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その金切り声に空気が一気に変わった。
「私が貴方を貰ってあげるって言ってるのに!なんでこんなことするの!?」
拘束している女騎士の腕を抜け出そうともがき、ロレッタは野獣の様に吠えた。
「貴方自身が原因です。貴方は強欲過ぎた。両親が与えてくれるのをよいことに、あらゆるものを欲しがり手を入れてきた。それだけならまだよかった。貴方は物を手に入れるだけでは満足できなくなり、人の心さえ手に入れようとした。物を贈る人の愛情、そして、奪われる人の絶望や憎悪まで。貴方はその奪ってきた感情に潰されたのですよ」
モーリスは贈り物をすることで、ロレッタが何のために奪おうとしているのか調べていたのだった。
そして、両親が何のためにロレッタに与え続けていたのかも。
ロレッタは、物を欲しがっていたわけではなかった。
もし贈り物そのものが欲しかったのであれば、彼女が嫌いな虫の標本など不気味な物品まで奪っていくはずがない。
ロレッタが欲しがっていたのは、その贈り物に込められた人の心だ。
それを奪うことで贈った者の行為を踏みにじり、奪われた者たちの絶望を感じて優越感を持とうとした。
「公爵夫妻も自分勝手な愛情を注ぎ、ロレッタ嬢が歪むに任せてきた。娘のためではなく、貴方たち自身の欲望を満たすために娘を利用していた。許されることではありません」
両親がロレッタに様々な物を与えていたのも、ロレッタのためではない。
ロレッタのためであれば彼女にとって害になるようなものは与えなかっただろう。
奪うことで発生する直接的、間接的な影響を考えて、奪うことは良くないことだと躾けていたに違いない。
両親は自分たちの娘を愛している気持ちを安易に満たすために、ロレッタを甘やかしていたにすぎない。
ロレッタがどうなろうと関係なかった。
どちらの行為も貴族どころか、人としても許されることではない。
自己中心的な行動は、傲慢な貴族の姿そのものだった。
罪こそ犯していないが、とても正しい姿とはいえなかった。
「貴方たちには更生施設で貴族として正しい生き方を学んでいただきます。その間の領地経営は国から派遣される代官が問題なく行ってくれますのでご安心を。更生した暁には今までの地位に返り咲けますので、心して学んでください」
それだけ言うと、モーリスはサッと片手を上げる。
その合図で騎士たちは引きずるように両親とロレッタを連れ去っていった。
「どうしてなの!?どうしてなのよー!!」
ロレッタのむなしい叫びが遠ざかっていくのが聞こえた。
騎士団が引き上げ、モーリスは呆然としている公爵家の使用人たちに各々の部屋で待機しているように指示を出す。
公爵夫妻に従っていただけとはいえ、彼らもまた盲目的に従うだけで正しく役目を果たさなかった者たちだ。
少なからず何らかの対応がなされるだろう。
「……リシェンヌ。すまない」
「え?」
二人っきりとなり、モーリスはリシェンヌに頭を下げた。
その姿に、リシェンヌは戸惑った。
「血の繋がった家族が連れ出される場面を見せるつもりはなかった。私の甘さの招いたことだ。すまない」
モーリスはできるだけ穏便に事を進めるつもりだった。リシェンヌが傷つかないように、様々な対処を考えていた。
しかしその計画は、ロレッタの不意の突撃にすべて壊されてしまった。
結果として、リシェンヌの前で断罪し、騎士団の手で連れ去るような状況になってしまった。
そのことを、モーリスは悔いて頭を下げたのだった。
「いえ、お気になさらずに」
リシェンヌの心は不思議なほどに凪いでいる。
普通であれば血を分けた家族のこんな場面を見たら冷静ではいられないだろう。
しかし、リシェンヌは何の興味を持てなかった。
家族などより、誠実に謝ってくれるモーリスに心を動かされていた。
「それに……その、先ほどは勢いで、こんな場面で求婚してしまって……。そちらも、申し訳なかった!」
再度深く、モーリスは頭を下げた。
先ほどは勢いで行ってしまったが、相応しい状況でなったと後悔しているのだろう。彼の顔は真っ赤だ。
「あらためて、正式な場で……」
「嬉しかったです!私を、私自身を求めてくれる人は初めてだったのです」
リシェンヌはなおも謝罪を続けようとしたモーリスの言葉に重ねるように言った。
言葉を遮るような行為がマナー違反であることは分かっていたが、伝えたい気持ちが勝った。
その言葉に、モーリスは慌てて顔を上げる。
そして、リシェンヌの瞳を見つめる。
リシェンヌの瞳は潤み、今にも涙がこぼれそうだった。
それは喜びの涙だ。
「それでは」
「あっ、すみません!言葉を遮ってしまって……」
「いえ、その、では」
「はい」
ゆっくりと、モーリスの暖かい手がリシェンヌの頬に触れる。
そしてその指が、流れ落ちようとしていた涙をそっと拭った。
「リシェンヌ嬢。では私と……」
リシェンヌは頬に触れているモーリスの手に自分の手を重ねる。
「はい。モーリス様。結婚させてください」
「……ありがとう!」
二人の影が重なる。
その瞬間、リシェンヌは実験ではない本当の贈り物をモーリスから貰った。
モーリスからリシェンヌへの最初の贈り物は、情熱的なキスだった。
