かしていく。
料理酒はどうせ水分を飛ばすので、多めでもいい。
味噌を溶くのには多めの方がやりやすい。
すりゴマを少し入れ、砂糖を少々。
そして、火をつけた。
弱火でじっくりと、木べらで底から混ぜながら火を入れ水分を飛ばしていく。
砂糖は煮詰まってくると味が濃くなるので、最初は少なめ、味見しつつ加えて味を調整。味噌の味が強いので、甘みも強め。ねっとりとした感じになり、照りが出たら完成だ。
「よし!」
最後にもう一度味見をしてから、ビクターは満足げに鼻先を舐めた。
出来上がった田楽味噌は火を止めてフライパンのまま横に避けて、粗熱を取っておく。
次は加茂茄子だ。
茄子のヘタとお尻の部分を切り落とし、さらに一部皮を剥いておく。
皮が堅そうなら縦に虎縞上に剥いてもいいが、あまり剥きすぎると火を通してくったりした茄子が自立できなくなるので、ほどほどに。
今回は皮は薄そうなので、上下だけ軽く剥いた。
ほぼ丸ごとの状態で揚げるので、火が通りやすいように上から下に貫通するように菜箸で数か所穴をあけておく。
この菜箸を刺して穴をあける時の感触が、地味に好きなビクターだ。
菜種油を百八十度に温め、揚げ初めだ。
ほぼ丸ごとの加茂茄子全体を浸けて揚げようとすると深い鍋と大量に油が必要になるが、面倒なのでビクターは半分だけ浸かる程度の油しか準備していない。
ひっくり返して揚げればいいだけだ。
茄子は素揚げ。
油に入れると、気持ちいい音とともにあけた穴からも油の泡が盛り上がってくる。
「あ、付け合わせに万願寺唐辛子も素揚げしよう」
思いついて冷蔵庫から万願寺唐辛子を取り出す。
焼いても揚げても煮ても美味しいしちょっとした副菜にできるので、万願寺唐辛子は夏の間は常備している。
万願寺唐辛子は丸ごと揚げると中の空気が膨らんで爆発することがあるので、包丁の先で側面に少し穴をあけておく。
ビクターも昔に爆発させたことがある。
油が周りに飛び散り、鼻先を火傷する大惨事になった。それ以来、絶対に穴あけを忘れないようにしている。
海老天で同じようなことをやらかして、それ以降は初めて油で揚げる食材のときは事前にネットで爆発しないかどうか調べる癖がついたのだった。
ちなみに、茄子もヘタなどを切らずに丸ごと揚げようとすると中の水分が膨らんで爆発するので注意だ。
揚げ物ではないが、ビクターも焼きナスを作るときにグリルで丸ごと焼いた時は爆発して掃除が大変だった。
大きな茄子を丸ごと揚げる人はいないだろうが、小茄子などはうっかり揚げてしまうかもしれない。
とにかく爆発怖い。
万願寺唐辛子はすぐに火が通るのでさっと揚げる程度。
加茂茄子はひっくり返しながら揚げて、皮を剥いた部分が軽くキツネ色になりクッタリと柔らかくなるくらいになったら出来上がりだ。
揚がったら軽く油を切って器に盛り、田楽味噌を上に乗せる。
「よしよし、いい感じだ!いただきます!」
食卓に並べると、熱いうちに食べ始めた。
大きく切り取り口に放り込むと、熱々の茄子の果肉がトロリと口の中に広がる。
それに甘辛い味噌が合う。
ハフハフと冷ましながら飲み込み、満足げに口元に付いた味噌を舐めとった。
そして、日本酒を流し込む。
「くぅーーー。美味い!」
目を細め、満足げに呟くビクターだった。
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