「私が貴方を貰ってあげるって言ってるのに!なんでこんなことするの!?」
拘束している女騎士の腕を抜け出そうともがき、ロレッタは野獣の様に吠えた。
「貴方自身が原因です。貴方は強欲過ぎた。両親が与えてくれるのをよいことに、あらゆるものを欲しがり手を入れてきた。それだけならまだよかった。貴方は物を手に入れるだけでは満足できなくなり、人の心さえ手に入れようとした。物を贈る人の愛情、そして、奪われる人の絶望や憎悪まで。貴方はその奪ってきた感情に潰されたのですよ」
モーリスは贈り物をすることで、ロレッタが何のために奪おうとしているのか調べていたのだった。
そして、両親が何のためにロレッタに与え続けていたのかも。
ロレッタは、物を欲しがっていたわけではなかった。
もし贈り物そのものが欲しかったのであれば、彼女が嫌いな虫の標本など不気味な物品まで奪っていくはずがない。
ロレッタが欲しがっていたのは、その贈り物に込められた人の心だ。
それを奪うことで贈った者の行為を踏みにじり、奪われた者たちの絶望を感じて優越感を持とうとした。
「公爵夫妻も自分勝手な愛情を注ぎ、ロレッタ嬢が歪むに任せてきた。娘のためではなく、貴方たち自身の欲望を満たすために娘を利用していた。許されることではありません」
両親がロレッタに様々な物を与えていたのも、ロレッタのためではない。
ロレッタのためであれば彼女にとって害になるようなものは与えなかっただろう。
奪うことで発生する直接的、間接的な影響を考えて、奪うことは良くないことだと躾けていたに違いない。
両親は自分たちの娘を愛している気持ちを安易に満たすために、ロレッタを甘やかしていたにすぎない。
ロレッタがどうなろうと関係なかった。
どちらの行為も貴族どころか、人としても許されることではない。
自己中心的な行動は、傲慢な貴族の姿そのものだった。
罪こそ犯していないが、とても正しい姿とはいえなかった。
「貴方たちには更生施設で貴族として正しい生き方を学んでいただきます。その間の領地経営は国から派遣される代官が問題なく行ってくれますのでご安心を。更生した暁には今までの地位に返り咲けますので、心して学んでください」
それだけ言うと、モーリスはサッと片手を上げる。
その合図で騎士たちは引きずるように両親とロレッタを連れ去っていった。
「どうしてなの!?どうしてなのよー!!」
ロレッタのむなしい叫びが遠ざかっていくのが聞こえた。
騎士団が引き上げ、モーリスは呆然としている公爵家の使用人たちに各々の部屋で待機しているように指示を出す。
公爵夫妻に従っていただけとはいえ、彼らもまた盲目的に従うだけで正しく役目を果たさなかった者たちだ。
少なからず何らかの対応がなされるだろう。
「……リシェンヌ。すまない」
「え?」
二人っきりとなり、モーリスはリシェンヌに頭を下げた。
その姿に、リシェンヌは戸惑った。
「血の繋がった家族が連れ出される場面を見せるつもりはなかった。私の甘さの招いたことだ。すまない」
モーリスはできるだけ穏便に事を進めるつもりだった。リシェンヌが傷つかないように、様々な対処を考えていた。
しかしその計画は、ロレッタの不意の突撃にすべて壊されてしまった。
結果として、リシェンヌの前で断罪し、騎士団の手で連れ去るような状況になってしまった。
そのことを、モーリスは悔いて頭を下げたのだった。
「いえ、お気になさらずに」
リシェンヌの心は不思議なほどに凪いでいる。
普通であれば血を分けた家族のこんな場面を見たら冷静ではいられないだろう。
しかし、リシェンヌは何の興味を持てなかった。
家族などより、誠実に謝ってくれるモーリスに心を動かされていた。
「それに……その、先ほどは勢いで、こんな場面で求婚してしまって……。そちらも、申し訳なかった!」
再度深く、モーリスは頭を下げた。
先ほどは勢いで行ってしまったが、相応しい状況でなったと後悔しているのだろう。彼の顔は真っ赤だ。
「あらためて、正式な場で……」
「嬉しかったです!私を、私自身を求めてくれる人は初めてだったのです」
リシェンヌはなおも謝罪を続けようとしたモーリスの言葉に重ねるように言った。
言葉を遮るような行為がマナー違反であることは分かっていたが、伝えたい気持ちが勝った。
その言葉に、モーリスは慌てて顔を上げる。
そして、リシェンヌの瞳を見つめる。
リシェンヌの瞳は潤み、今にも涙がこぼれそうだった。
それは喜びの涙だ。
「それでは」
「あっ、すみません!言葉を遮ってしまって……」
「いえ、その、では」
「はい」
ゆっくりと、モーリスの暖かい手がリシェンヌの頬に触れる。
そしてその指が、流れ落ちようとしていた涙をそっと拭った。
「リシェンヌ嬢。では私と……」
リシェンヌは頬に触れているモーリスの手に自分の手を重ねる。
「はい。モーリス様。結婚させてください」
「……ありがとう!」
二人の影が重なる。
その瞬間、リシェンヌは実験ではない本当の贈り物をモーリスから貰った。
モーリスからリシェンヌへの最初の贈り物は、情熱的なキスだった。
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